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夕食会


「簡単な物ですが、お召し上がりください。」食卓には、シシリア島の伝統的な料理が美味しそうに並んでいる。


 ライスボール、フリッター、トマトとモッツァレラのサラダ、マグロのタルタルなどの前菜に、ツナのパスタが添えられている。


 食べることが大好きなリコは、その色鮮やかな皿に目を輝かせ、手伝い中からこの時を心待ちにしていた。


「ごめんごめん、ヴァルにはこれだよ!」


 ヴァルは物珍しげに視線を向け、特別な肉が皿に置かれると興味を示した。


「これ、ノシロさんちの特別な肉だよ!」匂いを確かめて満足したように食べ始めた。


「そうだ、少しお待ちを」グラシアスは、荷車から白と赤のワインを持ってきた。


「今日の特別料理のために、特別なワインを選んできたぞ!」彼の目は輝き、心の底から嬉しそうだ。


「せっかくだから、乾杯しましょう!」彼は興奮気味に言った。


「何に?」リコが興味津々で尋ねる。


「そうだな。ノルド君の成人祝いをしよう」グラシアスは微笑み、ノルドの顔が赤くなるのを見て満足げに笑った。


「かんぱーい!」と声が上がり、「ワオーン!」と小狼の乾杯の声が響く。


 グラスが静かにぶつかる音が、心地よいハーモニーを奏でた。


 セラは嬉しそうに微笑み、ノルドは恥ずかしさを隠し切れずに視線を外した。


 普段はしっかり者の彼も、この時は特別な気分なのだろう。


「お味の方はどうでしょうか?」セラが心配げに尋ねる。


「とても美味しいです!」グラシアスが明るい声で応じた。「さすが上級料理人です」


「うん!毎日でも食べたい!」リコは尻尾を振って言ったが、ノルドはすぐに否定する。


「駄目だ! 母さんが疲れてしまう」


 メインには、マリネしてグリルし、レモンとオリーブで味付けされた魔兎が用意されている。


「これ、見て!」リコが目を輝かせながら魔兎を指差した。


「すごく美味しそう!」


 近くの魔物の森から微かに魔物の動き出す夜の雰囲気は、誰も気にしていない。


 食事もあらかた食べ尽くし、セラがふと思い出したように、「そういえば、デザートがあるの!」と言いながらリコに合図すると、彼女はよたよたと運んできた。


「私が作ったデザート! 見て、私の初めての料理だよ!」


 形が崩れたケーキを誇らしげに見せる。


「食べて大丈夫か?」グラシアスは心配そうに眉をひそめた。


「形は少し悪いけど、きっと美味しいよ!」


 リコは自信満々に言った。彼女の目には、一緒に笑い合える仲間たちの姿に映っている。


 皆が一口食べると、絶妙な甘さが口の中に広がり、グラシアスが笑顔で言った。


「意外と美味いな!」


「リコ、ありがとう! これが一番の驚きだ!」ノルドも嬉しそうに続けた。


 セラは、その様子を見て満足そうに微笑んでいる。


 ヴァルは興味を示さず、今度は魔兎を一匹丸ごと食べていたが、周囲の楽しげな雰囲気には少しだけ気を取られてた。



 リコとノルドはワインに酔い、安心しきった表情で眠っている。


「リコ、帰るぞ。商談の続きはまた明日だ」


 グラシアスも少し酔っているが、ふと思い立ったように声をかける。


「嫌だ! 泊まっていく!」リコはセラの腕にしがみつき、子どものように離れようとしない。


「いいですよ、泊まっていってください。部屋はいくらでもありますし……あ、そうだ、これも試してみてください」


 セラは穏やかに微笑みながら、ノルドが作ったマジックポーションを手渡した。


「それはありがたい! 確かに、町まで少し距離もありますから……助かります!」


 グラシアスはポーションを眺め、瞬時に悟った。


『魔物の森に行かせたのは、魔力を消耗させて、この回復薬の効果を実感させるためか。さすがに抜け目ないな……』と、心の中でつぶやく。


 その晩、リコはセラのそばに寄り添い、満ち足りた表情でぐっすりと眠っていた。


 ノルドも彼女が幸せそうな様子に安堵し、珍しく嫉妬も見せず、静かに微笑んでいた。


 だが、ヴァルをセラの部屋の前で見張りにつかせることも忘れなかった。


 翌朝、みんなで簡単な朝食をとると、ヴァルとリコは外に散歩に出かけた。


 リコは鳥のように軽やかに跳ね、楽しげに笑いながら、見つけたものに目を輝かせてはヴァルを振り返って話しかける。


「ヴァル、見て見て! あれ、養蜂箱だよね?」


 リコは目を輝かせ、箱に向かって駆け寄ろうとする。


「ワオーン」ヴァルは低く唸って注意を促す。


「あっ、そっかぁ。刺されちゃうよね……。じゃあ、後でノルドに蜂蜜もらおうっと!」


 リコはヴァルの言葉を理解し、嬉しそうに笑うと、小川を越えて、花畑や林の中をヴァルと共に駆け回り始めた。


 その頃、セラが見守る中、ノルドとグラシアスが向かい合い、商談を始めている。


「さて……ノルド君、商談を始めましょうか」セラは控えめに微笑み、二人のやり取りをじっと見守っている。


 グラシアスは空間魔法でリカバリーポーションの原料を取り出し、机の上にそっと並べた。


「どうだい?これが私の誇る自慢の原料だよ」


 グラシアスはわずかに口元を歪め、狡猾な笑みを浮かべながらノルドの反応を楽しんでいる。


「なんて綺麗な粉末なんだ……町で手に入れたものとは全く違う!」


 ノルドの目は輝き、粉末に釘付けだ。


『やはり、ノルは根っからの薬師だ。良い食材を見つけた時との私と同じ目をしている』


 セラは内心で微笑んだ。


「これはね、野生じゃなく栽培されたものなんだ。そして、加工は一流の職人が工場で行っている。農家も工房も、最高の腕を持つ者たちが携わっている」


「栽培できるのか……?」


「ノルド、そこまでやったら体がいくつあっても足りませんよ!」


 セラは思わず口を挟んだが、優しい目でノルドを見守っている。


「まったくだ、本当にやりかねないからな」


 グラシアスも笑っているが、その目はノルドの意気込みを試すかのように鋭い。


「それでは、支払いと金額関係は、私がやります。ノルド出ていなさい」


 セラの出番だ。それはまだ、ノルドには、取り扱う金額が大きすぎるからだ。


「サイレント」グラシアスが静音魔法をかける。


 薬の材料を買い、ノルドが作ったマジックポーションや蜂蜜飴をたっぷりと買い込んだグラシアスは、満足そうに取引証文を書き上げる。


 セラは、大切に、ノルド専用の書類入れと財布にしまった。


 昼前にはすべての商談が終わり、荷車に買い込んだ品や依頼品を積み込むと、グラシアスの用事も完了した。


 セラが手土産に渡した蜂蜜ケーキを受け取り、帰路に着く船の時間が迫る。


「また来るね!」リコが荷台の後ろから顔を出して手を振る。


 グラシアスもまた帰りたくない気持ちを抱えながら、荷車をゆっくりと出発させた。


 

 ノルドが、ヴァルと港町を歩いていると微かに見覚えのある匂いがした。


「おーい、ノルド!」


 物凄い速さで走って声をかけてきたのは、リコだった。小さなキッチンエプロンをしている。


「どうしているの?」彼は目を見開き、驚いて質問した。


「へへへ。この島気に入ったから、住むことにした」


 彼女はにこにこと笑って答えた。


「どこに住んでるの?」


「魚市場の中の料理屋だよ。魚が美味しいんだ。住み込みで働いてる」


「じゃあ、休みになったら、遊びにおいで。母さんにご飯作ってもらおう!」


「楽しみ! じゃあ、仕事に戻るね。またね!」


 そういうと、あっという間にいなくなった。

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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