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従属の夜会 ※蠱惑の魔剣31

遠征の集合場所で、ノルドは異変に気づいた。


一つは――あの仲良しグループのロッカたちに、はっきりとした亀裂が走っていることだった。男たちと女たちで、目を合わせようともしない。あからさまに、空気が凍っていた。


確かに、仲の悪い冒険者グループなど珍しくない。高ランクの者たちには、探索中も必要最低限しか話さず、地上に戻った瞬間に解散するような者もいる。だが、彼らはプロだ。精神的にも戦術的にも、独立している。


ロッカたちは違う。スキルを得たばかりの若い連中で、寄り添いながら、夢や不安を分かち合ってきた――そのはずだった。


「……まずいわね」


隣でカリスが低く呟いた。やはり、彼女も気づいている。


ノルドは内心で頭を抱えた。こういう亀裂が一番危ない。だが、今さら引き返すわけにもいかない。せめて、戦闘だけでも避けよう――そう決めていたのに。


「行くぞ」


ラゼル王子は、今日も一人で魔物の群れに突っ込んでいく。


ノルドは神経をすり減らしながら、後を追った。目指すのは地下二階――前回、蜘蛛が巣を張っていた旧採掘場だ。今回も、あの蜘蛛が戻っているかもしれない。


「ラゼル様、今回は戦闘を避けて、採掘場に直行しましょう。例の蜘蛛が……まだいるかもしれません」


フィオナの声が届いた。


王子は振り返り、ふっと笑った。


「ああ、そうだな。他の者、手を出すなよ。――特にお前な」


ラゼルは、ノルドを指さした。からかいとも、警告とも取れる口調に、ノルドは返答に迷い、ただ黙って頷くしかなかった。


だが幸いなことに、大蜘蛛は戻っていなかった。頭のいい魔物なのだろう。採掘は、順調に終わった。


第三層に移動し、ノルドはいつものように夕食の準備を始めた。フィオナやカリスたちがテントの設営を終わらせてくれる。


「お待たせしました! どうぞ召し上がってください!」


迷宮亭の特製ダレが肉に絡み、香ばしい香りが周囲に広がる。


「わぁぃ!」「美味しそう!」


ロッカ隊の女性陣――シルヴィアとリーヴァの目が輝いた。特にリーヴァは、前回は体調を崩していたため、これが初めてのノルドの料理だった。


「ずっと噂になってたから、楽しみにしてたのよ!」


二つのパーティによって、料理はあっという間に片付けられた。


「おい、荷運び。ケチケチすんな。おかわりだ。ワインももっと持ってこい」


ラゼルの言葉が、空気を断ち切るように飛んでくる。


――けちってなんか、いない。


ノルドは皆の食事をきっちり用意していた。むしろ自分の分まで綺麗になくなっている。


(俺は居酒屋の店員じゃないんだが……)


口答えする気力もなく、ノルドは新たな食材を取り出し、小川へと向かった。


「ノルド、ナッツ類で十分よ。あとは任せて。あなた、少し休んで」


カリスがそっと近づき、干し肉とナッツを受け取ってくれる。


振り返ると、テーブルでは既に酒宴が始まっていた。ラゼル王子を中心に、女性陣が笑い声を交わしている。


――ロッカとダミアーノの姿が、見当たらない。


「どこに行ったんだ?」


ノルドは辺りを見回す。数組の冒険者たちの輪にも、彼らはいない。


「ああ……あんなところに」


小高い丘の上に、二人の姿があった。ワインをラッパ飲みしながら、ちらちらとこちらを伺っている。


ノルドは足を向けた。


「こんなところで、何をしてるんですか?」


「……ノルドか」


ロッカは暗い顔で振り返った。


「何か、問題がありましたか?」


二人は目を見合わせ、言いにくそうに口を開いた。


「お前が悪いわけじゃない。むしろ感謝してる……」


ダミアーノの言葉に、ロッカが続く。


「けどな。今後の方針で、パーティが揉めた。あの王子様と、このまま同行するかどうかで……」


「俺たちも馬鹿じゃない。噂も聞いてるし、現実も見てる。だが……説明できない不安がある。あの人と一緒にいれば、金は貯まる。サン=マリエルに戻れるのも早くなる。けど……」


「……何か、良くないことが起きる気がして」


ロッカは、自分の勘を信じて、撤退を主張した。だが、女性陣が猛反発した。


「『じゃあ二人でも行く』って、シルヴィアが言い出したんだ」


「なあ、ロッカの話を途中で遮るなんて、あいつ初めてだったよな」


「……ああ」


結局、心配になって、彼らも同行を選んだ。選択肢などなかったのだ。


ノルドは自分のテントに戻り、深いため息をつく。小さなテーブルに、ようやく自分の夕食を並べる。


「こっちのほうが落ち着くだろ」


ヴァルが隣でこくりと頷いた。


待ちかねたように、妖精ビュアンがひょこりと現れる。


「もちろん、ビュアンの分もあるよ。迷宮亭の木の実のケーキだ」


「ふふん、わかってるじゃない!」


嬉しそうに舞い踊るビュアン。


けれど、ノルドはふと真顔になった。


「ねえ、ビュアン。シルヴィアたち……どうしちゃったんだろうね。そんなにラゼルといるの、楽しいのかな?」


ビュアンの羽がふるりと震えた。


「楽しい要素? そんなの、あの男には一つもないわよ」


表情が一変し、妖精は鋭い声で言った。


「……あれはただのスキルよ、ノルド」


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