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6.第一目的地は『ロエー村』です

 出発した馬車の中には私の他にも同乗者が一人。お茶会の時に派遣されたリーダー格の女性騎士が座っている。今日になって名前を知りました。カリス・ディナト女史。先祖代々騎士の子爵家の出身。兄と姉が居て、二人とも騎士であるとのこと。


 ちなみに、ロマーノはプフロ公爵家の馬車に乗っている。子供同士とは云え、男女が一緒に乗るのはどうか・・・という話が出たそうだ。


「何かありましたら、すぐにお申し付けください」

「ありがとう」


 今回の視察に侍女は連れて来ていない。カリスが私の身の回りの世話をしてくれるそうだ。騎士に侍女の真似事させて良いのでしょうか?


 ・・・それにしても、じっくり真正面から見るとカリスって滅茶苦茶美人だな。眼福です。ありがとうございます。


「如何されました?」


 しまった。顔を見つめ過ぎたかも。


「ええと・・・身近に居る女性って侍女ばかりだったから思わず」


 私の周りの侍女達だって、それなりに良い家の令嬢なんだけど・・・カリスの方が美人だ。


「所作が武骨に映りましたら申し訳ございません」

「そんなこと気にしないわ。ただ、侍女達よりカリスの方が美人だなって思っていたのよ。だから、見つめてしまったの」


 ああ。つい口が滑ってしまった。本当のことだし、悪口では無いから良いよね?内心は焦っているけれど、女優なデスピナは笑顔です。


 私の笑顔をどう受け取ったのか、カリスは少し考えているようだった。


「それは・・・恐らくは表情の所為でしょうね」

「表情?侍女達の?」

「はい。先日お見受けした限り、デスピナ様にお仕えしている者たちは表情が無いように思いました」


 表情が無い・・・無表情ってことか。確かに、笑顔と無表情だったら当たり前だけど笑顔の方が印象が良いよね。カリスは笑顔が爽やか!って感じだし。・・・あ。デスピナの侍女達が無表情なのってデスピナの所為だよね。記憶が戻る前のデスピナは癇癪持ちで侍女達が何をしても気に入らなくて八つ当たりしてたから。そりゃあ、笑顔で仕事をしろって言う方が無理だよ。無表情にもなるよ。


「私の不在で侍女達が羽を伸ばせると良いのだけど・・・」


 今まで苦労させてたからね。私が視察で不在の間は心ゆくまでのんびりして下さい。


「ふふふ・・・」


 カリスが口元を押さえて笑っていた。な、何事?


「申し訳ありません。その様な事をおっしゃるとは・・・予想外で・・・」


 う~ん。デスピナの悪評は騎士達にまで広がっていたのか。挽回していかないと!まずは、カリスから印象改善を始めよう。そうなると、演じるのは更生のきっかけを話す不良少女ってところかな?


「能力が目覚めてから、私は自分を省みたのよ。カリスも私の良くない噂を色々と聞いていると思うわ」

「否定はしません。しかし、最近のデスピナ様のご活躍も聞き及んでおります」


 侍女達だったら私を持ち上げるために否定するところをあっさりと・・・これが騎士道?いや、違うわね。


「王族として恥ずかしくない自分になりたいの。今回の視察もそう。私、しっかりしたいわ」

「デスピナ様のご年齢を鑑みれば、随分としっかりされていますよ」

「ありがとう。この視察で何か結果を残せたら良いのだけど・・・」

「王族が訪問することは、村々にとって名誉なことです。民の喜びこそが結果になるのではないですか?」


 カリスが凄く良いことを言ってくれている。でも、私は一応、次期女王だけど只の小娘だよ?小娘を見て村の人たちが喜ぶのかな?


「私が行くだけで喜んでくれるのかしら・・・?」

「ふふふ。すぐに実感されますよ」


 早朝に城を出発し、馬車に乗りなれていない子供が居るので途中で休憩を挟んだりもしたのだが、なんとか日が暮れた頃に第一目的地の『ロエー村』に到着した。


「意外と近いのね・・・」

「想定よりは早く到着できました。デスピナ様もロマーノ様も忍耐強くていらっしゃいますね」


 なるほど。私とロマーノの都合で、もっと休憩を入れると思っていたのだろう。馬車が停まったのは、村で一番大きな家の前。どうやら村長の家らしい。


「本日中の村の者からの挨拶は断っています。この家にはデスピナ様とロマーノ様、お二人の世話をする者が滞在します」

「この家の人は?」

「我々の滞在中は、別の家へ行っております」


 あら・・・。住人を追い出してしまったのね。良いのかしら?


「警備の関係上、部外者を入れられないので」

「そういうものなのね」


 ちなみに、調査隊の一行は村に二つある宿を両方貸し切りにして泊っているそうだ。前世の性格上、旅行をしたら、その土地にお金を落としたいのだけれど・・・今の私は出来ないわね。旅行ではなく視察だし。


「夕食の前に湯浴みでも宜しいでしょうか」

「ええ。ずっと座っていただけだから汗はかいていないけど・・・」

「では、こちらへ」


 カリスに案内されて浴室へ向かった。そう、ここで印象改善の第一歩。


「私、自分だけで入るわ」

「・・・デスピナ様お一人で?」

「ええ」


 城での入浴は至れり尽くせりだ。自分では髪も体も洗わない。もちろん服の脱ぎ着も人任せ。でも、視察中の侍女役はカリスだけ。入浴くらいは自分でやらないと・・・!


「あ、服の後ろのボタンだけ外してくれる?」

「分かりました」


 結局、服を脱ぐのはカリスに手伝ってもらった。


「おぉ・・・これが村の家庭のお風呂」


 城の大理石の浴場とはもちろん違う。こじんまりとした木製の風呂場だ。広さ的に考えて、カリスと一緒に入ってたら狭く感じたことだろう。


 風呂桶的なものにはお湯が貯めてあるが、中に入って浸かったりはしない。あくまで体を洗うためのお湯と聞いた。城とは違って、お湯は別の場所で沸かして風呂桶(仮)に入れるそうだ。そう言えば、城の浴場ってお湯が蛇口から出てるけど仕組みってどうなってるの?深く考えてはいけない?ちなみに、風呂場の使い方は服を脱ぎながらカリスよりレクチャーされた。


「わ~。当たり前だけど手桶も木製だ」


 風が吹けば桶屋が儲かる・・・なんて意味のない言葉が頭に浮かんだ。とりあえず、お湯を組んで体にかけた。


「おっと、ちょっと熱い。あ、そうか。私の到着はもう少し遅い予定だったから急いで沸かして入れてくれたのかも・・・」


 もしかして、食事とかも急ピッチで準備してくれているのだろうか。急いで体を洗って出ようと思っていたけれど予定変更。ゆっくりしよう。デスピナは一人で入るの初めてだし、遅い方が違和感ないよね。


 自分としてはゆっくりしたつもりだったのだが、カリスからすると速かったらしい。用意してくれていた冷たい柑橘系の味がする飲み物を手渡されながら聞かれた。


「お一人で大丈夫でしたか?」

「ええ。耳の後ろも洗ったわ」


 洗い忘れの多いところなので主張しておく。城の侍女は忘れずに洗ってくれる。


「では、少し休まれてから食事になります」

「分かったわ」


 今回の視察用に作った動きやすいワンピースを着て食堂へ向かった。村長の家は来客が多いから、食堂はそれなりに広い。食堂では既にロマーノが着席していた。


「待たせたかしら?」

「いいえ。自分も今、来たところです」


 デートの待ち合わせかよって会話をしてしまった。私も着席する。着席しているのは私とロマーノだけだ。護衛兼侍女であるカリスやロマーノの護衛、給仕の面々は立っている。今回の視察で一番身分が高いのが私で次がロマーノだから食事するのは二人だけだよね。


「父上以外の方とこの様に夕食を共にするのは初めてだわ」

「それは光栄です」


 晩餐会的なものは年齢的に出席したことが無い。だから、夕食は国王と一緒か一人だった。王妃が実家に帰されてからは特に。ソフィアが夕食に参加できるのは、私が視察を終えて城に帰った後と聞いている。

 

 きっと、この村では最上級な夕食なのだろう。豪華とは言えないが品数の多い夕食だった。これを素朴な味と感じるのが正解なのか分からない。当たり前だがロマーノの食事のマナーは完璧だ。本当に十一歳か?もちろん、王女であるデスピナも綺麗に食べられる。


「これらは村で収穫した食材のみを使っているそうです」

「まあ、村の収穫だけで料理が作れるのね」


 ロエー村では、小麦だけでなく他の農作物も作っていて牛や豚も飼っている。地産地消とはこのことか。


 感心しながら食事を終えたら、明日の予定のおさらいだ。出発前にも説明されているが、改めてカリスから話してもらう。


「明日は朝食の後に村長からの挨拶、村長の案内で小麦畑周辺を見学します。昼食を取って村長と別れ、視察隊のみで調査隊の元へ向かいます。調査隊の仕事を視察した後は、こちらに戻って村長や村の代表者たちと夕食です。明後日は朝食後すぐにリアキ村へ出発となります」


 意外とハードでショートなスケジュール。バカンスではなくて視察だから、のんびり出来ないよね。


「分かったわ。今日は移動で皆も疲れたでしょうから、しっかりと休んでちょうだい」

「ありがとうございます」


 休めないだろうけど、労うのと労わないのは違うからね。その日の夜は一番良い客間のベッド・・・城のより当たり前だが小さめなベッドで眠った。枕が違っても眠れるって良いことだ。


 翌朝、カリスに起こされた私は、カリスに手伝ってもらいながら着替えて、昨夜と同様ロマーノと朝食を頂いた。牛乳が搾りたてって感じで美味しかった。


 そして現在。村長と向き合っている。村長と恐らく奥さんだろう女性に対し、こちらは私を中心にロマーノやらカリスやらの小さな集団。数の暴力で申し訳ない。村長夫妻の緊張がビシビシと伝わってくる。


「私が第一王女のデスピナ・タラントンですわ。貴方がロエー村の村長?」

「は、はい。村長を任されておりますペトロと申します。王女様にお会いできて光栄でございます」

「そちらは奥様?」

「はい。妻のイリでございます」

「こちらは村長の家と聞いているわ。私達の滞在のために、貴方たちを外に出してしまって心苦しく思っているの」

「とんでもないことでございます。王女様に泊っていただけるなんて、大変光栄なことでございます。末代までの語り草です」


 精一杯の敬語を使ってくれている感じ。話しかけるのが申し訳なくなってくる。


「この後、村を案内してくれるとか・・・よろしくお願いするわ」

「はい!どうぞお任せください」


 緊張でカチカチの村長の案内で小麦畑まで来た。私が直接話しかけると緊張が増すみたいだったので、ロマーノが質問担当になった。通訳を挟んで会話するのってこんな感じなのだろうか。


 村人たちの仕事を邪魔してはいけないと畑から少し離れた所に立っている。しかし、畑の中から感じる視線の数々。気になるよね。ごめんなさい。


 小麦畑と周辺を散策したら村長の家に戻って昼食。ロマーノとカリスとロマーノの護衛も一緒に食事をした。スケジュール的にカリス達が昼を食べる時間が無いのでは?と思って昨夜の内に提案させてもらった。


 食休みをして調査隊の元へ向かう。ユーフリス川は、ゲオーグ先生の言っていた通り大きな川だった。調査隊は村人へ魔物被害の聞き込みをしたり、川の中を調査をしている様だった。


「川に潜って魔物に襲われないのかしら?」

「水生の魔物が狂暴になるのは空腹時だと聞いています。現在までの調査では、川には魔物の餌になる魚も多く、狂暴性の予兆は無いようです」


 お腹が空くと暴れるタイプなのね。私は空腹時は頭痛がするタイプの人間です。念のためにと川の側には近寄らせてくれないので、ここでも離れた所からの見学だった。先ほどと違うのは、私が直接、調査隊の隊長と質疑応答しているってこと。


「該当の村では無いのかしら・・・」

「まだ判断できるほどの調査をしておりませんが、被害は数年後のことですし、対策は行っておくことに意味があります。決して無駄なことはありません」


 隊長から嬉しい言葉を貰いました。もっと小説の詳細を覚えていて、しっかりと『予知』出来たらと思っていたのだけど・・・。少しでも役に立ってるなら嬉しい。


「デスピナ様、そろそろ・・・」

「分かったわ。隊長、お話ありがとう。調査の方は任せます」

「かしこまりました」


 調査隊の面々は綺麗な敬礼で見送ってくれた。私は村長宅に戻り、お風呂で汗と汚れを落として夕食用の服・・・視察用よりは豪華な服に着替える。髪はカリスがセットしてくれた。


 食堂の前でロマーノと落ち合う。ロマーノのエスコートで食堂に入るのだ。十一歳の男児のエスコートで入る十歳の女児を待っている大人たち・・・。ちょっと面白い。


 ロマーノの完璧なエスコートで食堂に入ると、村長夫妻の他に三人の男性と一人の女性が居た。この四人が村の代表と言う訳か。


「大儀である」


 とても偉そうな言葉だ。いえ、王女だから偉いのだけれど・・・私から話さないと皆さん発言できないからさ。


 村長が代表者たちを紹介してくれた。小麦の取り纏め役、家畜の取り纏め役といった人たちが代表として選ばれたみたい。一人一人に声をかけると大変恐縮された。家畜の取り纏め役の男性なんて泣き出してしまった。あー、デスピナがおじさんを泣かせてるー。


 どうにか食事の席に着いた。会話の糸口として、朝に飲んだ牛乳を褒めたら再び泣いてしまった。申し訳ないです。


 夕食が終わり、寝支度をしたら客間のベッドでお休み三秒だった。屋外ってだけで疲れるよね。


 翌朝、朝食の後、少ししてから馬車へと向かった。なんと私たち視察隊を見送るために、調査隊の人員はもちろんのこと、村人全員が集合していた。皆さん仕事は?乗り込む前に流石に何か言わないといけないよね。無言で去るとか印象悪いよ。


「皆のもの大儀であった。調査隊は村を守るために引き続き励んで欲しい。また、この度のロエー村への滞在は短いものであったが、私はロエー村の食事を楽しみ、皆の暮らしを見ることが出来た。心配りに感謝する。今後も調査隊への協力を望む」


 こんな感じで良いですか?話は終わりとばかりに一歩下がるとカリスとロマーノが拍手し始めた。続けて視察隊と調査隊。ロエー村の人々からは拍手と歓声。歓声をBGMに馬車へと乗り込む。続けて乗り込んだカリスが馬車の戸を閉めた。


「私の言った通りでございましょう?」


 爽やかな笑顔でカリスが言った。自信が無かったけど、これは喜んでいるんだよね。馬車の小さい窓から外へと手を振ると歓声が更に大きくなった。「デスピナ第一王女様万歳」って・・・恥ずかしいな。取りあえず、人波が途絶えるまで手を振り続けた。

やっと続きを投稿できました。読んで下さった方、ありがとうございます。

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