第143話 公爵令嬢
冒険者ギルドの受け付けで、ダンジョンの位置を地図を広げ説明を聞いている。
「1番近い所ですと、街道沿いのここですね」
お姉さんが指差したのは、この街より少し離れた場所の湖の近く、毎日馬車が何本も出ているそうだ。
「この場所行きの馬車はもうすぐ出発すると思いますので、急がれた方が良いと思いますが」
馬車かぁ、面倒くさいから飛んでいこう。
「ん? 少年は湖のダンジョンに向かうのか?」
煌びやかな鎧を纏った美人さんが声をかけてきた。
「はい、そうですが」
「残念だが、私がここに来る前に出発したぞ」
「アイリーン様、今日も依頼を受けに来ていただいたのですね」
「ああ、今日こそは10階層の魔物を倒して見せるさ」
ん~と、まぁ良いか、ナビ、方向も分かったし飛んでいこう。
『そうですね、一応他のダンジョンの位置も記憶しておきますね』
ありがと、んじゃ、行くか。
「お姉さんありがとうございます、ゆっくり歩いて行ってきます」
「馬車が行ってしまったのなら、仕方がないですね、では夜営の用意も忘れずに、お気をつけて」
「はい、頑張ってきます」
「少年は1人か? 猫は居るようだが」
「はい、勝手気儘なソロ活動中です」
「ならば、私の馬車に乗っていくと良い、依頼を受けるので少し待っててくれ」
「え、いや」
アイリーンさんはそう言うと、何かの依頼を受けている様だ。
今の内にこっそり出ていこうと思い、出入口へ向きを変えようとしたのに、肩に手を置かれた。
「待たせたな、では行くぞ」
「アイリーン様もユタ君もお気を付けて」
「ああ、行ってくる」
「えっあの、俺は1人で大丈夫ですよ」
「なに、遠慮するな、あははは」
肩に手を置かれたまま、俺は連行されたのだった······
ガタガタガタガタ
小さな馬車だが、トレントがふんだんに使われており、付与もそこそこ。
ちょっと改造してやろうか?
『うふふ、アイリーンさんが話しかけてますよ』
「おい、少年は気持ち悪くなったのか?」
全然聞いてなかったが、ずっと話しかけてくれていたようだ。
「いえ、この馬車の事を考えていまして、もう少し付与も出来るのに、勿体ないなって(笑)」
「ふむ、少年は付与魔法が使えるのか、何か良いものを付与したなら、その対価は支払うぞ、遠慮無くやれば良い」
「ん~と、やってみますね(笑)」
『悪い顔になってますよ~♪』
「うむ、走りながらでも良いのか?」
「はい、いきますよ、付与魔法! ほいっと!」
それはもう色々付けました。
始めにやったのは、トレントからエルダートレントに差し替える事かな、それから思い付く限りの付与を。
自動修復、空間拡張、各種耐性、空調、振動無効、回復、治療、等々
空間拡張ついでに、エルダートレントで部屋を造り、リビング、ダイニング、キッチン、お風呂にトイレ、寝室、客間に応接室。
魔道具も色々付けて、ソファーもコンシェルジュさんのお兄さんに作ってもらった物のコピーを造り、設置して、浮遊で浮かせてジタバタしているアイリーンさんを下ろし、一応完成。
アイリーンさんがジト目で見てくるが、······どないしょ。
『うふふ、可愛い方ですね、喋り方は少し男性っぽいですが』
それは俺もそう思ったよ、鎧も造ってやろう。
俺はビッグボアと龍を全種類出し、革鎧を造る。
少し煌びやかにしてやろうか? いや、色を髪の毛の黒に合わせ白っぽくしてしまおう。
革鎧は完成したが、やっぱり刀も欲しいよね、小さなルームを出してその中に炉を造り打ち出す。
カーン カーン カーン
カーン カーン カーン
太刀と小太刀、鞘は世界樹で、これも白にしよう。最後は付与をガチガチにしちゃいました(笑)
全てが完了し、アイリーンを見たら······キラキラした目になっていた。
「アイリーンさん? えっと、アイリーンさんのために造ったから装備してくれるかな?」
「よ、良いのきゃ」
かんでますよ~(笑)
「もちろん、アイリーンさんのためにって言ったでしょ」
俺はガラスのテーブルの上に革鎧と刀を置いた。
「う、うむ、では装備させてもらおうか」
アイリーンさんは立ち上がり俺に背を向けた。
『おそらく着せて欲しいのでは?』
え? 簡単に着れるよ?
『称号を見たら分かりますよ』
ん~称号か、お~公爵令嬢様やん。
『ですので、いつもは着せてもらっているのでしょうね、ほらほら、勇大様が動かないので悲しい顔になってますよ(笑)』
はあ~了解。
立ち上がり、アイリーンさんの後ろから鎧の留め金を外し鎧を脱がせていく。
凡て脱がせ終わり、服が魔道具になってるが、あんまり似合ってないので、エトリの糸で全部造り直す。
一瞬すぽぽんぽんになったのは置いておいて、付与もガンガン付けて、革鎧をバンザイしてもらいスポッとかぶせ、着せていく。
最後は刀を腰に取り付け完成。
「アイリーンさん、終わりましたよ」
アイリーンさんは顔を真っ赤にしてこう言った。
「ふつつか者ですが末永くよろしくお願いします」
そう言い俺の胸に飛び込んできた。
「え? 何? どういう事?」
「姫様はあなた様に裸を見られましたので、おめでとうございます」
「え? 誰? いつの間に?」
突然現れたメイドさん。
「ずっとお側に控えておりましたが、うふふ」
「いやいや、それは良いとして、どうなったら裸を一瞬見ただけでこうなるの!」
「姫様は公爵様の一人娘、王家のお子は姫様のみでございます、次期王よ、王家の女性は肌を見せた者に嫁ぐと決まっております、現くそ王、あら、失礼しました、現国王も、お綺麗でおとなしい王妃様に無理矢理せまり婚姻、この国の汚点です、あっ、失礼しました」
その後も王さんの悪口が出るわ出るわ。
「あの、王様とか嫌ですが」
「逃げることは出来ませんよ、姫様が、先ほども言わせてもらいましたが、このように冒険者としてダンジョンに行くような姫を、誰がもらってくれるのですか! 次期王よ、観念なさいませ、歳も、そう変わり無さそうでございますし」
「え? 俺9歳なんやけど」
「まぁ、一緒でございましたか、ご成婚は12歳の成人までは待っていただきますが」
「マジで! 物凄く美人さんやから」
称号しか見てなかった······
『皆さんから、おめでとうですって(笑)』
いやいや
ちゅ
「まあまあ、姫様ったら大胆でございますね、うふふ」
「ちょっと、なにしてんの!」
「お嫌いですか······」
うるうるしだしたアイリーンさんの頭をなでなで。
「はあ~、嫌いじゃないけど、アイリーンさんみたいな美人さんならいくらでも良い人が現れますよ」
「いえ、このような私の事を美人などとおっしゃる方はもう現れません」
「うふふ、姫様が女言葉をお使いとは、中々聞くことが出来ないレアですわ、さて、姫様、そろそろダンジョンに着きます」
「分かったわ、いや、分かった、いつもの場所に馬車を停める様、御者に伝えよ」
「はっ、伝えて参ります」
消えた! セレスさんやセバスと一緒か!
『その様ですね、中々のレベルですよ』
スゲ~な、執事さんとメイドさんって、ってかどないしましょ、アイリーンさん離れへんけど、この世界の神様に怒られやん?
『あはは、分からないですね』
そして馬車が停まり、外へ出る時にやっとアイリーンさんが離れてくれた。
外に出ると冒険者ギルドの出張所があり、屋台も結構な数が出店していた。
ふらふらと屋台に行こうと歩きだしたのだが······
「少年、まずは出張所で所在登録をするぞ」
捕まって肩を持たれている。
「所在登録?」
「知らんのか、誰がダンジョンへ入り、出てきたかを確認していてな、入ったにもかかわらず、予定の日程をオーバーすれば救援部隊が組織される」
「ほお、それは良いね、んじゃ、登録しに行こうか」
「うむ、行くぞ」
俺達は出張所に入り、並んでいる最後尾に並んだ。
魔道具に、ギルドコインを置くだけの簡単な登録方法なので早い。すぐに順番が回ってきて、俺もギルドコインを魔道具に置いた。
「よし、此れでオッケーやね、じゃあな、俺は先に行くな」
「え? 私とはパーティーを組まないのか······」
大粒の涙が今にも、こぼれそうになっていたので俺は、とりあえずアイリーンのアタマをなでなで。
「はぁ~、パーティーか、良いよ組もうか」
「うん」
アイリーンが所在確認の登録を済ませた後、パーティー "わーるどじゃんぷ" をこの世界でも結成してしまいました。
いつも読んでくれて本当にありがとうございます。
これからも読んでもらえるように頑張ります。




