表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/116

本当に天才なんですね

 勉強会はその後も連日行われた。


 ウォルトン邸で行われたときは、休憩時間に邸内を案内したところ、二人に大変喜ばれた。

 ビアトリスが個人的な知り合いを家に招くのは、考えてみればアーネスト以来である。彼は裏の庭園が好きだったことを思い出しかけたが、首を振って頭の中から追い出した。


 マーガレットは屋敷の温室が、シャーロットは図書室がことのほかお気に召したらしい。

 シャーロットいわくウォルトン邸の図書室は夢の国だということで、「ああもう信じられないわ、あの作家の初期作品が全巻そろっているなんて! ぜんぶ読みたいけど今は駄目、試験が終わったら、終わったら絶対貸してね!」とビアトリスの手を握って懇願してきた。


 お茶の時間にはやたらと気合いの入った見事なケーキが供された。先日ビアトリスが「マーガレットのところで出たアップルパイがとても美味しかったの」と侍女に語ったのが、回り回ってコックの耳に入ってしまい、彼の対抗意識に火をつけたらしい。

 マーガレットに「この滑らかな口当たりが素晴らしいわね」とお褒めの言葉をいただいたので、あとでコックに教えてあげた。




 ベンディックス邸で行われたときは、シャーロットに誘われて、彼女の従姉妹だと言う双子の姉妹も勉強会に加わった。なんでも彼女らは自宅が改装中なため、親戚であるベンディックス邸にしばらく滞在しているとのこと。


 二人の少女は最初のうち妙にぎくしゃくしていたものの、そのうち緊張も解けたのか、問題の解き方について、ビアトリスにおずおずと質問してくるようになった。そして終わるころには「ビアトリスさまのおかげで助かりました」と、はにかむような笑顔で口々に感謝の言葉を述べて来た。


「ううん、お役に立てて良かったわ」


 ビアトリスが笑いかけると、二人は何故か真っ赤になってうつむいた。


 翌日シャーロットは学校で、「あの子たち『ビアトリスさまがあんなに親しみやすい方とは思わなかった』ってびっくりしていたわ。二人とも貴方が帰ったあと『ビアトリスさまの笑顔が綺麗』とか、『声が優しい』とか、延々と貴方のことばかり喋ってて、すっかりファンになったみたい。私が『ほら、私の言った通りでしょう?』と言ってやったら、『誤解してて申し訳なかった』ってそろって反省していたわ」と楽しそうに報告してきた。


 もしかするとシャーロットが彼女らを勉強会に誘ったのは、ビアトリスのためだったのかもしれない。ビアトリスは彼女の気遣いが嬉しい反面、「私っていったいどんなイメージを持たれていたのかしら……」と少々複雑でもあった。




 朝の時間は相変わらずカインとのおしゃべりを楽しんだ。その時間も勉強に充てようかと迷ったものの、やはり息抜きは必要だろうと思い直した。ただカインが来るまで読んでいた本は、教科書や授業ノートに変更した。

 ある朝、カインに勉強会での出来事についてあれこれ語っているときに、ビアトリスはふと思いついて問いかけた。


「そういえば、カインさまは過去の試験問題をどなたから手に入れてらっしゃるんですの?」

「過去の試験問題? いや、そういうのは知らないな」

「まあ、カインさまもご存じなかったんですの?」


 ビアトリスは「仲間がいた!」という喜びで一瞬高揚したものの、カインはそれでもトップだったことに気づいて、一気に気持ちが沈静化した。


「カインさまって本当に天才なんですね……」

「どうした急に、なにを落ち込んでいる」

「いえ別に。大したことではありませんわ。あ、そうですわ、天才のカインさまにぜひ教えて頂きたいことがあるんですけど」


 ビアトリスは先ほどまで読んでいた教科書とノートを引っ張り出した。


「ここがよく分からないんです。教科書の方はさらっと書いてあるだけだし、授業のノートを見返したのですが、なんだか分かり辛くって」

「ああ、この科目はモートン先生だろう。あの先生の授業は、真面目に聞くほど混乱するから、適当に流した方がいいぞ」

「そうなんですの?」

「そうなんだ。あの先生は悪い人ではないんだが、根本的に教えるのに向いてないからな。ついでにやる気もないんだよ。本人はもともと大学に残って研究を続けたかったらしい」


 悪い人ではないが、悪い教師ではあるらしい。

 カインが授業をさぼるのは、もしかするとそういう教師を選んでいるのかも知れない。だからといってビアトリスが見習う気にはなれないが。


「ほら、ここはこういう風に考えたらいい」

「あ、分かります。これなら理解できますわ。ありがとうございます。カイン様」

「他に分からないところはないか?」

「あるんですけど、今は手元にないので、明日持ってきますわね」


 ビアトリスは思わぬところで優秀な家庭教師を見つけた幸運に感謝した。




 そしていよいよ定期試験が始まった。

 マーガレットにもらった過去の試験問題と、カインの丁寧な指導のおかげだろうか。どの問題も読んだ瞬間に解き方が頭に浮かんできて、ほとんど迷うことなくすいすいとペンが進んでいく。


(でもちょっと簡単すぎるような気もするわ。今回の試験はいつもより簡単なのかしら。平均点が上がるわね、きっと)




 そして試験が終了して数日後、結果が校内に張り出された。

 そこで発表された内容は、ビアトリスのみならず、全校生徒にとって衝撃的なものだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コミック8巻の予約受付中です。とても素敵な漫画なのでよろしくお願いします!
関係改善をあきらめて距離をおいたら、塩対応だった婚約者が絡んでくるようになりました⑧
コミック8巻の書影です
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ