4.裏設定は大好物です
どうやらロマーノは、私の話を好意的に受け取ったようだ。翌日の夕食時には、プフロ公爵から定期的にロマーノと会って欲しいという要望があった旨を国王から告げられた。
「もちろん、デスピナが嫌だったら断っても良いのだよ?」
「嫌だなんて・・・年齢の近い方とお話するのは楽しかったです」
ついでに、学んでいる教師が共通しているから話題が尽きないと言い添えた。
「そうか・・・では、プフロ公爵には話を進めるよう伝えよう」
「ありがとうございます」
「実はプフロ公爵の他にも何人からか、自分の子供とも交流を持って欲しいという話が来ていてね」
国王がどうする?といった目で私を見ていた。どうしようかな~。私が王位継承権を持ったからだよね?あからさまにすり寄って来られるのも嫌な気分になるな。
「これ以上、勉強時間を減らしたくないのでお断りします」
「そうか。では、断っておこう」
あら。意外と簡単に引いてくれた。
「父上。断っておいて何ですが、交流を持った方が良いのでしょうか?」
「いや、必要ないだろう。その内に嫌でも顔を合わせるようになる」
国王・・・人間関係でストレスが溜まっているのですか?
「デスピナが会っても良いと思えるようなったら言いなさい。売り込んでくる者は多いだろうさ」
「分かりました」
ぶっちゃけると、原作キャラ以外に興味がありません。この先、会おうと思うことは無いでしょう。
以上のことから、私の生活ルーティンが決まった。基本的に毎日あるのが勉強。週に二~三回ソフィアとのお茶会(アドニスは来たり来なかったり)。そして、一週間に一回ロマーノとのお茶会。
そして本日、ロマーノとの二度目のお茶会である。相変わらずの美少年っぷりに紅茶が進みます。
「デスピナ様にお会いした次の日にゲオーグ先生の授業がありました。川の氾濫と魔物の被害を予知なさったとか・・・」
「ええ。ゲオーグ先生のお力を借りて対象を八つまでには絞り込めたのですが、そこまでしか出来なくて・・・中途半端でお恥ずかしい限りです」
「中途半端など・・・デスピナ様の能力の恩恵は多大なものになりますよ」
「そう言っていただけると、慰められますわ」
私より年齢が一つ上なだけなのに、お世辞が上手でいらっしゃる。
「国王陛下とデスピナ様の能力で国は守られています。自信をお持ちください」
「私の能力はともかく、父上はご自身の能力で魔物の討伐までされていて・・・民だけではなく騎士からも尊敬されていると聞き及んでいます」
「他国では国主の顔を見る機会など全く無いとのことです。恐れ多くも、民たちは国王陛下を身近に感じているのではないでしょうか」
「ロマーノの言う通りかもしれません。私の能力では、その様な機会は無いでしょうね・・・」
今のところ『予知』を能力ってことにしてるからね。予知には場所とか関係が無いから、城の外に出る機会も無いね。
「その機会を国王陛下にお願いしてみては如何でしょうか」
「機会を?」
「はい。例えば、調査対象となった村の一つに視察に行かれるとか」
視察!十歳の少女が視察とか行っても良いのだろうか。
「心惹かれますけど、私が行っても調査の役に立ちそうにもありませんし・・・」
「可能性の話ですが、村へと行かれることによって更に詳しい予知をされるということはありませんか?」
詳しい予知・・・というか記憶の発掘になるな。でも、あの話の辺りって挿絵がそんなに無かったし、村を見ても今の景色と数年後の景色とじゃ違ってくるだろうし。
うん?このロマーノの態度・・・というか話の持って行き方・・・原作を彷彿させるわ。もしかして、私を誘導しようとしている?何を誘導したいのか、答えを見つけるためには探偵役が必要ですね!名女優デスピナが探偵になって推理してご覧に入れます!
えぇっと、ロマーノが提案しているのは視察だから、私を城外に出したいのか?そして警備が手薄になったところで殺害・・・て、今のところ殺される理由は無いよね。考えを改めて、目的は私じゃないとか?外に出ることが目的?目的、目的・・・目的地?村が目的地?
「・・・ロマーノは、私をどこかの村に行かせたいのですか?」
ロマーノの目が一瞬だけ見開かれた気がした。すぐに元の表情に戻ったけど。正解って感じの反応じゃないな。
では、次の推理に行こう。私を目的地である村に行かせて、ロマーノに何かメリットってある?私をダシにして村から賄賂を貰う。いやいや、公爵子息が満足するような賄賂って何?その村の特産品とか?その村にしか無いもの・・・?そうすると、全ての村に共通するものは小麦だけど、小麦が欲しいわけないだろうから、目的地は八つの村の内の一つで、その一つの村に私が行くとどうなる?その時、ロマーノは何をしている?
「もしかして、ロマーノは私が視察に行くことになったら随行を申し出るつもりなのでは?私を村に行かせたいのではなく、貴方が村に行きたいのですね?」
「・・・流石はデスピナ様です。自分の考えを当てられるなんて思ってもいませんでした」
ニヒルに笑うロマーノ。貴方って本当に十一歳ですか?
「この八つの村の中に、貴方が自身で見たいもの、確かめたいことがあるようね」
「おっしゃる通りです。自分が行きたいのは『オクシィ村』になります」
「オクシィ村・・・」
ゲオーグ先生と作成した地図の中では、城のある都側から数えて五個目の丸を書いた村になる。馬車で四、五日。徒歩なら一週間で到着するくらいの距離にある。
「小麦の収穫が主な、特に目立った特徴のない村だと思いますわ」
「はい。自分が見たいのは村というよりも『人』です」
「人?」
原作では全く他人に興味の無かったロマーノが『人』に興味を持つとか・・・ワクテカが止まりません。
「詳しくお聞きしても?」
「・・・全てお話しましょう。これは先日、聞いていただきたいとお伝えした自分の『諦め』の話でもあります」
そういえば、最後にそんなことを言っていたね。
「きっかけは、祖母と父の言い争いでした。我が公爵家は、母が亡くなったために祖母が女主人の役割を果たしております。祖母は厳しい人ですが、声を荒げるような性格ではないと思っていたので驚愕しました」
公爵家の前夫人にして現夫人代行ってことか。それは淑女の鑑みたいな人だろうな。そんな人が声を荒げるとは何が原因?
「祖母が一方的に父を詰っていました。『まだ手が切れてないのか』とか『手切れ金は渡しただろう』とか・・・どうにも気になったので、古くから仕えてくれている使用人を捕まえて来てみました。初めは誤魔化されていたのですが、しつこく聞きに来る自分に折れて話してくれました。父には母が生きていた頃から愛人が居て、その愛人に子供が出来たのを知った祖母が手切れ金を渡して遠くへ追いやったとね」
「まあ・・・」
貴族の家あるあるだけど、あのお堅そうなプフロ公爵に愛人とはねぇ。
「父は行方を捜して、定期的に愛人とその子供を金銭的に援助していたそうです。祖母が詰っていたのは、援助の件だったのでしょう。そして、愛人親子が住んでいるのがオクシィ村なのです」
「・・・ロマーノはその親子の様子が見たいと?」
「はい」
「見たいだけ?」
ちょっと意地悪な質問かもしれない。ロマーノは少し言うのを躊躇っているようだった。
「・・・可能なら、話してみたいです」
「どんなことを?」
「どうやって、父からの愛を得たのか」
「愛を?」
「はい。デスピナ様の予知にオクシィ村が入っていたことを知ってから、父は現場に早く調査隊を派遣しようと積極的に動いています。建前として、デスピナ様の予知の力を民に示すためだと言っていますが、本音は愛人親子の生活を守るためでしょう」
わお。政策に私情が込み込みじゃないですか。
「そこまで父に愛されているなんて、どのような方法を使ったのかを聞いて・・・『諦め』たい」
「諦めたい?」
「ええ。きっと私や母には無理なことだったと確認して、諦めてしまいたい。デスピナ様の様に」
そうか。ロマーノも同じだったのか。デスピナは母親から、ロマーノは父親から愛されたかったんだ。だから愛されなかった者同士、原作では手を組んでいたのかもしれない。
「デスピナ様の視察に随行して見聞を広めると言えば、オクシィ村に行くことを止められないでしょう」
「だから、私が視察するように会話を誘導したのね」
「その通りです。大変失礼いたしました」
この男、悪びれていないな。
「如何でしょう。ご協力いただけますか?」
「そうね。城の外に出てみたい気持ちもありますし・・・父上に相談してみましょう」
原作のデスピナって城の外に出た事あったのかしら?原作との乖離が進むなら万々歳だし。
「そういえば、その親子の情報は住んでいる村以外にあるの?」
「はい。母親はエヴァ。元は我が公爵家の針子として勤めていたそうです。現在はオクシィ村で近所の畑を手伝ったり、女性陣に針仕事を教えて収入を得ているとのこと」
プフロ公爵からの援助金に頼りっぱなしではなく、自分でも稼いでいるのか。
「子供は男子で、名はゼノン。年齢は八歳」
「八歳・・・ソフィアより一つ上ね」
ソフィアとアドニスも連れて行けるかな・・・って!?
「ごめんなさい。もう一度、名前を良いかしら?」
「はい。ゼノンです」
聞き間違いじゃなかった。ゼノンって、もしかして原作で反乱軍のリーダーだったゼノン?ゼノン違いかもしれないけど・・・。いや、宰相ロマーノとソフィアの交渉の場ってゼノンが用意したんだよね。どうやってロマーノを引っ張り出したんだろうって、いろいろ読者間で考察が出てたけど謎のままで・・・。本編後の番外編では、ロマーノとゼノン二人がちょっと気安い関係になってて腐った方々もお喜びに・・・話が逸れた。そうか、腹違いの兄弟だったんだ。え~何その裏設定。絶対にいつか発表されるはずだよね。読んだ記憶が無いよ・・・私ったら発売前に死んだの!?
「あのデスピナ様?どうかなさりましたか?」
「いいえ。何でもないわ」
修行してある表情筋のお陰で、ただ固まっただけに見えたでしょう。セーフ。
「よく調べられたわね」
「使用人たちは、仕えている主人の事をこちらが考えている以上に知っていますね」
屋敷内での聞き込みの成果ですか。
「では、父上には視察の件を提案してみましょう」
「ありがとうございます」
「そうですね。まずは視察の許可を頂いて、ロマーノの同行を決定してから村を選びましょうか」
オクシィ村に行くこと前提だけどね。
「先にオクシィ村へ行くことが決定してしまったら、ロマーノの同行を公爵が認めないかもしれませんし」
「お気遣いいただき、ありがとうございます」
「・・・上手くいくとは限りませんよ?」
「機会は多い方が良いですから」
今回、視察で行けなかったとしても、いつかは絶対に行くつもりなんだろうな。
「では、計画が無事に進むことを祈って」
「我々の幸運を祈って」
ティーカップを掲げて乾杯のふりをする。ワイングラスとかじゃないと様にならないな。
では、原作キャラの幼少期を見るために引き続き頑張りましょう。