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転生と魔法と魂の神話  作者: 黒牧羊
憧憬と小雨
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第三話 発現



「お母さん、お母さん!」


7歳ごろだっただろうか。


あの頃は純粋で無垢だった。


世を知らず、人を知らず、自分の世界で全てが完結していた。


「ふふ、なぁに?」


そして、嬉しそうに、楽しそうに、優しく微笑みかけてくれる母が、その世界の大半を占めていたと思う。



当たり前に傍にいた。


当たり前に甘えた。


当たり前に笑顔だった。



それが当たり前の日常だった。







しかし、当たり前とは往々にして。




唐突に、そして無慈悲に、終幕が下されるものだ。







その日は、どんな日だったか。


ただ、二人並んで歩いていたのは覚えている。


そして、手を繋いで藹々としていた。


きっと、何か取り留めもないことを話していたのだろう。


自分は口を開くたびに瞳を輝かせ、それを聞いている母が微笑ましげにする。


ただそれだけのことが無性に嬉しくて、横並びの列から飛び出て弾むように歩いた。


そして、母を振り返ったところで―――




「葉月!」




そんな母の焦燥に塗れた声と共に、その場から弾き飛ばされた。ほぼ同時に―――



ガシャァァァァアアアン‼︎



轟音が炸裂する。



しかし、葉月にはその音も、地面を転がる痛みもどこか遠くに感じてていた。



何故なら、その音の原因のトラックと、建物の、かべの、すきま、からみ、えている、ては、さっき、まで、つないで、い、た、てで―――




「お、母さん。お母さん!お母さんお母さんお母さんお母さんお母さんッーーー‼︎」



葉月の、破壊の轟音にも負けない絶叫が轟いた。














母が死んだ。





自分を、庇って。


それを聞かされた時は、実感が伴わなかった。


ただ、涙を流して事故の記憶を否定するのに精一杯だった。


ポロポロ、ポロポロと零れた涙が、床に一つ一つ、小さな水溜まりをつくるところ見ることしかできない。


俯いて、顔を伏せて―――ポロポロと落とす。


その時は、共に父も居たが、父もただ、瞑目するだけだった。



それから暫く経って、気持ちが落ち着いてきた頃、冷たい母を見に行った。


ピクリともしない、瞳を開かない、当たり前の笑顔も無い母―――それを見て、葉月はどこか腑に落ちた。


―――ああ、これが死なのか。これが別れなのか。これが現実なのか。


伏せた顔の、虚な瞳で、母を見つめる。


ジィ、っと見つめる。


火葬前の最後の機会だ。本物(死体)を見ることはもうできなくなる。


だからだろうか。離れて行く母を見て、全てにそう告げた―――



―――さようなら。



最後の瞬間まで、葉月の瞳は虚だった。








数年後。



葉月は、母の死など感じられない普通の学校生活を送っていた。



ただ、その顔は俯いており、言動は非常に合理的だったが…………。




そして迎えた高校の入学式。




しかし、そこで伏せた顔をあげることになる。




―――そして、目に入ってきたものは、










久しぶりに見る満開の桜だった。










〓〓〓〓

〓〓〓〓



「あぁ〜、疲れたぁ」



葉月はそう言いつつゴツゴツした壁に寄りかかり、座り込んだ。


場所は最初に目を覚ました洞窟だ。


運んできていた魔物の下半身は、洞窟に入って少ししたところに置いてある。


一仕事終えた葉月はちょっと休憩、とでもいうかのような気の抜いた表情をするが、それもすぐに引き締めると、状況を整理し始めた。


「さて、状況を整理すると……」


転生していた。


洞窟があって、外には森林が広がっている。


川近辺に行くと、魔物に襲われた。


何故かその魔物が死んだ。


「……この四点かな」


まず、転生について。


これが一番不可思議だが、一番単純で理解しやすい。

現在地、魔物のような存在から考えて、既にこの状況は異世界転生と断定してもいいだろう。


次に、現在地について。


巨大な崖に洞窟があり、外には豊かな自然が広がっていた。洞窟から出て前方斜め左側には川があり、そこで魔物と遭遇した。


これに関しては、まだ極々一部のみしか確認しておらず、食物の存在や魔物の行動範囲、そもそもの森林の広さすら分かっていないのである。また、森林だけではなく、洞窟内の探索もするべきだろう。ただ、洞窟内は暗く、視界が確保できないため、その問題が解決するまでは森林の探索だ。


次に、魔物。


この存在も種類等よく分からないことだらけだが、最初に遭遇した個体の様子から強力で凶暴なのは間違いない。となれば、生活するのにも、探索するのにも、戦闘力は必須。自分を鍛える必要がある。


最後に―――魔物の死について。


これが一番不可解で、謎なのだ。魔物は葉月にとどめを刺そうとしたところで、突如として上半身が散った。何の前触れも無く、だ。当時、葉月は視界と意識が朦朧としていたため、何か見逃した可能性はあるが―――過ぎたことはもう分からない。実は、放置してもマイナスにはならず影響は無いのだが、戦闘力の増強になるかもしれないから調べておきたい、と葉月は考えていた。


手っ取り早くその謎を解く方法は、再び魔物と戦闘することだ。偶発的なのか、必然的なのか確認し、次はしっかりと視認するためにも、それが一番効率がいい。無論、命の危険はあるが―――葉月は気にしない。



結論として、今、葉月がやるべきことは―――


森林の探索。主に食物の有無、魔物の行動範囲や森林の広さ等。


自己の戦力強化。


魔物との戦闘による謎の解明。これは実戦訓練にもなり、戦力強化にも繋がる。というより、葉月に武術の心得など無いので実戦での叩き上げをしていくしかない。




「よし。じゃあ、森林の探索兼魔物との戦闘に行きますか」



何かしなくては始まらない、と早速外へと踏み出す。


戦闘に関しては先程の感覚が残っている内に経験しておくのが得策だ、と考えたのだ。


洞窟から出て暫く周りを見渡した後、正面に直進することにした。川に向かった時とは別の方向である。


周囲を観察しながら進んで行くと、初めは似たような景色が続くが、途中から様子が変わってきた。地面が踏み固められ、樹木が傷ついていたり、争ったような痕跡があり、生物の気配を感じるのだ。


(見る限り、洞窟から離れるほど魔物が増えていくのか……)


葉月はそっと息を潜めながら、より注意深く観察する。魔物に気が付かれず遭遇出来ることを期待しつつ、探索を続行する。




また暫く歩くと―――



「………流石にそううまくはいかないか」



聞き覚えのある地を揺らす音が聞こえた。此方からはその姿は見えないが、あちらはハッキリと捉えているらしい。どうやら魔物の索敵を侮っていたらしい、と脳内で上方修正しつつ身構える。


段々と大きくなる音と共に近づいてきたのは―――



「グリャアアアアアァァァアアァァア‼︎‼︎」



トカゲ顔で触手を持つ魔物だった。


葉月が同じ種類の魔物とは運がいい、と思っていると、魔物―――仮に触手トカゲと呼ぶ―――はその二本足で猛スピードで突っ込んで来る。


しかし、葉月はそこから動かず、相手の一挙手一投足に注意する。


そして、触手トカゲの牙が葉月に突き刺さる―――



直前に、背後斜め右側に跳んだ。



触手トカゲは追撃に触手の鞭をしならせるが………



「ふっ!」



葉月は前回の戦闘から一連の流れを予想していたため、そのまま後方に転がって回避した。


(とりあえず、何も起きない…か)


そう内心で呟きつつ、体勢を整える。


「グリャァァァアアア‼︎‼︎」


すると、触手トカゲは腕を振り上げて突進して来た。


葉月はその腕を見切り、ダン!と踏み込むとその懐に入り込み、力の伝達を意識して拳を放った。10歳の体でその3倍程の相手に拳を放つのだ。葉月も大して期待せず、すぐに離脱するつもりでいた。だが―――


「グリャア⁉︎」


その予想に反して、吹き飛ぶ、とまではいかないが触手トカゲは大きく後退した。


これには葉月も軽く目を見張る。が、すぐに戦闘中だと切り替えて構える。


「グリャアアアアアァァァアアァァア‼︎‼︎」


触手トカゲは自らよりも矮小な存在にから攻撃を受けたことが癪に触ったのか、その赤い目をさらに血走らせて突進する。


葉月は次も回避するためにその行動を注意深く警戒していたが―――


「ッ………」


触手四本の同時攻撃は捌ききれなかった。時間差で攻撃が飛んできたため内二本は避けきれたが、残り二本はまともに受けることを覚悟する。せめて、と腕を交差して防御態勢を取った。


そして、二本の触手が葉月を打ち付ける―――



瞬間。



葉月の横に現れた『水』が二本の脅威を纏めて逸らすと、そのままその勢いを奪ったように一条の線と化し、上から下に半円を描いて触手トカゲの土手っ腹に直撃した。



「グリャアアァア!!??」



それは一瞬の出来事で、勢いにのっていた触手トカゲは余計訳がわからずに来た道を吹き飛ばされる。



「っ……」



一方、唐突な出来事に葉月も少しばかり驚いていた。しかし、すぐに精神を立て直す。



(……今のが、一体目の魔物を倒したものか?)



状況的に見て、葉月が原因なのは間違いないだろう。そして、葉月の危機的状況に敵を攻撃する、という共通点があるため、葉月の内心の推測は確度が高そうだ。相手へのダメージという違いがあるが……それは危機的状況のレベルによるものか。身動きが出来なかった一度目に比べ、二度目は死ぬ可能性は低かった。両腕がダメになるかもしれなかったが。


それが的を射ているのならば疑問の一つが一気に解決するが……まだ情報が少ない。断定には少し早いだろう。


そして、いかんせん葉月にそんな超常現象を起こした自覚がない。



「……」



噂に聞く魔法のようなものかと思い、葉月は掌を上に向け、念じてみる。



すると―――



「出た……」



掌の上に水球が出現した。


一瞬呆然としたが、すぐにハッ!っと我に帰り考察する。


感覚的にだが、胸の内で何かを感じたような……



「グリャアアアァァアアア‼︎‼︎」



そこまで考えたところで、再び触手トカゲが襲い掛かってきた。


「……」


葉月は冷静にその姿を見る。そして、命を潰す豪腕が振り下ろされたところで、



横に避けつつ、それに水球をぶつけた。




パァン!




「グリャア⁉︎」

「クッ……」



水球は派手に破裂し、それによりそれを挟んでいた両者は弾かれる。



転がり、片膝を突いた葉月は、次に両手に水球を生み出した。


その時に、やはり胸の内に何か感じた。それは、力が脈動するような、力を行き渡らせるような……


「グウゥゥ……」


体勢を整えた触手トカゲが、流石に警戒するように葉月を睨む。


葉月もそんな様子を見せる相手をジッと見つつ、先程感じた力を意識して水球を動かしてみる。


すると、二つの水球は葉月の周囲を旋回し始めた。それを要領を掴もうとするように続ける。



そして―――



速度が乗ったそれを触手トカゲに飛ばした。


「グァ‼︎」


しかし、それは横に飛びつつ駆け出され、躱されてしまう。


カウンターだ、と言わんばかりに勢いよく飛び出した触手トカゲだったが―――


「ァア⁉︎」


死角に放たれていたもう一個の水球に脇腹を撃ち抜かれた。


それにより体勢を崩した隙に、葉月はより力を意識して二回りほど大きい水球を生み出し、そして―――



一条に放出した。



「グリャァァァァアアァァ‼︎アアァァァァ………」



そして正面からのそれは、触手トカゲの胸に穴を開け、絶命させるに至った。



「っ、ふうぅ」



初めてのまともな戦闘行為を終えた葉月は、その余韻を吐き出す。なかなか神経を使ったな、と思いつつ思考えを巡らせる。


(この力は何なのか……は別にいいとして、感覚的にだから使い方が合ってたのかは問題だな)


力の正体は問題ではない。知りたい気持ちはあるが、知る術は無いのだ。ならば、あるものをあるものとして視るのがいいだろう。


しかし、力の行使は誤っていたら効率が悪い。葉月の力の行使は誰に教わったものでもないため、正しい使い方ではない可能性は十分にある。まぁ、今のところ自分以外に人が見当たらないため独学で試行錯誤するしかないが、とその不安を解消することは諦めるが。


「とりあえず、戻るか……死体持ってこう」


この周辺と比べて洞窟があった場所の周りは荒れていなかったため比較的安全だろうと、疲れもあり戻って休むことにした。


その際、触手トカゲの死体を持ち帰ることも忘れない。


葉月は、そうして今度は死体全体を引き摺って洞窟まで戻って行くのだった。


ちなみに、今回は傷が小さかったため、血痕の処理は比較的楽だった。







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