過去の因縁
今から二十年ほど昔の話。エドで開かれた菓子職人コンクールにて二人の若者がしのぎを削っていた。
一人は生菓子で有名なアルザス帰りの混血美女ミチカ・ローウェル。
そしてもう一人は地方都市バーツクから首都に乗り込んで、ダークホースとして勝ち進んできた粗野な青年コーウェン・モトベ。
決勝戦の課題はアイスクリームだったのだが……この勝敗が二人の未来を大きく変えることになった。
そんな自分が知るはずもない産まれたばかりの過去の因縁に私が巻き込まれたのは夏休みの帰省前だ。
普段は素性を隠して海外留学生マリー・シュヴァルツランツェを名乗っているわけだが、この日はジャポネでは珍しく公女マリー・フォン・ルンテシュタットとしての公務に駆り出されていた。
エドの大使館で開かれている年一回の記念式典。
曾祖母ゆかりの式典なので彼女の名前を頂いている身としては出ないわけには行かず今年で二回目の参加だ。
普段とは髪型のセットを変えたプリンセス仕様なので遠巻きではバーツクの知人にバレることはないだろうし、知人がそんな距離に来るとは思えないので身バレは気にせず作り笑顔。
滞りなく進めようと心がけていた私を内心ブチギレさせるトラブルが起ころうなど式典の最中は思いもしなかった。