第18話 ハルトの剣技、基本剣技能【スキル】の可能性
「一つだけの剣技能、ですか……。しかし、これまで一度も剣技能を発動出来なかった私に、出来るでしょうか……?」
「ふむ、誰にも破れない唯一無二の剣技能を鍛え上げるということか……。面白い!」
「確かにたった一つだけなら覚えやすいし簡単かもー!」
「よーし、それじゃあお前らが覚える剣技能は……」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
ゼロクラスの生徒に覚えて貰う剣技能を言い放とうとするハルトだったが、突如ミヤビが声を上げる。ハルトは思わず怪訝な目で彼女を見遣るが、ミヤビはそんな視線に気にすることも無く言葉を続けた。
そこにあるのは隠しようも無い焦燥感。
「たった一つ!? たった一つの剣技能を極めるだけじゃ強くなんてなれるわけないじゃない!? それよりももっとこう、とっておきの強力なオリジナル剣技能を何個か伝授するとかなんかないの!?」
「ないな。つーかミヤビ、お前なんか勘違いしてない?」
「な、なによ……?」
「強くなる為の近道なんてねぇんだよ。努力に努力を重ねて、目標に向かって一歩ずつ着実に前に進んでいくしかねぇんだ。強力な剣技能を何個も覚えたとしても剣を振る基本が出来てねぇんじゃ意味が無い。そうだな……。エイミー先生、魔獣質量再現装置の準備を頼みます。系統は龍、ワイバーンでお願いします」
「え、あっ、はい! わ、わかりました!」
今まで見るより雰囲気の違うハルトと生徒のやり取りを呆然としながら交互に見ていたエイミーだったが、慌てて作業に取り掛かる。
彼女が懐から取り出したのはプレート型の装置で、魔力を込めて起動すると画面が光り出す。淀みなく指で画面を押しながら操作すると、ハルトたちの前方には龍系魔獣であるワイバーンが出現した。
ギャオオッッ!!と耳障りな鳴き声を轟かせるが、その様子に怯えるクリスティアとカナエ以外は、平然とした表情のままだった。
本来群れで街を襲えば、一晩で焼け野原にしてしまう恐ろしい魔獣である筈なのに。
「ねぇ、いきなりワイバーンなんか出現させてどうするのよ……?」
「ワイバーンなんかねぇ……。なぁエイミー先生、この認識ってこいつらだけじゃなくて全クラス共通なんですよね?」
「……えぇ。大変嘆かわしいのですが、魔獣質量再現装置の模造魔獣の戦闘能力値がその個体本来の戦闘能力だと認識しています。……剣技練度が優秀なSクラスでさえも」
「なーるほど、そりゃ驕る筈だ」
苦虫を噛んだような表情でそのように内情を語るエイミーに、ハルトはのんびりと答えた。
現在エイミーが操作している魔獣質量再現装置というのは帝国の科学力で作成された、レーヴァテイン魔剣学院生や帝国軍人の訓練用装置。
あらゆる魔獣のデータがその装置には保存されており、操作することで任意の模造魔獣を対象の空間に出現させることが可能な、帝国の技術力が込められた魔具だ。なお、操作するには国家資格が必要。
しかしあくまで訓練用として開発されたので、そのままの既存設定では魔獣本来の凶暴性や獰猛性が一切なく、戦闘能力値が低い。それゆえ一般の学院生はそれが魔獣本来の強さであると認識している。
その理由は、主に帝国軍が魔獣出現の際にすべて対処している為だった。
「エイミー先生、悪いけど設定変更お願いしまっす。脅威度、100パーセントで」
「え……!? ハルト先生、いったいなにを考えて……ッ!?」
「お願いします」
「~~~っ、あぁもう分かりました! その代わり危険だと判断したらすぐに言って下さいね! 解除しますので!!」
「ありがとうございます、エイミー先生」
ハルトがエイミーに向かって感謝を告げると、彼女は魔獣質量再現装置に情報を入力していく。
すると、ワイバーンに変化が訪れた。
『ギャオオオオオオオッッッ!!!!』
先程よりも猛々しいワイバーンの鳴き声が闘技アリーナ中に響き渡る。やがて、大きく両翼を広げたワイバーンは空中に飛び立った。
圧倒的なプレッシャーや鳴き声の轟音。明らかに一変した雰囲気にゼロクラスの一同は目を見開いた。
「ヒッ……!? ハ、ハルト先生……ッ!!」
「ウソ……!? ワイバーンって、教科書に載っている被害が大げさなだけの、弱い魔獣なんじゃなかったの……!?」
「うむ……、これほど肌が粟立つほどの威圧感だとはな……っ」
「こわー」
各々慄いたように言葉を洩らす少女たち。彼女らを見据えたハルトは、腰からゆっくりとシャルロットを抜いた。
「これから基本中の基本である剣技能を使ってワイバーンを斬る。良く見とけよ? ―――これが、お前らが最初に目指すべき到達点だ。ふ……っ!」
「ギャアァァァァァァッッ!!?」
ハルトはワイバーンの懐へと一気に跳躍。体格差ではワイバーンの方が圧倒的に有利だったが、勢いよくワイバーンの首に回し蹴りするとそのまま吹き飛ぶ。闘技アリーナの壁に体躯が叩き付けられると飛行能力を失ったのか、ワイバーンはそのまま地面に落下した。
ギャアギャアと苦しみに呻くワイバーンだったが、やがて起き上がると紅く鋭い眼光でハルトを威嚇する。次の瞬間、ワイバーンが低空飛行しながらハルト目掛けてつっこんできた。クリスティアは思わず両手で口を塞ぐ。もし巨大なワイバーンの体躯がハルトに衝突したら怪我どころでは済まないだろう。
刹那―――、
「まず一つ目の剣技能、―――『パリイ』」
「ギャウッッ!!?」
「なっ!? あの迫り来るワイバーンの巨体とその衝撃を弾いて受け流したのか……ッ!?」
カナエが心底驚いたような声をあげる。故郷にいたときから剣の扱いに慣れていた彼女は、ワイバーンのようなとてつもない体積を持つ魔獣を剣でいなすことの難しさを理解していた。
『パリイ』を受けたワイバーンはそのまま上空に弾き飛ばされるも、再び下にいるハルトに向かって襲い掛かる。
ハルトは余裕げな表情でシャルロットを構えた。
「次、二つ目の剣技能―――『スラッシュ』」
「ギャァァァァァウッッ!!」
「す、凄い……! あれだけ大きな片方の翼を、根元から斬り裂いて……っ!」
片翼を斬りとばされ、バランスを完全に失ったワイバーンは音を立てて地面に転がる。なおも生きながらえようとジタバタと抵抗するワイバーンだったが、その様相はまさにまな板の上の鯉。
なんとか立ち上がるも、息も絶え絶えだった。
次にハルトは、魔剣精シャルロットを空中に放ると逆手に持つ。
「三つ目最後の剣技能―――『スタブ』」
「わぉ、脳天に剣を突き刺してトドメかぁ~。エグイけど、獲物を仕留めるには有効な手だねー!」
やがてワイバーンは絶命。青白い粒子となってその亡骸は消えていく。ハルトはそれを見据えると静かにシャルロットを鞘に納めた。
ハルトが放つ剣技能の手際はとても滑らかで、無駄のない動作ばかりだった。
強者に相応しい比類ない剣技に卓越した精度。今まで蔑まれながらもがむしゃらに頑張るしかなかったゼロクラスの少女たちだったが、ハルトが示す到達点という目標を目にした少女たちは底知れぬ興奮を抱いていた。
―――一筋の、希望が見えたから。
「ふぃ。―――よっし、それじゃあお前らー! このハルト先生が、さっきの基本的な剣技能を極められるようにびしばし鍛えちゃうぞー!」
片目を閉じたハルトはそう言っておどけた。
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