貯金箱
「今日もお手伝いありがとう」
また、お母さんが百円をくれた。
「ありがとう」
飲んでいたオレンジジュースを机に置き、もらった百円を握りしめて棚へと向かった。
棚の上の方にある貯金箱に手を伸ばす。
「大丈夫? 届く?」
「大丈夫だよ、心配しないで」
おかしな顔をしたブタの貯金箱を手に取って、その背中の穴に百円玉を入れると、ちゃりん、とお金の山にぶつかった音がした。
「いっぱい溜まったね」
「うん。お母さんが毎日くれるからね」
「いつもお手伝い頑張ってくれるもの」
頬にしわを寄せて微笑むお母さんは、よいしょと立ち上がって、ご飯を作るためにキッチンへと向かった。
「お母さん、もうご飯はいらないよ」
「そんなこと言わないで。今日はあなたの好きなハンバーグだから」
そう言って、冷蔵庫から取り出したタネを丸めはじめたお母さんと、その横でラップに包まれたおかずを見て、苦笑いをこぼす。
「この歳じゃもうそんなに食べられないよ」
「何を言ってるの。ちゃんと食べないと背が伸びないわよ」
鼻歌を歌いながら火をつけたお母さん。もう今夜はハンバーグから逃げられないのだろう。
諦めて畳に座った私は、貯金箱を机に置いた。
私がお母さんに買ってもらった日から数えて、もう五十歳にもなるそのブタは、きれいなピンクだった肌も色あせて、くたびれた表情をしていた。
「伸びるわけないだろう、お母さん」
いっぱいになったその腹の栓を抜き、中身の一部をお母さんの財布にこっそりと入れた私は、油のはじける音を聞きながら、少し酸っぱいオレンジジュースを飲みこんだ。
練習なので、よければ忌憚のない感想をください。