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第六夜 地獄の底

地獄…

それは、生前に罪を犯した者が死後に落とされる、この世で最も辛く恐ろしい監獄。


多くの人々は、殺人犯や詐欺師が地獄へ落ちると信じている。

しかし、ここへ来る者は、何も嘘つきや悪党ばかりではない。



真司は、死後に地獄へ落とされた。

多くの命を奪った、大罪人として。


そして、そこには懐かしい顔もあった。


「あ、あんたは!」


「…莉愛!」


「久しぶりー。あんたもこっちに来たんだね」

莉愛は、かつての若々しく、美しい姿のままだった。


その手には、一冊の官能小説が。


「ねえ、これあんたがよこしたやつでしょ?

おかげでこっちでも暇しないで済んだよ。

ありがとね」


かつてと同じように、明るい笑顔の莉愛。

彼女に、真司は震え声で言った。

「莉愛…」


「ん?どうしたの?」


「お前は…俺を…憎んで…ないのか…?」


「…」

莉愛は、残念そうな顔をした。

「憎むと思う?」


「だって…俺はお前を…」


「憎む訳ないよ。むしろ、あんたこそ、私を憎んでるんじゃないかって、ずっと心配だった」


「…え?」


「あんたが、人を殺すっていう罪を犯したのは、私のせいだもん。

死刑になるような事をしたのは、私なのに。

全部、私が悪いのに」


「…そんな、ことは…」


そんな真司の顔を覗き込み、莉愛はまた笑った。


「あんたさ、私とおんなじなんじゃない?」


「どういう…ことだ」


「あんたは、私とおんなじで、道を間違えたんだよ。

本当は、あんたは別のことをやるべきだったんだ。

刑務官なんて…ましてや死刑執行人になんて、ならないほうが良かったんだよ」


「なんで…そう思う」


「だってさ…あんたは…」

莉愛は、切ない顔で言った。


「あんたは、すごく、すごく…

優しい人間だもの」


「!」

その言葉を聞いて、真司は顔を歪め、声を震わせた。


「優しい…?

そんな…そんな訳ない!

だって…俺はお前を…お前を…!!」


莉愛は、嗚咽する真司の肩を軽く叩いた。


「…ありがとうね」


「…?」

涙ぐむ真司に、莉愛は言った。


「ありがとう…私の事で、泣いてくれて。

私、ずいぶん前に家族に捨てられてさ。ずっと一人ぼっちだったんだ。

だから…私の事を気にしてくれて、私の前で笑ってくれる人がいる事が、すごく嬉しかった。

しかも、あんたは今こうして、私の事で泣いてくれた。

本当…こんな幸せな事ってないよ」


真司は、さらに大声を上げて泣いた。


「んわ、そんな大声上げられるとちょっとびっくりするなあ。

あ、そうそう。この際言うけどさ、私…自分の最期にはあんたにいてほしかったんだ」


「うっ…それは…なんで…?」


「私、あんたが好きだもん。

私の人生で、あんたほど私を大事にしてくれた奴はいないよ」


「お前には…家族はいないのか?」


「言ったでしょ?私は家族に捨てられたの。

だから、なおさらあんたが好き。

…互いにバカだよねえ、私達。

私は、社会に復讐なんかしてなければ、もっと幸せに生きれたかもしれないのに。

あんたは、刑務官になんかならなければ、私なんかに出会うこともなかったのに。

でも…これもまた、運命だったのかもね」


「っ…」


「改めて、ありがとう。

私の最期に、あんたがいてくれて本当に良かった。

あんたの事…大好きだよ」


莉愛は、眩しいくらいの笑顔で、泣いていた。








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