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それから一ヶ月

 イレギュラーなイベントがあった以外には大きな問題もなく今年の式典は終わり、夏の間は帰国して国内外での公務に駆り出された私が帰国したのは一ヶ月後。

 夏休み最後の一週間というタイミングだった。

 日曜に公園に顔を出せば、奥さんを脇に伴ったモトベさんがいつものように屋台を出していた。


「お久しぶりです」

「おう、お嬢ちゃんか。俺っちらが旅行に行っているあいだ里帰りしていたんだってな」

「ええ」

「でもなんだか不思議だな。旅行中どこかでお嬢ちゃんの姿を見た気がするよ」

「え、あ、アハハ」


 どうやらモトベさんは記念式典の場で顔を合わせたマリー公女が私だとは気づいていないようだ。


「きっと旅行中にルンテ大使館の式典に参加したときに会った公女様のことですよ。名前も同じマリーだから、この人ったら混同しちゃったようで」

「そうですか」

「ところで久々に顔を出したんだ。何か食っていくんだろう?」

「もちろん」

「だったらオススメはローストアーモンドの鉄板アイスクリームでさあ。ジャポネ一と名高い菓子職人、ミチカ・ローウェルお墨付きの新メニューだぜ」

「そ、それは」

「なんでぇ、アーモンドにアレルギーでもあるんか?」

「そうじゃないですよ」

「だったらオマケするのでマリーさんには是非。このアイスクリームはあのときの勝負がキッカケで産まれたんですから」

「それってもしかして惚気話ですか?」

「そうよ。わたしはもうお腹いっぱいだから、残りはマリーちゃんがお食べなさい」

「ひゃ! アマネさん!」

「見ないあいだに実家で良いものでも食べたんじゃない? どことなくムッチリしてて、ヨハネ好みの体じゃない」

「や、やめてくださいよ」


 ロックさんがアイスクリームを作るために出していた顔を屋台の中に引っ込めると、入れ替わるように隣から出てきたアマネさんがおもむろに私の体を触ってきた。

 こちらとしても見ないあいだにラチャンみたいなことをするようになったのか? と、ツッコミ入れたくなるところ。

 だが指摘された通り少し肉付きが増えていて、特に胸の大きさはブラジャーを新調するくらいなのでちょっとした自慢だ。

 それを彼好みだと不意に言われたら、彼に恋する立場として私は赤面してアマネさんを振りほどけなかった。


 彼の方に目を向けたが彼は照れているのか奥に引っ込んで目を合わせてくれない。

 だが頬が微かに赤くなっているのが見えたので、アマネさんの妄言もあながち嘘ではないようだなと、私は余計にときめいた。

 こんな状態で一時ながら新婚夫婦の旦那さんを昔から好きだった恋しい人と錯覚させたあのアイスクリームが目の前に届く。

 今食べたらリアクションで変な行動をしてしまいそうだなと思う私は恐る恐るスプーンを手に取ったが……この後どうなったのかは、また別の機会にしよう。

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