表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/86

どうしてあの人が ララの葛藤②


「どうも。エドワード・キャンベルと言います。私はメリーアンに用事があるもので、悪いが彼女をお借りしても?」


 ──エドワード。


 メリーアンのそばに立った美しい人はそう名乗った。

 その名前に聞き覚えがあったララは、彼がアリスの言っていた「第三王子」であることを瞬時に思い出した。


(彼が……エドワード殿下なの?)


 驚くべきほど整った容姿をした人物だった。

 眩く輝く銀色の髪に、紫水晶のような瞳。少し鋭い視線は冷たい印象を受けるが、メリーアンを見つめる時にだけ、その瞳の中に熱がちらつくような気がした。


(嘘……)


 どうしてあんなに美しい人が、メリーアンさんをそんな風に見るの?

 どうして? ユリウスと別れたばっかりのメリーアンさんが、あの方に。


 そんなことを思っているうちに、ふと以前行ったお茶会で、令嬢たちが話していたことを思い出す。


 ──王太子殿下初め、王家の皆様は大怪我をされたエドワード殿下以外皆結婚されていますから、王族以外で一番条件のいい結婚相手は、ユリウス様ではありませんこと?


 ──エドワード殿下は、怪我で寝たきりだと聞きますしね……。


 見たところ、エドワードに怪我はなさそうだったし、普通の状態のようにしか思えなかった。

 実際のところはマナをコントロールする器官が壊れてしまっているのだが、それは本人だからこそ分かることで、他人から見れば全くわからないだろう。


(じゃあ、じゃあ……今この国で一番価値のある人は、エドワード殿下じゃないの……)


 メリーアンさんはユリウスよりも価値のある人と、一緒にいるの?


 ──国で一番価値があるって言ってたから、ユリウスを選んだのに。もしもあのお茶会の席でエドワードが元気だと聞いていたなら、きっとエドワードを選んでいた……。


 不意に心にそんな言葉が浮かんできて、ララは慌てて首を横に振った。


(ち、違う。私は大いなる流れに従っただけ。自然とそういう成り行きになったの)


 そう考えながらも、目の前のエドワードのあまりの美しさに、頭がぼうっとしてしまう。


(……不釣り合いだわ)


 メリーアンとエドワード。

 ララには凡庸な女性とキラキラした王族の、奇妙な組み合わせにしか見えなかった。


(そうだ。なら、釣り合いが取れるようにすればいいんだ)


 長年の癖だったのだろう。

 誰もがララが声を掛ければ、頬を赤くした。

 きっとエドワードだって、例外ではないはず。

 そう思ったララは、去ろうとするエドワードの背に、気づいたら声をかけていた。



 けれどララを待っていたのは、予想外の仕打ちだった。

 冷たい氷の刃が、喉元を掠る。


 ──次にメリーアンを傷つけたら、殺す。


 ララは恐怖で凍りついた。

 硬直するララを置いて、エドワードはメリーアンの腰を抱き、学舎へと戻っていく。

 ララはそれを呆然と見送った。


(どうして……?)


 私は聖女で、いつも誰よりも大切にされていたはずなのに。

 私よりも、メリーアンさんを優先した?

 一体、なぜ……。


「ララ。どうして殿下にあんなことを言ったんだ」


 呆然とするララの後ろから、ユリウスが声をかける。


「……どうして? それはこっちの台詞よ」


 ララは唇を噛んで、ユリウスを見た。


「どうしてメリーアンさんは、あの人に愛されているの?」


「……」


(私が、あの場所にいるはずだったのに!)


 気づいたら、ララは怒りで震えていた。

 ユリウスは痛みを堪えるような顔をして呟く。


「……メリーアンは、もう俺とは別れた。だから彼女が誰と恋人になろうが、俺たちに文句を言う権利はないよ」


 ララはユリウスを見て、がっかりしてしまった。

 確かにユリウスは顔もいいし、鍛えているおかげか、体格もしっかりしている。けれどエドワードに比べたら、まるで平凡だと思ってしまったのだ。


(……エドワード殿下が良かった。どうして不幸になるはずのメリーアンさんが、私より幸せそうにしているの)


 ──どうして私は、幸せになれないの?


「……ララ。落ち着いて」


「……」


 俯いていると、ユリウスに声をかけられた。


「あんまり考え事がすぎると、お腹の子にもよくないよ。宿に帰ろう?」


(子ども……)


 ララははっとした

 ユリウスの言う通りだ。


(私は、この子を産んで、幸せになるの)


 これから幸せになる。なれるはず。

 そのためには、メリーアンとユリウスを早く離縁させなければならない。


「明日、もう一度メリーアンと話せないか、交渉してみるよ。俺が全部片付けるから、ララは宿でゆっくりしていて」


「……分かったわ」


 その日は渋々、ユリウスの言葉に従ったが、ララの心からエドワードの存在が消えることはなかった。


     *


 メリーアンとユリウスの離縁は、案外あっさり成立したようだった。

 神殿の入り口でこっそり話を聞いていたララは、メリーアンの心が、すでにユリウスから離れつつあることを感じ取っていた。やはり、同じ女性同士だからだろうか。そう言う部分には敏感だった。


(……もうユリウスには興味なくって、新しい人に夢中ってこと? ユリウスとの別れを悲しみもせずに、性格の悪い人だわ)


 その日の夕方。

 ララは宿の中庭で、メリーアンとエドワードについて考え込んでいた。


 メリーアンは別に、エドワードのことを好きだとか、そう言う言葉をはっきり言っていたわけではない。けれどあの二人の間には、何か親密な雰囲気が漂っているような気がしてならないのだ。 


 ……何がいけなかったんだろう?

 私が、あの人の隣に立つべきだったのに……。


 ララが、メリーアンからユリウスを奪ったことだろうか。


「それが、やっぱりいけなかった? だからあの領地の人々も、私の言うことを聞かないの?」


 つぶやいては、ため息を吐く。


「……その通りだよ。だからメリーアンを、元の場所に戻してやればいいのさ」


 ララが考え込んでいると、不意に声をかけられた。


「……誰?」


 ララは警戒したように、座っていたベンチから腰を上げる。

 振り返れば、ララの見知らぬ男が立っていた。


「……怪しいものじゃないですよ」


「怪しい人はみんなそう言うわ」


「ふふ。そうですよね。じゃあ、これ。身分証」


「……」


 提示された身分証を見て、ララは訝しげな顔になる。


「……あなた、私になんの用事ですか? 私、あなたと関係ありませんけど……」


「いえ、二人の利害が一致するんじゃないかと思いまして。取引をしにきただけです」


「取引……?」


 男はこくりと頷いた。


「僕はメリーアンが邪魔だ。あなたは今、メリーアンが必要なんじゃないですか? さっき、散々つぶやいていたでしょう?」


「……そうだったら、なんなの?」


「僕にいい考えがあるんです」


 男はにっこり微笑むと、ララに小さくささやいた。


「それ、は……」


「なぁに。うまくやれば人は死にませんよ。領地の人たちを人質にして、少し揺すってやればいいんです。そうすれば元通り。ユリウスとメリーアンはまた仲良くやっていきますよ。そしてあなたは、新しい人とうまくやればいいさ」


「そんなに上手くいくかしら……?」


「ええ、きっと」


 そんなうまい話があるものかとララは疑っていたが、男の提案は魅力的だった。


「具体的にどうすればいいの?」


「簡単さ」


 男は中に人形の入ったランタンのようなものを差し出した。


それ(・・)を言われた場所に埋めてくれればいい」



 そうすればあの地は──……。


 

 男の言葉に、ララはごくりと唾を飲んだ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ