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聖女様に婚約者を奪われたので、魔法史博物館に引きこもります。  作者: 美雨音ハル
第2章 美味しいアップルパイの作り方
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お嬢様がいないなら② ある騎士のため息

「メリーアン様のことを尋ねる怪しい男、ね……」


 難しい顔をしたガイが、顎に手をあてて考え込んでいた。


「絶対やばいやつじゃん、それ」


「ああ。貴族社会というのは、血生臭さが絶えんものだからな……」


 先ほど詰所にやってきたマージの息子ポールが、メリーアンのことを尋ねる怪しい人物に出会ったのだという。

 聞かれた内容は、主にメリーアンの居場所に心当たりがないかということ。

 どうもポールに忘却術をかけて去っていったようなのだが、ポールにはそれがきかなかったようだ。


「ポールはキャンセラーだからな。相手も分からんかったんだろう」


「魔術師か何か知らないが、間抜けな奴もいたもんだよね」


 レオンは馬鹿な魔術師のことを思って、鼻で笑った。

 キャンセラーというのは、生まれつき魔術にかからない体質のことを指す。

 アストリア全体で見るとキャンセラーは貴重だが、なぜかクロムウェル領ではキャンセラーの子供がよく生まれるのだ。ミアズマと何か関係があるのかもしれないが、原因はまだはっきりとは分かっていない。


「それで、ポールがその人の、カフスボタンの模様を見たんです」


「カフスボタン……家紋か」


 ガイが呟くと、マージは頷いた。

 マージはポールに、その絵を出すように促した。


「下手でごめんなさい。これ、オリーブを咥えている鷲なんだ」


 ポールはモジモジと持っていた紙を差し出した。


「最高にうまいよ、ポール。さすが王都の名門校に合格しただけある」


 そう言ってレオンがポールの背を叩くと、ポールが照れたように笑った。

 ポールはまだ五歳だが、すでにその優秀さから、王都でも五本指に入ると言われている学校の小等部に合格していた。学校に通わせたいというマージの願いを聞いたメリーアンが、お金の都合をつけてくれたのだ。子どもに投資するのは当たり前のことよと笑って。

 

「んんん? この紋章、どこかで見たような気が……」


 ガイが覗き込んで顎に手を当てる。

 確かにポールの絵では、横向きに描かれた鷲がオリーブの葉を咥えていた。

 騎士たちは貴族ではないので、基本的に貴族社会には疎い。

 それでも見かけたことがあるということは、相当有名な家紋なのだろう。


「一旦領主様に報告しよう。レオンは他の騎士たちに合流して怪しい奴がいないか探してくれ」


「了解」


 メリーアンのこととなると、レオンはスムーズに動く。

 ガイがそのことに苦笑していると、詰所にまた誰かがやってきた。


     *


「素敵! これがユリウスの騎士たちなのね? よく顔を見せて?」


(ふざけんじゃねー)


 ララに触れられて、レオンは唾を吐きたくなるのをグッと堪えていた。

 詰所にやってきたのは、噂の聖女様とその侍女だったのだ。

 

「田舎の騎士でも、こんなに綺麗なものなのね。ねえ、お屋敷で一緒にお茶をしましょう?」


「……聖女様のお誘いはありがたいのですが、我々は今業務中でありまして。急ぎ確認したいことがありますので、申し訳ございませんが」


 そう言ってガイが謝罪すると、ララは首を傾げた。


「えっ? 私よりも仕事を優先するってこと?」


「私たちの使命は、この地に住む者たちの命を守ることです。そう簡単に仕事を投げ出すわけには行きません」


(最近はサボり気味だったけどねー)


 レオンが心の中で舌を出していると、ララが首を傾げた。


「そんなのどうだっていいじゃない」


「……は?」


 一瞬ガイもレオンも、その返事の意味が理解ができなかった。

 それから徐々に、二人の顔に困惑が広がっていく。


「では、領民は誰が守るのです?」


 けれど困惑しているのはララも同じだ。


「なぜ私よりも領民を優先するの? 優先すべきは主人である私でしょう?」


「我々が忠誠を誓ったのは、ユリウス様です」


「俺はメリーアン様」


 さっとレオンがそう言うと、ララの顔に不快な表情が浮かんだ。


「また、メリーアンさんの話……」


 それから首を横に振ると、天使のような笑みを浮かべる。


「ねえ、いいのよ。正直に言って。あなたたちもメリーアンさんに言われて、私に意地悪をしているんでしょう?」


「…………」


 今度こそレオンとガイは言葉を失ってしまった。

 部屋の端で成り行きを見守っていたマージですら、口をポカンと開けて絶句している。


(おいおいおい、何言ってるのさ、この女は?)


「いいのよ、もう頑張らなくても。だって全てのミアズマは、私が浄化したもの。だから、ね?」


「でもメリーアン様は、しばらく油断せずにいましょうって言ってたよ」


 大人たちの沈黙を破って、ポールがトコトコとララの前に出てきた。


「万が一のことがあるからって」


 ポールの言葉に、ララは顔をしかめた。


「……汚らわしいわ。近づかないで」


(おいおい、汚らわしいって……)


 あまりにひどい言葉に、流石のガイとレオンも止めに入ろうとした。


「そのように汚い格好で、聖女様に近づかないでください」


 しかしその前に、サッとローザが飛び出してきた。


(こいつら、一体何様なんだよ。自分だって農民の出身のくせに)


 苛立ったところで、マージが走ってきてポールを引っ張った。


「ポール!」


 けれどポールはじっとローザを見据えている。


「僕のためにお金を出して学校に行かせてくれるメリーアン様が大好きなんだ」


「ポール! どうしたの、いいから黙って!」


「だからメリーアン様の言うことは絶対なんだよ!」


 ごめんなさい、と何度もマージが頭を下げた。

 けれどポールの態度はローザの怒りに触れたようで、ローザは手を振り上げた。

 その瞬間、レオンはポールがじっとローザの腕を見ていることに気がついた。

 レオンはそのまま、ローザの手をガッと掴む。


(こいつ、カフスボタンが……)



 ──鷲とオリーブの紋章だ……。



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