お茶会巡り
それからしばらくの間、ビアトリスはバーバラに連れまわされて、高位貴族の夫人たちの催すお茶会に出席することになった。
ビアトリスは今まで年配の夫人たちとの付き合いが全くないわけではなかったが、その相手はいずれも母スーザンの学友で、スーザンと同様に敬虔で慎み深いタイプばかりだった。
一方バーバラの紹介相手はバーバラと同様に、勝気で華やかな女性ばかりであり、ビアトリスとしては上手く付き合えるか少々不安だったが、結果を見れば大成功だった。
「まあ、ビアトリスさまがこんなに素敵な方だったなんて、もっと早くにお近づきになりとうございました」
「今度はぜひ私のお茶会にもいらしてくださいな。ビアトリスさまのような方においでいただければ、きっと皆さん喜びますわ」
夫人たちはみな目を細めてビアトリスのことをほめそやした。
ある程度は社交辞令も含まれているのだろうと思っていたが、バーバラいわく、そのほとんどは本気の賞賛だとのこと。
「優雅で上品で、マナーも所作も完璧だし、それに話題の選び方の素晴らしいこと! 皆さん褒めていらしたし、私も鼻が高いですよ。これならアメリア王妃の流したくだらない噂なんてあっという間に吹き飛びますよ」
バーバラは上機嫌で太鼓判を押した。
皮肉と言えば皮肉だが、ビアトリスの成功は、アメリアも関わっている王妃教育のたまものだった。
なにしろビアトリスは貴族名鑑の内容も、王国内の各地域についての情報も一通り頭に入っているために、相手の名前を聞きさえすれば、たちどころにその一門の歴史や、親戚関係に縁戚関係、所有する領地の気候風土や特産品を思い出すことが可能である。
ゆえにその知識を踏まえて話題を振ってみたところ、相手はみな一様に喜んで、会話は大いに盛り上がった。中には、「ウォルトン家のお嬢さまが、我が家の薔薇作りにそこまで興味を持って下さってたなんて」と感激して、新種の薔薇にビアトリスの名をつけることを約束する者もいたほどだ。
またビアトリスが王都の美味しいスイーツや流行小説について意外に詳しかったことも、愛らしいギャップとして好意的に受け止められた。この辺りは二人の女友達のおかげだろう。
会話の最中にビアトリスとアーネストとの一件をあれこれ詮索してくる者もいたが、それはバーバラが「まあ、その辺は察して頂戴な。ほらやっぱり婚約者同士のことですし、不敬罪ってものもありますから、あまり滅多なことは言えませんものねえ」とにこやかにさばいてくれて事なきを得た。
まったくもって、頼もしいことこの上ない。
ただバーバラがことあるごとに「本当に、今までスーザンは何をしていたのかしらねえ」「だからあの子との結婚に反対だったんですよ、私は」と口にするのは、かなり辟易させられた。
「アルフォンスがああいう性分なんだから、せめて相手は社交ができるタイプじゃないと駄目だって、私は口が酸っぱくなるまで言ったんですよ。それなのに似た者同士でくっついたりするものだから、ほうら言わんこっちゃない」というのがバーバラの言い分である。
父がこの頼もしい大叔母と長らく疎遠だったのは、この辺りに原因があるのだろう。
それでもあえて援軍を頼んでくれた父アルフォンスに、ビアトリスは改めて感謝をささげた。
(だけど……)
――本当に、とても残念だわ。私は貴方のことが好きだったのに。
ふとしたおりに、アメリア王妃の声が、耳の奥によみがえる。
本当にこんなことで王妃の制裁は終わるのだろか。彼女の企みはまだこの先にあるのではないか。ビアトリスにはそんな気がしてならなかった。