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燃える亡者と眠る石 ※蠱惑の魔剣16

前方より、炎に包まれたゾンビとスケルトンが、こちらに気づいて襲ってくる。

 実は、ヴァルに吠えさせてこちらに注意を向けさせたのだ。


 ゾンビ二匹とスケルトン二匹――小隊規模の複数体だ。一階層に多くいる魔物で、集団行動するタイプでもある。


 ラゼルが、先頭を走ってくるゾンビ二匹に剣を振るった。

 剣はゾンビを覆う炎を裂き、本体へと届いたが――途中で止まり、切り抜けきれなかった。

 剣先が肉に引っかかり、鈍い音が響く。


 「ギギ……ズジュ……!」

 焼けた肉の焦げる匂いが鼻を突き、ラゼルの顔が歪む。

「くそっ……!」

 王子は剣を引いたが、その反動で炎を纏ったゾンビが一歩、さらに近づいてくる。

 甲冑がジュッと音を立て、熱を帯びて赤く染まった。


「ラゼル様、お下がりください!」

 修道女フィオナが、ゾンビに向かって消火薬を塗った石を投げる。

 ポンッと鈍い音と共に、石が弾け、炎がぱっと散った。

 炎の消えた隙を突いて、王子が再び剣を振るう。


 「ズブッ――グチャアッ!」

 今度は剣が重みを貫き、ゾンビはぐにゃりと崩れ落ちた。

 もう一匹のゾンビを、盗賊のサラが死角から忍び寄り、素早く首を落とす。

 首が転がる音と同時に、ゾンビの体がずるりと地面に崩れた。


 カリスはノルドの顔をちらと見てから、王子へポーションを差し出す。

「ラゼル様、このポーションを剣にどうぞ」

「ああ……だが、重いな、ここのゾンビは……」

 ラゼルは首を傾げながら、ポーション瓶の中身を剣に振りかける。


 シシルナ島のゾンビは、他の島の個体より明らかに大きいとは、ノルドも話に聞いている。


 しかも纏う炎は、ただの火ではない――魔力を帯びた“魔炎だ。

 ノルドが消火薬を調合する段階で気づいていた。いや、精霊ビュアンのアドバイスが決め手だった。

「サラマンダーのおじさんの炎と同じよ。ただの火じゃないの。ま、そこまで強力でもないけどね」


 戦闘は続く。今度はスケルトン二匹。炎は纏っていないが、骨の一本一本が赤く焼けて光を宿している。

 ラゼルが今度は余裕を持って斬りかかる。


「やぁあっ!」

 ポーションの効果もあって、骨を一撃で砕いた。

 スケルトンは鈍い音を立てて倒れ、骨の残骸がカラカラと地面に転がった。


 ゾンビとスケルトンの亡骸は、やがてダンジョンに吸い込まれるように、音もなく消えていく。

 ラゼルの背に負う剣、フィオナの聖職者としての技、カリスの実力――

 このパーティの真の実力を、ノルドはまだ測りかねていた。


 その後も幾度か戦闘は続いたが、ポーションの加護を受けた剣を手にしたラゼルの活躍により、敵の実力は最後まで測れなかった。


「ここです」

 地下一階層の最奥。誰の手も入っていない、一枚の壁の前でノルドが静かに告げた。


 そこは、光の届かぬ闇の中。ノルドとフィオナが光魔法で周囲を照らしているが、獣人族にとってこの程度の暗さは問題ではない。


「本当に、ここに鉱石が眠ってるのか?」

 ラゼルには――いや、普通の冒険者であれば誰でも――この無機質な壁の向こうに宝が眠っているとは到底思えなかった。


 けれど、ノルドには分かっていた。ビュアンが教えてくれる。

 壁の奥、鉱石にわずかに宿る魔力を精霊たちが感じ取り、それを風に、ささやきに乗せて「ここだ」と伝えてくるのだ。


 さらにノルドとヴァルの目には、壁の表面がかすかに波打ち、淡い光を帯びて揺らめいて見えていた。


 それは、他の誰にも知られていない秘密だった。

「絶対とは言えませんが……可能性は高いです」

「じゃあ、掘ってくれ!」


 ラゼルは剣を地面に突き立てると、当然のように命じた。

 もちろん、そのまま従うわけにはいかない。正面から否定すれば厄介なことになる――ノルドはちらりとカリスに視線を送った。


「ラゼル様、これはさすがに荷運びの任ではありません。何事も経験ですし、今回は私たちが担当いたします。次回からは採掘専門の冒険者を用意いたしましょう。ラゼル様には、周囲の見張りをお願いできますか?」


「……ふん。使えない荷運び人だな」

 ラゼルは不満げに鼻を鳴らすと、通路の奥へと視線を向けた。


 カリスは無言で頷き、静かに杖を構える。詠唱が始まる。


 まずは水魔法。壁の表面をなめらかに流れる清水が、こびりついた汚れや余分な砂を静かに洗い落とす。


 続けて土魔法。鉱脈に触れぬよう繊細な力加減で、岩肌を少しずつ丁寧に削り取っていく。

 そして風魔法。舞い上がった粉塵を吹き払い、視界を澄ませる。


 一連の魔法の流れに、ノルドは改めて感心した。やはり彼女は、魔法の扱いにおいて実に繊細だ。


 サラがすばやく鉱石の反応を察知し、フィオナが迷いなく削り出す。まるで事前に綿密な打ち合わせをしていたかのような連携。


 いや、おそらく彼女たちは、こうした現場にすでに慣れているのだろう。

 ラゼルはというと、通路の奥をじっと見つめたまま、ぼんやりと立っていた。


 だが、次々と壁から掘り出される魔石が運送箱に投げ込まれる様子を目にすると、ひとつを手に取ってまじまじと見つめた。


 宝石のように、淡く光を放つその石を眺めながら、彼は小さく呟いた。


「……案外、悪くないな」


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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