表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

傲慢な女王

 事の起こりは一週間前。バーツクでの料理勝負が終わった直後の私が帰省の準備をしていた頃の話と聞く。

 式典後に開かれる夕食会に出すデザートを誰に依頼するのかで、大使館の職員は意見が二分されていたそうだ。

 大使を中心とした古株職員が支持していたのはミチカ・ローウェル。

 彼女は過去十年間、式典後の夕食会でデザートを担当していた女性職人で、ジャポネ一の呼び声も高いベテランだ。

 私も去年頂いた鉄板アイスの味は先日告示したモノを食べたばかりなのもあって目を閉じただけで思い出せるほどだ。

 一方で公使と若い職員が押していたのは若手ナンバーワンの呼び声の高いロック・ブーケ女史。

 そう……私が審査員をしたあの料理勝負でヨハネさんたちと戦った長身の女性だった。


「ごめんなさい。姉はしばらくは休業いたしますので、残念ながら例の仮予約いただいていたご依頼はお受けできませんわ」


 そんな中、さきにアポイントを取って自分の意見を押し通そうとした公使にとって予定外のことが起きた。

 私からすれば目の前で起きた話なので知っての通りなのだが、ロックさんはモトベさんと結婚して、二人で車一台での新婚旅行に出掛けたばかりだった。

 連絡を受けた妹のノエルさんは依頼を断ったので、これでこの件は今年もミチカに依頼するという方向で話が終わる。

 そのハズだったのだが、誰が焚き付けたのやらだ。


「ロック・ブーケに断られたから、その代打でミチカ・ローウェルに依頼した」


 という風に、ミチカに話が伝わってしまった。

 仮にもジャポネ一を自負する女傑である。いかに比較対象が若手ナンバーワンであろうとも、格下の小娘の代わりと言われれば気分を悪くするのは無理もない。

 そのうえロックさんが依頼を断った理由が新婚旅行というのも彼女の逆鱗だった。

 結果、ミチカは個人的な付き合いで大使にコンタクトを取り、ロックさんを夕食会に呼びつけて料理勝負を仕掛けるつもりなんだとか。

 今年で四十歳を迎えるミチカは未だに独身で、しかも一説には若い頃にある男性にフラれたことを今でも引きずっているということでは、いわゆる高齢処女を拗らせたと言うやつだろう。

 私も今は好きな相手がいるが彼は現状では異性としては見てくれていない。

 簡単に諦めるつもりはないとはいえ、私だっていつまでも固執して独身を貫くほど悠長な考えではないので、オバサンのヒステリーはいい加減にしてほしいと言いたい。

 呼びつけると言ってもオブラートに包んだ言い方で単なる拉致じゃないですか。

 それにロックさんたちもなんでこう都合よく式典の一般来場者に混ざっているのやら。

 一般人の観覧と夕食会への参加は抽選チケットに当選した一握りにしか許可されていないのに。


 頭を抱えた私が今回の一件を知ったのは今この瞬間。

 夕食会が始まりある程度時間が経過してそろそろデザートが欲しくなる頃合いのこと。

 一般参加者の席から大使の部下によって連れてこられたロックさんに対してミチカが勝負申し込んだところなのだからどうもこうもない。

 それにしても私にまで黙ってミチカに好き勝手させるだなんて、大使は彼女に甘すぎやしないか。

 フランツが公女の口づけの仕事が無くて今日の護衛についていたら大使とはいえ大問題になっていたぞ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ