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罪と罰

作者: 波香

 あの時と同じように眉を下げて笑う彼の写真に、そっと手を合わせる。


 私、ずっとごめんねって言いたかったんだ。

 ずっとずっと、本当はずっと言いたかったんだ。貴方は私のことなんて忘れてしまったかもしれないけれど、私はずっと憶えてて、ずっと言いたかったの。

 小学生の時の、馬鹿みたいな照れ隠し。

 私は貴方と話す時間が大好きだった。それが恋愛感情だったのか、それともただクラスメイトとして大好きだったのかはもう分からないけど、貴方との会話がすごく楽しかったの。

 でもそんなこと伝えれる訳がなくて、意地を張っちゃってごめん。

 私、嬉しかったり恥ずかしくなる度に素直になればよかったのに、毎回貴方を殴ったり蹴ったりしてた。決して殴り返さない貴方の優しさに甘えてた。すぐに手が出る、キレ芸キャラみたいな立ち位置に甘んじてた。

 ネタのつもりだったんだよ。ユーモアセンス抜群だった貴方ならきっと分かってくれてたかもなんだけど、貴方のことが嫌いだったとかそんなことはないの。ただ、ありがとうとか可愛いことが言えなかっただけなの。貴方のことが好きって、ちゃんと表現できなかっただけなの。

 中学生になってから、ほんとに後悔したんだよ。

 私、その時になって初めて、自分のしていたことが暴力に分類されるって気付いたの。遅すぎるよね、アホだよね。自分のしていることは痛いことなんだってちゃんと分かってなかったの。貴方はいつしか私の蹴りを避けるのが上手くなっていたけど、そんなことを上手させてしまった自分にすごく腹が立ったの。待ってこれすごくエゴかも。全然私のせいじゃないかもしれないよね。私が私の責任にしたいだけかも。貴方の人生において私は大きな存在だなんて思ってないよ、勿論。ただ、貴方を傷つけていたら嫌だなって思うし、思ったし、貴方を蹴ったり殴ったりしたのは事実だったから、それを謝りたいんだよ。


 小学生の時は結構同じクラスだったのに、中学生になってからは全然一緒のクラスにならなかったね。

 接点があったら謝ろうって、私本当に思ってたんだよ。本当なんだよ。

 小学生の時まじごめんねって言おうと思ってたの。

 許されたかったんだ。

 貴方なら蹴っても殴っても良いと思ってたの。本当に馬鹿。そうだよ、貴方なら私のこと嫌いにならないと思ってたの。それに多分貴方は小学校の卒業の時まで私のこと嫌いじゃなかったよね。卒アルにサイン書いてって、男子で一番に言いにきてくれたもの。あれ、めっちゃ嬉しかったよ。私そのお礼ってちゃんと言ったのかな。言ってなかったらごめん。また謝ること増えたね。

 その後の中学校生活は多分一回も会話しなかったね。学年の人数も多かったし、私たち小学生の時から同じクラスの時しか会話しなかったもんね。

 でも私は廊下で貴方を見かける度に罪悪を感じてたし、自分のことが嫌いになったよ。違う、貴方のせいじゃない、過去の私のせいだよ。

 私、自分を許したかったんだ。自分に許されたかったんだ。

 貴方は私がしたことなんて全然気にしてなかったよね。それが貴方の強いところだったし、優しいところでもあったよね。でも私、その優しさによって許されてしまった自分が、すごく情けなかったし悔しかったし赦せなかったよ。

 本当はもっと、サイン書いてって私の席に来た貴方みたいに素直になりたかったの。多分私は貴方に憧れてたんだわ。ちょっと普通とは違う貴方。周りの他の男子みたいにヘンに揶揄ってこない貴方。そんな貴方のことをきっとカッコいいと思ってたし、そんな貴方と仲が良い自分にちょっと優越感があった。

 だからこそ、その感情をちゃんと伝えられなかった自分をどうしようもなく嫌いになったの。

 貴方のことが大好きだったんだよ。それだけは、信じてよ。


 きっともうこんな言葉は届かないね。まだ届くうちに、他人の目なんて気にせず言っていればよかったね。

 そしたら私、こんな後悔抱かなくてすんだのにね。

 買ったばかりの黒いワンピース。まさか貴方に最初に見せるとは思わなかったよ。

 でもこれが、私の罰なんだよね。ごめんね、本当に。

 本当に。

 勝手に殺してごめん。

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