第四夜 女と門と
女は怒っていた。
目の前にある門を通れないからだ。
門は開いている。
だが、その前に一人の男が仁王立ちしていて、これがどうあっても通してくれないのだ。
「ねえ、通してよ!」
「だめだ」
「なんで通してくれないのよ!」
「お前はまだここを通るべきではない。戻れ」
「はあ…?私はどうしてもここを通らなきゃないのよ!あんたのせいで遅れたらどうしてくれるの!?」
女がどんなに喚いても、男は動かなかった。
女はいろいろやってみた。
男を誘ったり、物を差し出したり、思いつく限りのことをやった。
しかし、そのどれもが失敗に終わった。
女はどうすることもできず、門の前で座り込んでしまった。
そして、それからしばらく待ってみる事にした。
時間が経てば、男もどいてくれるかもしれないと思ったからだ。
しかし、それも無駄だった。
男は石像のように立ち尽くし、門の前から一歩も動かなかったのである。
絶望した女は、倒れた。
あれから、長い時間が経った。
女は痩せ細り、白髪頭になり、嗄れた声になっていた。
本能的に感じた。
もう、自分は長くないことを。
意識が朦朧とし、足元がふらつく。
まともに立てず、全身が痛い。
いよいよだ。
女は門の前に立つ男に手を伸ばした。
せめて、最期にこの門をこえたかったと。
「通れ」
男は、門の前からどいた。
「えっ…」
「通れと言った。聞こえなかったか」
「いや、聞こえたよ。でも、どうして…」
「時がきた、ただそれだけだ。
この門は、お前だけでなく皆の前に平等にあるものだ。
だが、お前は予定よりも早く通ろうとした。
故に、俺はここでお前を止めていたのだ」
女は、やっと全ての意味を理解した。
門の向こうに立ち、飛びゆく意識の中で言った。
「あんたは…」
男は、無機質に言った。
「俺は門番だ。ただ、それだけだ。
さあ、行け。俺とお前とはこれっきりだ。だが、もしかしたら、お前がこちらへ返ってきて、また戻る時、会えるかもしれない。
教えてやろう、お前は帰るのだ。
お前は、ここにくるのが早すぎた。
お前は、失敗したのだ…」
そして、男は門を閉めた。