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ブレイブマン  作者: Who
6/10

すれ違う感情

「『ブレイビングバースト!!』」


伸ばした右手から放たれた熱線は直後、少し離れた場所に陣取っていた生物に直撃した。


「ーーーーー!!」


それを避けることもせずにその身で受けた生物は、聞きなれない言葉のような音を吐き捨てて、爆散。破片と共にその体内から黒い煙が立ち昇る。


「ふぅ……」

『今日も何とかなったか。お疲れ、勉』

「うん、お疲れ様」


その黒い煙が空へ、その先の夢の泉へと還っていくのを見届けながら、お互いに声を掛け合う。その直後に二人の周りの景色が歪み始め、同時に二人の視界も一度閉じていった。


◆◇◆◇◆◇


「はぁ、はっ! はぁっ! はっ! ……間に、合った……!」

「珍しいな、お前がこんなぎりぎりの時間に来るなんて」

「うん、ちょっと……ね」


息を整えつつ、勉が教壇の方に目を向けると、教授の姿は未だ見えていない。その事に安堵しつつカバンを下ろす。そのまま真司の隣に腰を下ろすと、後ろに陣取っていた浩一が早速声をかけてきた。


「なぁなぁ、勉。今度の休み暇か? ちょっと行きたいところあるんだけど……」

「あー…っと、ごめん。その日はちょっと」

「んだよー。お前最近付き合い悪いぞ?」


口を尖らせて非難の目を向けてくる浩一。そうは言われても、用事があることには変わらない。

それに、最近はただでさえ『夢』への対処もかなり多い。そもそも今日のこの遅刻の原因も、『夢』への対処の後で二度寝をしてしまったからだ。

今これ以上予定を入れて、疲れの抜けきらない体で遊ぶのはどうしても精神的にきつかった。


「悪い悪い、ってほら授業始まるぞ」


謝りつつも、教授が教壇に上がったことで授業が始まり。浩一の気をそちらに向けられることに内心ほっとしながら、自分も板書に集中し始めた。


◆◇◆◇◆◇


「ぎゃあああぁぁああぁあ!!」

「よしよし、じゃあ今日も頼むよ」


耳をつんざくような音。それが辺り一帯に広げながら、巨体が街を蹂躙する。

逃げ惑う人がほとんどの中、その人影はあった。破壊の中心である巨体から少し離れたビルの屋上。

ちょうどその巨体とその周りがよく見える位置だ。はたから見れば、その人影が巨体に話しかけているようにも見えるだろうか。

――と、巨体と向かい合うように光が沸き立つ。


「へぇそうか、あれが……」


その光は徐々に薄れていき、中から巨人が現れる。


『暴れるのもそこまでだ!!』


巨体を指さし、大声でそう言うととびかかっていく巨人。


(あれが、ブレイブマン……か)


巨体と巨人。その二つが組み合って格闘を始める様を、人影は見つめ続けた。


◆◇◆◇◆◇


『暴れるのもそこまでだ!!』


指さし、宣言するようにブレイバーが叫び、その言葉に目の前の怪獣は叫びを返す。

それが開始の合図だったかのように、二人はお互いに走り寄り、そして。


「ぎゃああぁああぁ!」

『……んの、おとなしくしろ!!』


掴みあうようにして、ぶつかる。

力の具合は互角。押すことも押されることもなく、お互いに押さえつけあう。

しばらくの後、その均衡を崩したのは怪獣の方だった。


『ちょ、おわっ!?』


ブレイブマンがよろめく。後ろではなく、前につんのめるようにして。

怪獣が前に押すのではなく、右足を一歩引いたからだ。そのため、ブレイブマンの勢いままに、前に向かって体が傾く。


「ぶらぅあ!」

『ぐあぁああ!?』


そのまま右回転に移った怪獣の尻尾。それがブレイブマンの体を後ろから打ちのめした。

ブレイブマンの体は前に傾いていたため、ろくに避けることもできず、叩きつけられた尻尾の勢いに押され、地面へと引きずり降ろされた。


「ぶるぁああ!!ぎゃあぁああ!!」


がそれでけでは終わらない。倒れこむブレイブマンの腹に向かって怪獣の足が叩き込まれる。

倒れている状態では避けることもろくな受け身もできず、まともに受けてしまい、容易く転がされてしまう。


『くっそ、なんて奴だ』

(押すだけじゃだめだ。こっちも転ばせよう)

『よっしゃ、それでいくぞ!』


転がった先にまで蹴りが飛んでくるが、その足をなんとか受け止める。

足を掴まれた怪獣は当然、引き抜こうとするが、抱きかかえるようにして受け止めたそれを、引き抜かれまいと、しっかりと抱え込む。


『そ、こ、だぁ!!』

「ぐぎゃああぁあぁ!」


掴んだ足をそのままに、勢いをつけて立ち上がる。当然、掴まれたままの足も高く上がることになり、今度は怪獣がバランスを崩すようにして倒れこむ。


『トドメだ! 「クイックリィブレイブ」!!』

「うぶるああぁぁあああぁ!!」


散弾のように飛び出した光が、相手の体を所構わず貫いていく。貫かれた部分は砕け、飛び散り、空気へと溶けていく。

そうして崩れ去り、消えていく影を見送りながら、ブレイブマンは手を止める。ちょうど振りぬいた拳を前に突き出す形で。


『終わったか』

(みたい、だね…)


影が完全に消え去るのを見届けてから、ようやく構えを解いた。

そう声を掛け合いながら一歩、足を前に出す―――


(…ぁれ?)


タイミングで、踏み出した足から力が抜ける。咄嗟の事に二人して対処できず、手と片膝をついてしまう。


『おいおいどうした?』

(なんでもない…。何でもないはずなんだけど、なんか力が抜けちゃって)

『……そうか。なら今日はさっさと休もうぜ。なんだか俺も疲れちまったぜ』


首を揺らすようにして肩を鳴らすブレイバーに、そうだね、と返す勉。が、その言葉はいつもよりさらに覇気がなかった。


◆◇◆◇◆◇


『クイックリィブレイブ!!』


巨体を転ばせた後、少し距離を置いてから巨人はそう叫ぶ。

空を乱打するように放たれた拳から、光の弾が飛び出し、巨体を貫いていく。


「ふむ、ここまで…かな」


人影がそう言葉をこぼした直後、光弾を受け続けていた巨体の残り部分は爆散。

少しずつ削れていた部分と合わせて、空中へと溶けていく。


「なかなかおもしろい存在だ」


そう言って、くるりと振り返る。

もう興味はなくしたと言わんばかりに、指に髪を巻き付け、その場から一歩、前に進む。

同時に人影の輪郭が薄れ始め、消えていく。


「……けどやっぱり、邪魔かな」


人影が消える直前にこぼれた、そんな言葉は誰の耳にも届かず、溶けて消えていった。


◆◇◆◇◆◇


「…………」


ぐったりとテーブルに体の重さを預け、勉が倒れている。ぱっと見はだらける学生のようにも見えるがその実、かなり精神的に疲れていた。

それもそのはず。最近は連日のように戦い続け、今朝も既に一戦交えてきたばかりだ。

短い時間とはいえ、何度も繰り返されれば疲れるのは必然。現にブレイバーも変身するたびにつかれているように見えた。

とにかく、そんな理由から勉は少しでも休もうと、こうしてテーブルの一つを陣取っては体を預けていたのである。が、それはそれと言わんばかりに今日も日常はやってくる。


「おっす、勉……ってなんだやけに疲れてるな、大丈夫かよ」


やってきたのはよく見る顔、真司と浩一。ちらりと勉の顔を覗き込み、真司はそう声をかけるのだが、浩一はそんな勉に気づく様子もない。いつもの通り・・・・・・勉に声をかけてきた。


「なぁなぁ、勉。今日こそはあそこ行こ―ぜ。久しぶりにゲームで揉んでやるよ」

「……悪い、今日は―――」


が、勉はとてもそんな元気はない。今日も適当に理由をつけ断る、そう心に決めたのだが。


「んだよ、またかよー。……ってなんだその顔。元気ねーのか?」


一瞬食い下がろうとするものの、そこでようやく勉の顔が目に入ったらしい。言葉の勢いを下げ、心配するような口調に変わる。

心配されるほどのものではないとはいえ、これはいい流れだ。そう思った勉は頷き、だから今日は、と改めて断る――寸前。


「そんな時こそ遊ばなきゃダメだって。ほらいこーぜ。なぁなぁなぁ!!」


浩一の言葉が続いてしまった。ゆさゆさ、と体を揺さぶられるおまけつきで。

いつもより少し踏み込んだその絡み。普段であれば、しょうがないなぁ、と勉も思えたかもしれない。だけど今は、今だけは違った。


ぱしっ…。


三人の間に乾いた音が鳴り響く。音がしたのは勉の手と、浩一の手。揺さぶるために延ばされていた浩一のそれを、勉のが振り払った音だった。


「…ってて、なんだよそんな怒んなって……」


叩かれた手をさする浩一、それから叩いた形になった勉を見て、何かを感じたのか真司が割って入ってくる。


「そ、そうだよ、落ち着けって。浩一こいつだっておまえを元気づけようと、お前のためを思ってさ……」


なだめるようなその言葉に、いつもなら勉も険をひっこめただろう。だが、繰り返すが今だけは違った。

お前のため、という言葉もこの時ばかりは良くなかった。


「俺だって…みんなの、お前たちのために―――」


言ってしまってから、すぐに正気に戻る。確かに勉はこの街を、この世界を守るためにブレイブマンとして戦っている。が、それは全て夢へと帰っているので、誰一人覚えていないし、なにより証拠も残っていない。

その状態でそんなことを言えばどうなるか。答えは明白だった。


「俺たちの、ため…? 何言ってるんだ、お前」


二人の顔にあるのは、困惑。突然意味の分からない事を口走った自分への、疑惑。

当然、今からでも笑ってごまかす事ぐらいはできただろう。だが、再三繰り返すが、今だけは違った。


「っ!!」


咄嗟に言葉を出すこともできずに、いたたまれなくなった勉は、その場から逃げ出した。振り返ることも、当然二人の顔を見返すこともなく、その場を走り去った。走り去れて、しまった。

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