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参話『出発の日』


 白熱灯の光が境内(けいだい)を淡い光で包み、灯籠に灯された人工灯を望む縁側で、誠は一人風が枝葉を揺らし(ふくろう)の囀ずる自然の音を聞きながら今朝の出来事を反芻していた。


「鬼には鬼を……っか。こんな僕でも必要としてくれる人が居るのか……」


 そう独り言ちっていると、誠の背後からわざとらしい咳払いが聞こえた。


「なんだぁ~辛気くせぇ顔しやがって!」


 ボサボサの髪に頬まで真っ黒の無精髭を生やし、誠と同じ黒一色の着流しを着る中年の男が、境内に響き渡る程の大声で、誠の背中をバンバン叩いた。


「い、痛いよ! 師匠!」


「ガハハ! ジジイの法事に来てた連中のが、よっぽど明るかったぜ!」


 誠の剣術の師匠──伊藤(いとう)  慶尚(けいしょう)は、豪快に笑い飛ばしながらも何処か気遣うように誠の頭を雑に撫でた。


「……ジジイに聞いたぜ。東京に戻るんだってな?」


「…………うん。誰かが僕を必要としてくれるなら、僕は喜んで力を貸したいんだ」


「それが、お前を追い出した陰陽師──土御門(つちみかど)の連中だとしてもか……」


 僅かな沈黙の時。木々が枝葉を揺らす柔らかな風が、誠の黒髪を流すと俯きながら口を開いた。


「鬼には鬼を──生家とは関係なく。僕はこれ以上、誰かが悲しむ姿を見たくない」


 師へ淀みの無い濃褐色の瞳を向ける誠。


 希望に満ちた少年の目、伊藤は初めて誠出会った時を思い出し、ふと笑みを浮かべた。


「ガハハ!! なら止めねぇよ! 存分に暴れて来い!」


「ハハッなんだか、初めて師匠らしい事言われたよ……あと、暴れはしないからね……」


***


 翌朝、龍泉寺の朱色の門扉の前には、黒塗りのハイヤーが三台停まっており、誠を出迎えるヨレヨレのスーツ姿の中年──犬神がボサボサの髪を掻きながら笑った。


「よぉ~誠くん! 早いねぇ~」


「おはようございます犬神さん、それと──」


 犬神の傍らには後頭部で一つに纏められた総髪(ポニテ)に、淡い赤色のスーツを着た目つきの悪い女性が居り、ビッと敬礼を取って自己紹介を始めた。


「はっ! 私は警視庁捜査一課所属、九条(くじょう) 翔子(しょうこ)であります!」


「は、はじめまして、僕は誠って言います……」


 二人が互いに紹介を終えたタイミングで、犬神がジュラルミン製のアタッシュケースを誠へ差し出した。


「犬神さん、これは?」


「16歳のキミへ入学祝いってやつだ。まぁ立ち話もなんだし、乗った乗った」


 犬神に促されるまま、車列中央のハイヤーの後部座席へ犬神と誠が座り、九条は前の助手席へ座る。


「ぐぅ~ぐぅ~」


 三人が乗り込んだ後も運転席の青年は、大きなイビキをかきながら爆睡している。


「おい二階堂……おい二階堂! テメェいつまでぐぅすか寝てんだ!!」


 九条の語気を荒げた時、運転席の青年と誠は同時にビクッと姿勢ただした。


「んぁ! は、はい!! すみませんでしたっす!」


 二階堂と呼ばれた青年はヨダレを拭う間もなく飛び起きると、エンジンを掛けて後続車へ合図を送ると発車する。


「おいおい九条~元ヤン出てるぞぉ~」 


 犬神の力無い忠告に、九条は申し訳なさそうに振り返り頭を下げた。


「す、すみません犬神さん……」


 謝りながら九条は傍らの青年を肘で小突く。


「えっと犬神警視、彼が昨日言ってた少年っすか?」


 迷彩服を着た青年はヨダレを拭いながら、ルームミラー越しに犬神を見ながら問う。


「あぁそうだよ。誠実のせい(・・)(まこと)くんだ」


「はじめましてっす! 自分は二階堂(にかいどう) 拓海(たくみ)っす! 陸上自衛官だったんすけど、今は犬神さんに誘われて鬼憑き対策班っす!」


 溌剌とした好青年っといった印象の二階堂が、ルームミラー越しに簡単な敬礼をして自己紹介を終える。


「はじめまして……」


 対魔師として寺で修行をしていた時から、周りには常に大人しか居なかったので、誠はこの雰囲気にそれほど緊張しなかったが。


 それでも同年代の居ない、この場に多少なりの居心地の悪さを覚え、手元のアタッシュケースへ視線を落とす。


「開けてみたらどうだ?」


 傍らの犬神がニヤニヤと無精髭を撫でながら促し、誠はアタッシュケースのロックを外し、ゆっくりと慎重に蓋を開けた。


 そこには見慣れない洋服が入っており、誠は心底困惑した。


「誠くんは今まで学校には通ってなかったんだろ? 最低限、義務教育くらいまでは学力を身につけて欲しいというのと、同年代の友人を作るという意味で、キミは高校へ通ってもらう」


 犬神の説明を聞きながら、初めて見る純白の学ランを天井いっぱいにまで広げる。


 白を基調としながら所々に平金糸をあしらった、高級感のある制服の襟には『東京都立日比谷高校』の校章が輝いていた。


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