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警備隊



 ローカンは、いつものように警備所の窓から港を眺めながら、コーヒーをすすっていた。


 漁船や旅客船が穏やかに海を行き交う。


 しかし、その表情はどこか冴えない。昨晩、深夜に叩き起こされて現場に急行し、関係者からの事情聴取や報告を受けた上、窃盗団――いや、今や強盗団と呼ぶべき者たちの潜伏場所を探して回ったが、空振りばかりだった。


「とんでもないことになった……殺人事件だ。それも大使の……島主がもうすぐやってくる。俺の首も飛ぶな。どうする? いっそ旅にでも出るか……」


 項垂れながら、ローカンは手早く荷物の整理を始めた。


 すると、窓を軽く叩く音が聞こえ、「ワオーン!」という小さな鳴き声が響いた。


 窓を開けると、そこにはヴァルがいた。


「おい、何だ、お前?」


 ローカンはその小狼が、あの少年の飼い狼だと気づいた。


「何しに来た?ヴァル君だよな?」


 ヴァルは腹に巻かれた小さなポーチを鼻先で示し、開けるよう促している。


「ん?手紙か。ガレア様……ああ、島主様宛てか。差出人はセラ、と。ふーん、恋文かなんかか?こっちは忙しいんだがな……ま、預かっておくとするか。島主様の機嫌が良くなりゃ、こっちも悪くないしな」


 ヴァルは、用事が済んでも去らずに、庭でのんびりと眠っていた。


「あ、駄賃だな。ちょっと待ってろ」


 ローカンは食堂に向かい、料理人に肉と水を用意させた。


 しかし、自分も朝から何も食べていなかったことを思い出し、シシルナ風サンドイッチも頼むことにした。


「やっぱ、シシルナ島の料理は最高だよな」ローカンはヴァルを部屋に招き入れ、二人で食事を楽しんでいた。


 すると、突然廊下から足音がどたどたと響き、扉が勢いよく開いた。


 そこには、怒り顔の島主が立っていた。


「おい、ローカン、何のつもりだ?呑気に飯を食ってる場合か!」


 食卓の様子を見た島主の怒気がさらに増した。


 ヴァルは我関せずと食事を続けている。


「大使館邸で殺人事件まで起きたんだぞ!お前はどうするつもりなんだ!」


 島主は声を荒らげ、ローカンの机を力強く叩いた。


 その衝撃でローカンの飲み物が倒れ、机の上に置かれていた手紙が濡れそうになる。


「ワオーン!」ヴァルはすばやく手紙に飛びつき、口にくわえて大切そうに守った。


 そのまま島主のもとへと近づき、ぽいっと手紙を落とす。


「ん?お前は…?」島主は不思議そうに手紙を拾い、差出人の名前に目をやる。すると、急にその表情が変わった。


「おや、セラ様からの恋文じゃないですか。早く読んでくださいよ」


 ローカンがにやりと笑う。


 島主は無言で手紙を開き、真剣な眼差しで読み始めた。


「何だと……やはりか!」読んでいた島主の顔が、今までにない険しい表情に変わる。


「ヴァル君、話が違うだろう……」ローカンは思わず立ち尽くしてしまう。


「ローカン、港町にいる警備員を全員招集しろ。中庭に集合だ。急げ」


「緊急事態で休みの者は少ないでしょうが、巡回や夜勤で寝ている者はどうします?」


「全員起こせ。呼び戻せ。これから、窃盗団一味の逮捕に向かう。お前は寮に行き、招集を伝えろ!」


「場所はどこですか?」


「集合してから指示を出す。早くしろ!」


 ローカンが出ていくと、島主は大きく溜息をついた。ヴァルに向き合うと「迷惑をかける。頼むな!」と頭を撫でた。



「全員傾注! ガレア・シシルナ様よりお言葉があります」


 司会の警備員が告げる。中庭には、警備員が全員集められた。


 こんな事態は、戦争以外では初めてだ。


 きちんと整列されて、数百人は並んでいる。


「一体、何が起こるんだ?」


「お小言に決まってる」


「静かに!その前に、服装の確認を行う。古いと判断された者は、別室で着替えてもらう」


 ローカンは、ヴァルを連れて、警備員の間を歩く。


 彼の後ろには、何人かの屈強な冒険者が付いて歩いている。


 ある列に来ると、ヴァルが、ローカンの服をがしがしと叩く。


 彼の顔色は、青ざめる。


「お前だ!」


「お前もだ!」


 そこには、魔物の森にいた、例の警備員とその仲間達がいた。


 彼の服からは、土の匂い、レモンの匂いがした。仲間の警備員と、一緒にいたのだろう、匂いがら移っていた。


「別室に行き、急いで着替えろ!」


「しかし」


「連れていけ!」


 ローカンは怒りで、肩が震えている。


 島主の演説が始まる。


「私が、ガレアだ。いつも島の安全を守ってくれてありがとう。ところで、皆んなはこの島が好きか?」


「はい!」警備員から、揃った返事がくる。


「島民は好きか?」


「はい!」


「良かった。ただ、残念なことに、シシルナ島の平和が破られている。窃盗団が暗躍し、住民たちは怯え、不安な日々を送っている。それに手を貸す者は、たとえ仲間であっても、裁判にかけられ、正当に裁かれなければならない」


 ざわつきが起きる。


「警備料を取る者がまだいるらしい。たとえくれると言っても、これは犯罪だ。昨日迄は許そう」


 さらにざわつきが起きる。


「最後に、僅かばかりだが、いつものお前達の頑張りに応えて、お前達の給料を増やす事にした。既に議会には話をしてある。この金は、島民の血税だ。話は以上だ。シシルナ島の為に!」


「シシルナ島の為に‼︎」


 集会は終わり、窃盗団の協力者は逮捕された。


 窃盗団は、ヴァルの案内で、魔物の森の中の中で、縛られた姿の刺青女を逮捕した。残りの二人は死体で見つかった。


 今迄、窃盗された金貨は、袋に入ってその横に置いてあった。


 逮捕に来たのは、ガレアとローカン、冒険者ギルドの副ギルド長ドラガンの三人だけだ。


 大男から検死を始めた。


「島主、見て下さい。この腕、すごい斬り口だ。全身を土魔法で貫かれている。誰がやったのでしょうか?」


 上位の冒険者タンク職であるドラガンから見ても、剣の凄さがわかる。


「さあな」島主は、嘯いたが、心のなかでは、土魔法の威力に驚いていた。


 紛れもない一流の魔法。


 ローカンが、刺青女に聞く。


「誰にやられた?教えてくれたら、取り調べに手心を……」


 刺青女は、小狼と目が合うと怯えた声で答えた。


「知らないわよ。私は……殺されたくないもの」(魔女に)


「もういい」事件を理解している島主は、会話を止めさせて指示を出した。


「死体を、荷馬車に運べ」


「この……死体ですか……」


「ああ、見せしめも必要なのだよ。ローカン。土に戻すのは、その後だ」

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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