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海賊の島

すいません、1話のみ、追加致します。

小説家になろうの読者様に感謝を込めて。

 獣王国からの親書が、ガレアのもとに届いたのは、ニコラが亡くなった翌年のことだった。


「そちらに亡命している犯罪者を引き渡せ」

 一方的で高圧的な文面だった。しかも、記された罪状は理解に苦しむものだった。当時まだ赤子だったノルドが、どうやって罪を犯せるというのか。


「くそっ、馬鹿にしやがって……」

 ニコラの死と共に、シシルナ島の国際的な影響力が落ちていることを、まざまざと突きつけられた瞬間だった。


 セラたちが亡命してきた当初、まだガレアが島主代行を務めていた時にも、同様の要請があった。そのとき、彼はニコラに相談した。


「正式に亡命してきた者は、もはやシシルナ島の住民だ。お前はその住民を、敵国に差し出すつもりか?」

「いいえ、ですが……最悪、戦争になりますよ!」

「聖王国に使いを出せ。グラシアスを通じて話をしろ」

「それで解決しますか?」

「――少し、出掛けてくる」

 そう言い残すと、ニコラは姿を消した。


 その日、彼は部下を連れて、漁船の大型整備場――かつて島の海賊たちが黒船を仕立てた場所へ向かった。


 それから間もなく、はるか北方、獣王国の海岸に黒船が姿を現した。その船がどこの国のものかは明かされなかったが、拿捕に向かった獣王国の軍船は、ことごとく沈められた。


「くそっ、たかが民間船数隻じゃないか……」

 そう呟いた国王に、海軍司令官が答える。

「そう“見える”だけです。あれは最新鋭の軍船ですよ」

「ふん。そのうちいなくなるさ。水も食糧も弾薬も、補給できまい」


 黒船は商船に手を出すことはなかったが、それを恐れた商人たちは、獣王国への寄港を次々と取りやめた。その代わりに、獣王国沖の小島と商売を始めたようだ。


「……あの黒船は、ニコラ様の船だ。つまり、“獣王国とは取引するな”ということだ」


 商人たちは悟ったように獣王国との商売を控え、小島に築かれた商会の拠点へと舵を切った。もちろん、黒船もそこに寄港している。

「おい、その小島はうちの領土じゃなかったか?」と国王が問いただすと、財務大臣が皮肉交じりに答えた。


「はい、確かに領土でした。しかし元々は何もない土地でしたので……グラシアス商会に売却いたしました。高く売れたと、陛下もご満悦だったはずです」


「ちっ……仕方ない。あの黒船と商会がぐるなのは、誰の目にも明らかだ。島へ攻め込む!」

 国王が戦闘開始を宣言しかけたとき、海軍司令官が冷静に口を開いた。


「それこそ、彼らの狙いではないでしょうか。勝てれば良いのですが、領民の目の前で負けることになれば――取り返しがつきません。戦の結果は誰の目にも明らかになります」


 国王は黙り込んだ。元より、彼らは陸の民であり、海戦は不得手だった。もし大敗すれば、世論は確実に揺らぐ。そして、最悪の場合、聖王国とシシルナ島との全面戦争だ。


「……今は足元を固める時期です。将来の不安を潰すことも大切ですが、ここはむしろ、シシルナ島に恩を売りましょう」


「恩だと? 脅されているのはこちらなんだぞ!」

 荒々しいが馬鹿ではない国王は、唇を噛んで拳を握りしめた。そして、次の機会を心の奥底に仕舞い込んだ。


 ――そして今、再び、同じ構図が姿を見せ始めていた。

「同じ手が通じるかな」


 ガレアは悩んだが、その反面、楽しみでもあった。準備を始めるとともに、グラシアスに手紙を送った。


 それと、セラ親子の保護を、サルサに頼んだ。

「実はな、セラの体はサナトリウムで集中的に治療が必要な状態なのだ。これを理由に入院させよう。我が保養所ほど、安全な場所は無いからな。精神的にも負担がなくなるだろう」


「ノルドはどうしますか?」

「彼ならいつでも迎え入れるよ。彼ほど優秀な薬師はいないからな。まあ、この件のことははなさんとしても、セラが落ち着くまで理由をつけて預かろう」


 セラをサナトリウムに入院させた後、急いで聖王国へと戻ったグラシアスから連絡があり、獣王国との間で交渉が成立したとの知らせが届いた。


「ネフェル聖女が、急遽、獣王国への訪問し祈りを捧げる。その代わり、獣王国の出した親書は破棄する」


 のちに、グラシアスから聞いた話では、ネフェル聖女から、獣王国の聖教会に激しい働きかけがあったらしい。


 ノルドが、シシルナ島を出ない限り、危害は加えない。との密約が交わされた。


 サナトリウムのセラの病室を、島主が訪ねた。問題が解決したことを伝えに来たのだ。

「ありがとう! ガレア!」

「いえ、でも私は何もしてないですよ」


 少し残念そうに笑う島主に、セラも微笑みを返した。

「いいえ、心配なので行かなくて良かったですよ。実は、簡単な料理を作ったんですよ。食べていって下さい」


「無理をせず、体を大事にしてください」

「いえ、何もしないのも疲れるものですから」

「……それなら、出撃しなくてよかったです」


 二人は目を合わせて、笑った。




 二人が食事をする、サナトリウムの庭から、青々とした海に白い雲が映っていた。風は穏やかで、島全体が静かな午後に包まれていた。




 シシルナ島――過去に多くの敵を迎え撃ったその小さな島は、今日も、静かに、何かを守り続けている。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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