5.城の外へ出発です
善は急げということで、国王にはその日の夕食で視察に行きたい旨を伝えてみた。
「私の能力は父上とは違って城の外に行く必要はありませんが、城の外に出ることによって更に予知が出来るかどうかを試してみたいと考えています」
とりあえず建前はそんな感じだろう。どうどうと言ってみる。国王は面白そうに私を見ている。どこか面白い部分がありましたか?
「なるほど・・・自分の能力を知ることは大切だ」
「はい。自在に予知が出来るようになるのが一番良いのですが・・・」
原作知識以外の予知は出来かねますので、そのような日は来ません。ごめんなさい。
「つまり、デスピナは城の外に出てみたいということだね」
「・・・はい」
目的をズバリ言い当てられてます。
「良いだろう。調査隊に護衛を加えれば難しいことでは無いからね」
「ありがとうございます!」
「どこに視察に行くかは、ゲオーグと決めなさい。彼が認めるなら勉強にもなる場所だろうからね」
おぉ!ゲオーグ先生への厚い信頼!!目的の1/3は達成した。
「ゲオーグ先生に次の授業で相談してみますわ」
「そうだね・・・デスピナは他にもお願いがありそうだね?」
流石は国王。私の下心?に気づいていたのか・・・。
「実は・・・ロマーノと一緒に行きたいのです」
「ロマーノ・・・プフロ公爵の息子の?」
「はい。視察への随行を提案してくれたのはロマーノなのです。今日のお茶会で私の能力について話していて、城の外に出たらどうなるか、視察について行ったら更に予知が出来るのではないかと・・・私、自分ではそのような事を思いつきませんでした。ですから、視察にロマーノが一緒に来てくれたら、もっと気付けることがあるのではないかしら・・・と思っています」
「そうか。面白い着眼点を持っている子なんだね」
国王は少し考えてから微笑んだ。
「ロマーノが随行に参加出来るように、プフロ公爵には私から話を入れよう。デスピナは安心して村の選定をしなさい」
「父上・・・ありがとうございます」
目的が2/3達成した感じ?思っていたより早く成果を得てしまった。とにかく、次はオクシィ村に行けるように話を進めよう。
という事で、次のゲオーグ先生の授業は視察先の選定となった。早速、地図を机の上に広げる。
「デスピナ様はどのような村に視察に行かれたいですか?」
「そうですね・・・生活の比較が出来る村を二つ見たいと思っています」
「比較とおっしゃいますと?」
「城のある都からの距離とか、小麦だけを育てている村と小麦以外も育てている村とか・・・生活の違いがあるのかを見てみたいです」
「なるほど。そうしますと、複数の村を視察された方が宜しいですね」
その中にオクシィ村が入れば万々歳なのですが・・・。
「距離の比較をするとなると、都から一番近いのが『ロエー村』。この村は小麦以外にも作物を育てていますね」
ゲオーグ先生が都側から数えて一個目の丸を指さした。
「デスピナ様を国境付近までは御連れ出来ないと考えておりますので、国境に近い二村は省きましょう」
地図上の七個目と八個目の丸の上からバツ印が付けられた。
「そうすると、遠いに当てはまるのは『リアキ村』か『オクシィ村』になりますね」
六個目と五個目の丸を示される。行きたいのはオクシィ村なんだけど、自然に答えを導かないと・・・。
「『リアキ村』は小麦以外にも作物を育てていますね?」
「ええ。オクシィ村よりも広いので、その土地の分、別の作物を植えているようですね」
「逆に『オクシィ村』は小麦しか育てていない・・・」
「森が近くにあるので、耕作する土地が少ないからですね」
「森を伐採してはいけないのですか?」
「森の恵みを優先させた結果だそうです。売り物にはならないけれど、村人の食料にはなると・・・」
迷っているフリをする。両方に興味があるんです・・・みたいな!
「先生はどちらの村を視察するべきだと思われますか?」
「そうですね・・・どちらの村も見て来ては如何でしょうか」
「え?」
「デスピナ様は生活の違いが見たいとおっしゃいました。しかし、村によって暮らしは千差万別です。多くの村をご覧になると良いでしょう」
「・・・私、こんなに沢山の村に行っても良いのでしょうか?」
ほら、警備の問題とかありますよね?首を傾げると、ゲオーグ先生は声を出して笑った。
「国王陛下がお出かけになる方が多いですよ。村三つなんて・・・少ないです」
確かに、国王が出かける方が警備とか大変そう。そして、国王が外に出ることに慣れているから、私が出かけるくらいは問題では無いということか。
「でしたら、私この三つの村に行ってみたいです」
「分かりました。国王陛下へは私からお話しましょう」
「お願いしますわ」
スムーズに目的を達成してしまった。ここまで順調だと、何かしら良くないことが起きる気がする・・・。
その勘が当たったのは、授業の後のソフィアとのお茶会だった。
「お姉さま!お城の外にお出かけされるの?ソフィアも一緒に行きたい!」
愚図る妹。厄介である。ソフィアは最近になって自己主張をするようになった。恐らく、王妃やら乳母やらが居なくなって解放されたからだと思う。
「ソフィアはまだ小さいから駄目よ」
「お姉さまと一緒が良い!」
押し問答とはこの事か。駄々をこねる小さい子の扱いを教えてください。
「ソフィア様、我が儘を言っては駄目ですよ」
ソフィアを諭し始めたのは、一緒に来ていたアドニスだった。
「デスピナ様はお仕事で行かれるのですから、ソフィア様はお仕事を邪魔してしまいます」
「私、お行儀よく出来るわ」
「知っています。でも、ソフィア様が一緒だとデスピナ様はお仕事に集中できません」
「どうして?」
「ソフィア様が疲れてないかとか・・・心配だからです」
アドニス・・・この子は出来る子だった。私との会話から自分で考えることの大切さを心に刻んだらしい。ソフィアの為にならないと思えば、ソフィアの意見にも反対するようになった。
「デスピナ様にご迷惑をかけては駄目です」
「・・・でも、寂しいわ」
ソフィアが目をウルウルさせながら私を見上げてくる。スゴイ。これがヒロインの力。
「私も寂しいのよソフィア。でも、貴女がアドニスと城でお留守番してくれていれば、安心して出かけられるの」
「お姉さま・・・」
「お留守番していてくれる?私の為に・・・」
「お姉さまの為・・・?」
「ええ」
「・・・分かりました」
ショボンと体で表現しているけれど、取り合えずソフィアの説得は成功した。
「アドニス、ソフィアのことを宜しくね」
「はい。お任せください」
本当にしっかりしてきたな。男の子は守る対象があれば成長できるって何かに書いてあった。
こうして、私は無事にロマーノと一緒にオクシィ村に行くという道筋を立てることができた。出発の準備をするのは周囲の人間なので、私のやる事は、出発の日までに健康に過ごすことくらいだ。まあ、大丈夫。デスピナって健康優良児だから。
出発前にロマーノと顔を合わせる機会があった。プフロ公爵は視察の同行者としてロマーノが選ばれたことには特に反応していなかったのに、視察先にオクシィ村が含まれていることを知って少し動揺していたそうだ。しかし、今更ロマーノの同行を断る訳にもいかない。止める理由も話せない。渋々、視察同行の準備を進めているとのこと・・・。
「デスピナ様のお陰で上手くいきそうです」
「話せると良いわね」
そして、良く晴れた大安吉日・・・という考えはこの世界には無いが、出発の日と相成った。
「お姉さま・・・」
「ソフィア、アドニスと一緒に留守番していてね」
「はい」
やっぱり、ソフィアの目はウルウルだった。
「何かあったら、すぐに周りの者に言いなさい」
「はい。父上」
政務の合間を縫って、国王も見送りに来てくれた。なんだか、むず痒い。
「それでは、行って参ります」
私は意気揚々と馬車へと乗り込んだ。さあ、出発だ!
パソコンの調子が悪くて・・・騙し騙し使ってます。