表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
172/192

黄金の扉

 バーニングモール──炎を吐く巨大モグラ型の魔物──の最後の死骸を、ラゼルは炎の穴へと蹴り飛ばし、息を吐いた。


「……よし、これで片がついたな」

「うん、もういない。お腹減った」


 サラが周囲を見回す。彼女の鋭い五感にも、魔物の気配はもう一つも引っ掛からなかった。

 炎の穴を越えた先で、一行は足を止め、小休憩を取ることにした。


 ノルドが薄い蜂蜜水のボトルと、サンドイッチなどの軽食を取り出す。だが、ヴァルとサラを除き、暑さと緊張のせいで食は進まない。


「そうだ、シルヴィアさんとリーヴァさん、コートを交換しましょう。裂けてます」

「……どうしましょう。高価なコートを破いてしまって」


 ふたりは肩を落とす。

「破いたのはモグラです。替えはまだありますから」

 ノルドは軽く笑いながら答えた。


 東方旅団が持ってきた消化薬コート──の原料は、荷馬車二台分にも及ぶ。


「多すぎますよ。皆さんの予備を作っても余ります。買取ましょうか?」

 ノルドの提案に、旅団員たちは首を横に振った。

「やるよ。色々使い道があるんだろ? でも加工代を値引きなんてしないでくれよ。お前の母さんの内職なんだろ?」

「ええ。でも急ぎなら他の職人にも頼めますよ。母の加工代は高いですから」


「確かにな。だが妥当な金額だ。俺たちが、大陸有数の装飾人──セラ・グラシアス──の名前を知らないとでも?」

 その名前を聞いた瞬間、ノルドの顔がひきつった。


 ……当たり前だ。母は確かに最高の装飾家だが、そんな名前ではない。

「ははは、消化薬コートを頼むのは俺たちくらいだろうな。でも一度くらいは着たいんだよな、セラ・グラシアスの作品を」


 繰り返される謎の偽名に、ノルドの顔はさらに赤く染まる。

 だが東方旅団の面々は、それを照れ隠しだと勘違いしているらしい。


「グラシアスさん、許さない」

 後日、密告したセラから、グラシアスはしっかり怒られていた。

「いや、その方が身元を隠せるだろう?」

「ふざけないでよ」


 まるで恋人たちの痴話げんかのようで、ノルドはなんとも言えない気分になった。

 休憩を終えた一行は先へ進む。

 熱気に包まれていたはずのダンジョンは、やがて壁から海水が滲み出すエリアへと変わっていた。このダンジョンの外は海だろうか。


「未開拓エリアになります。気をつけて行きましょう」

 ノルドの忠告にもかかわらず、ラゼルは彼の進みたい方向とは逆を選び、結果このゾーンに来てしまった。


 しかし不思議なことに、魔物の気配がまったくない。

「おい、ここらの壁……光ってないか?」

 ロッカが目を丸くする。

「確かに……ここは採掘に向いてそうだ。ただし警戒は怠るな」


 ラゼルの声に、ロッカたちが採掘を始める。フィオナとラゼルは通路を眺めたり、採掘の様子をちらりと見る程度だ。


 採掘は順調だった。ノルドは掘り出された鉱石や原石を手際よく整理し、収納していく。

 短時間で、かなりの高額収入が見込めそうだ。

 魔物が現れることもなく、警備に飽きたヴァルとサラは、壁を登ったり飛び跳ねたりして遊び出す。


「今日は四階層初日です。これくらいにしましょう」

 疲労は目に見えない形で蓄積していくものだ。ノルドは帰還の準備を始めた。

 そのとき、奥から声がした。


「おい! 荷運び、これはなんだ?」

 いつの間にかラゼルが一人で先行していた。

 彼の声は、ノルドの敏感な耳にしっかり届く。


「ラゼル様が何かを見つけたようです。団体行動が基本です、全員で行きましょう」

 ノルド一人では、別れてしまうパーティを保護ず危険だ。


「はーい!」「ワオーン!」

 サラとヴァルが仲良く駆け出す。


ラゼルが待つ場所は、壁が黄金色に輝いていた。

 ノルドは、それが何かすぐに分かった。四階層以下の四隅にだけ存在する古代遺跡──精霊王の小祭壇。冒険者の間では公然の秘密とされている休憩所だ。


「扉っぽいが……開かん」

 ラゼルは額に汗をにじませながら壁を押したり叩いたりしている。

「わたしらもやってみるか!」


 ロッカが笑い、ダミアーノも肩をすくめて加わる。

 ノルドは思わず深く息を吐いた。――やれやれ、ほんと不勉強な連中だ。


「それは、あなたたちでは開きません」

「は? 仕掛けか? 早く教えろ、荷運び」

 ラゼルの声音は鋭い。だがノルドは首を横に振る。


「仕掛けじゃない。資格を持つ者にしか開かない。この中では……フィオナさんだけです」

「え、私?」

 フィオナが目を見開く。


 ノルドは心の中で続ける──俺も開けられるけど、それは見せたくない。

「フィオナさん、扉に触れてください」

 彼女は戸惑いながらも、一歩前に出た。


 黄金の光の壁に指先が触れた瞬間──カン、と鈴のような高い音が響く。

 ギギギギ……と古代の石が軋み、扉がゆっくりと開く。


 フィオナは、光魔法で部屋の中を照らした。

 奥には、静謐な空間が待っていた。

「ここは……精霊王様の祭壇……」

 フィオナは息を呑む。


「その通りです。四階層より下には必ずあります。聖職者のジョブを持つ者しか開けません。あなたが必要なんです」

 室内はひんやりと心地よく、他の祭壇と全く同じ造りをしていた。


「今日はここで一泊だな」

 ラゼルの言葉に、皆が安堵の息をついた。

 祭壇の光がなぜかノルドは気になった。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ