第29話 レイア・ヴァーミリオンの実力
お久しぶりです!
執筆しようと思っても中々進まずスランプ気味でしたが(今も)、なんとか描けたので更新します!
それではどうぞー!
剣技練度100パーセントの才女、レイア・ヴァーミリオン。
クリスティアとローリエは突如現れたレイアに対し驚愕と共に瞠目する。警戒するかのように彼女を睨め付けながら目を細めるローリエだったが、構わずにレイアは涼しい顔で剣を肩に置いて医務室の部屋のなれの果てを眺める。
視線を空中に彷徨わせたレイアがやがてその切れ長な瞳をクリスティアに向けると、彼女はビクリと肩を跳ね上げた。
「ひっ…………!」
「ふーん、貴方が第三皇女殿下サマねぇ……。ふーん?」
「あ、あの……ッ、貴方は、いったい……?」
「あぁ、これは申し遅れましたクリスティア・ヴァン・レーヴァテイン第三皇女殿下サマ。私はヴァーミリオン公爵家の次女レイア・ヴァーミリオンと申します。……その魔剣精クラリス本来の契約者であるミリア・ヴァーミリオンの妹、と言った方が分かり易いかしら?」
「えぇっ!?」
クリスティアの驚いた表情をよそにして、レイアはそのまま言葉を続けた。はたから見れば至って涼しい表情なのだが、クリスティアにとって彼女のその様子はどこか苛立ちを隠しているようにも見えた。
「あのバカハルトから合図が来たから学院まで転移してきたけど、どうやらベストタイミングだったみたいね。こんな状況の中、不自然に学院内に魔力反応があったし見つけやすかったわ。しかもこーんな敵意剥き出しにしちゃってさ。……ね、そこのチビッ子?」
「はは……、まさかハルっちがこんな切り札を隠していただなんてね……っ。これは、ウチでも全力をだすしか―――」
「―――は?」
突如、レイアの纏う雰囲気が変化した。おそらく無意識だろう、赤々しい魔力が彼女の周囲を渦巻くように可視化。
刺すような冷たい表情になった彼女は、スッと目を細めて激情を秘めた眼光で鋭くローリエを睨み付けた。レイアのこの突然の変貌に二人は思わず息を飲む。
そうして彼女は口を開いた。
「―――今、なんて言った?」
「え……?」
「ハルっちって、そう言ったの? アンタ如きが? アイツに?」
「は……? そ、それのなにが……っ!?」
「気安く私のハルトお兄ちゃんを渾名で呼んでんじゃないわよこのクソガキ……!! ―――決めた。アンタ、徹底的に潰すわ」
そう言うとすっと表情が抜け落ちるレイア。威圧感たっぷりの迫力のある声音でレイアは魔剣の切先をローリエに向けた。そこにあるのは、熱く激しい明確な敵意。
第三皇女の暗殺阻止という目的は変わらないが、彼女の話す内容は完全なる私情。豹変したレイアに胡乱げな瞳を向けるローリエだったが、レイアは静かに激情を秘めた声で言葉を続けた。
「いい? アイツのことをどうこう言って良いのは私だけなの。褒め言葉は誰が言っても構わないけど、悪口を言うのも、罵倒をするのも、傷付けるのも揶揄うのも皮肉を言うのも、ハルトお兄ちゃんに親しげに渾名を言って良いのも私だけ。なのに……、それなのにどうして出会って日も浅いアンタなんかがハルトお兄ちゃんに渾名なんて付けてるワケ? それって陽キャアピール? それともその品位の欠片も無い口八丁で突然学院に赴任してきたハルトお兄ちゃんから何か情報を引き出そうとでもした?」
「…………ッ!」
事実、そういう意図があったのは否めなかったローリエは険しい表情になりながら口を噤む。
ローリエが属する組織でもハルト・クレイドルに関しての情報は掴めなかった。なので彼女は授業の合間や休み時間に隙あらば本人に直接訊いたりしたのだが、肝心のハルトはのらりくらりと言葉を躱してしまい、残念ながら明確な情報は得られなかったのだ。
そんなローリエの内心をよそに、レイアはぎりっと歯を食いしばった。そして耐えきれないかのように表情を歪めてヒステリック気味に言葉を紡ぐ。
「―――けるな……。ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな…………っ! ミリア姉様が亡くなってからはどんな障害からも私がハルトお兄ちゃんを守るって決めたの……! 渾名をつけたのも許せないけど、なによりもハルトお兄ちゃんを少しでも利用しようとしたのは万死に値するわ。何も彼のことを知らないクセにふざけんじゃないわよこのクソガキが……!」
「あーもうっ、さっきからごちゃごちゃ五月蝿いなぁ……! 渾名を付けようが利用しようがそんなのウチの勝手じゃん。ハルっちと付き合いが長いからって、マウントをとって見下してんじゃねーよ。と・し・ま♥」
「ぶっ殺すわよこのクソガキィ!」
レイアは一瞬でローリエの眼前まで距離を詰めると、紅い刃を煌めかせる。爆発的な瞬間的脚力に重量差を感じさせない魔剣の振り抜き。その紅色の刀身にはうっすらと紅蓮の魔力が迸っていた。
燃え盛るような炎の如く憤激を双眸に宿したレイアは、容赦なくローリエのその胴体を斬りに掛かる。
だが紅色の刃がローリエの身体に吸い込まれるその瞬間、ガキンッ!!と激しい音が鳴った。
構えたローリエが二振りの魔剣ジェミニでレイアの攻撃を防いだのだ。冷静さを取り戻したのか、彼女の表情には元の笑みが広がっていた。
「あはは、ヴァーミリオン公爵家令嬢サマって言っても案外短絡的なんだねぇっ……! そんなんで帝国軍特務師団の指揮は務まるの……ッ!?」
「ごちゃごちゃとうるさいわね……! アンタは黙って私に斬られればば良いのよ!」
「ぐぅ……ッ!」
剣を交えたまま拮抗していた二人だったが、体格差ではレイアが勝る。レイアが力任せに魔剣で弾くと、表情を歪ませたローリエはその衝撃を後ろに逃がしながらバックステップで距離を取った。
背後にいるクリスティアを守るように立つレイアは正面のローリエに剣の切先を向ける。その瞳は先程のような冷静さを失ったような怒りとは違い、理性があった。
そして、改めて彼女は告げる。
「ローリエ・クランベル。第三皇女殿下を殺害しようとした罪で貴女を帝国軍本部へと連行するわ。徹底的に尋問した上で貴女の背後にいる組織の目的を吐いて貰う。でもその前に―――喋れなくなるくらいに痛めつけてあげる!!」
「―――やってみなよッッッ!!」
そうして二人は再び剣戟を振るった。魔剣同士が打ち付けられるたびに火花が散り、金属音が響く。
(す、ごい…………)
辛うじて紅色の煌めきが見える程度の神速の如く速度で魔剣を振るうレイアに、同等かそれ以上の速さでリーチの短い魔剣ジェニミを叩き付けるローリエ。それは両者ともに高い動体認識力が無ければすべてを捌くのは困難な剣戟だった。
はたから見ていたクリスティアは、それが卓越した技術を持つ者同士の戦いであることを瞬時に理解。
唇をキュッと結びながらも目を離さないようにして彼女らの様子を見つめる。
(レイア・ヴァーミリオン様……直接お会いするのは初めてですが、ヴァーミリオン公爵家には剣技練度100パーセントという素晴らしい数値を保持する二人の才女がいるとお姉さまから少しだけ聞いた覚えがあります……)
滅多に貴族などのパーティーに出席したことがないクリスティア。たとえ招待状を貰っても自らの剣技練度や剣技能を使えないことに引け目を感じて必要以上に参加したことは無かったが、第一、第二皇女である姉二人の話や市井に赴いた際に多くの人々がこれまでのヴァーミリオン公爵家の功績を褒め称えるように話していたのをよく話を聞いていた。
だがクリスティアにとって衝撃が大きいのは、そのことよりも剣技練度100パーセントであるレイアと剣を交えるピンク髪の少女だった。
(ローリエさん……。体格差があるとはいえ、レイア様と同等以上に戦えているということは、その剣技に並ぶ実力を隠し持っていたという事、ですよね……)
クリスティアの胸の中に去来したのは淋しさ。ゼロクラスになってから日が浅いとはいえ、強くなる為に共に教師であるハルト指導のもと研鑽を積み重ねてきた。
魔剣使いとしての高みを目指す仲間だと思っていたのは自分だけだったのか、実はゼロクラスのみんなを見下しながら、強くなろうと必死に頑張るみんなの様子をおままごとのように感じていたのだろうかと、複雑な心境になりながらも虚しい気持ちを抱くクリスティア。
そう考えている合間にも熾烈な剣戟は続く。魔剣ジェミニの双剣を紅色の剣で弾いたレイアは、バックステップで飛び退きながら一旦距離を取ると、レイアの魔剣には燃え盛る炎が纏う。そして―――、
「業炎ノ斬撃ッ!!」
「ちょ、そんな剣技能ここで放ったら……!」
緋色の輝く真一文字の斬撃がローリエを襲う。剣技練度100パーセントである彼女が放ったその一閃が人間に当たればただでは済まないだろう。下手をすれば上半身と下半身が別れてしまう程の凄まじい一撃。
ローリエは思わずぎょっとした顔をする。すんでのところで身を捩りながら屈み、不格好に床を転がって回避。ほっと息を吐くのも束の間、直後ローリエの背後で壁が崩れる音が聞こえた。
視線をそこへ向けるとぽっかりと大きく穴が空いていた。ローリエは深く息を吐く。
「あーあ壊しちゃった。あまり知られてないけど、この医務室って学園の避難シェルターみたいな役割なんでしょ? 上位種の魔獣の素材が使用されてるってゆーし……立場的にだいじょぶ?」
「余計なお世話よ。いざとなれば私の家から費用を捻出すればいいだけの話だし、こんなことで立場が揺らぐことは無いわ。むしろここは窮屈だったから、丁度いいんじゃないかしらぁ!!」
「ぐっ…………! そうかも、ねっ!!」
剣を構えたレイアが駆け出すとローリエは咄嗟に二振りの魔剣で防御。ローリエは手に持つ魔剣ジェミニの表面を火花を散らしながら滑らせると、体勢を崩したレイアを蹴とばして穴の開いた壁の先へと消えた。
「ちっ……! 待ちなさい!!」
「あっ、私も……!」
レイアが彼女を追いかけるとクリスティアもその先へ向かう。生い茂る緑の茂みをかぎ分け必死に二人を追い掛けて行こうとするが、クリスティアの視界の端で何かが動くのが見えた。
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