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「ねぇ、ウィル待って。すぐ入れちゃダメ」
「まだ駄目かな?」
「まずは私がこの棒で‥‥‥」
「そんな先っぽばっかり擦ってちゃだめだよ」
「入れないとダメなのかしら? 入れちゃいましょう!」
「だめだよ! そんな乱暴にしたら折れちゃうぞ」
「「あ」」
無理矢理に鍵穴に入れようとがんばった挙句。ポキッといった。ガリガリガリガリ。魔法じゃないからね。物理で攻めるとかもう魔法じゃないからね。
「ねぇ。魔法って難しいのね」
無詠唱でガンガン使ってた人がいう事とは思えないが。
彼女は今、宿の扉の鍵を魔法で開けようとしていた。
手に入れた魔法の杖を使ってひたすらコツコツこつこつ。
絶対に使い方を間違えているが、あえて教えない。
「だめね。やっぱり開かないし。もうそろそろあきらめようかな?」
「ミートォ」
「あらミート。貴方も寝るの?」
「アウ」
「ありがとう。え? ほんと?」
どうやって会話をしているのかはわからないけど、俺のアゼリアが連れ去られたのは確かだ。
彼女が、ドアを魔法であけたい!とか言い出して、開けられない様子をたまたま見かけたミートが「俺鍵持ってるぜ」的な感じで自分の部屋に連れて行ったんだろう。優しい大男ミート。
「って、ちがうわ! あ、鍵かけやがった」
ミートめ。下心なんてないんだろうけど、ミートめ。
「わはははは。遊んどるからだぞ? ウィル」
「くそう……俺のアゼリアちゃんが」
その様子を見ながら階段を上がってきたリッカーが俺の手からカギを取ると、本当は俺とアゼリアの熱気でむんむんになるはずの部屋へとはいっていった。え?なんで‥‥‥
「さぁ、寝るぞ!」
「うぅ。久しぶりのベッドなのに、男と一緒とは」
服を脱ぎ下着になり久しぶりの柔らかいベッドへと行く。リッカーが眠りながら言う。
「なぁ、旅人……ウィル」
「どうした? リッカー」
「お前さんには感謝してるぞ。アゼリアにもな」
「俺もお前ら二人に救われたよ」
「聞こえるか?」
言っている意味が分からず、耳を澄ました。聞こえるのは酒場から帰る誰かの足音。夜になく鳥の声。アゼリアの鼻歌。野宿でよくアゼリアがミートを寝かせるのにやっているやつだ。
「あのな。ウィル」
「あぁ」
「聞こえないだろう?」
「何がだ?」
「ミートのイビキや唸り声だ」
「そうだな。アゼリアの子守歌が聞こえるけどな。あれは俺に‥‥‥」
「わはは。そうだな。すまんな。お前らに会うまでは、ミートは寝るときにそれは苦しそうに寝てたんだぞ。ウゥ。ウゥ。って」
「そうなのか?」
「それがな。あの泉での夜を覚えてるか? アゼリアにそっくりな白い魔女が現れた日のこと」
「ああ。絶対に忘れない。旅の目的も半分はそれだからな」
「あの時から、ミートがちょっと喋れるようになっただろう? まぁ名前程度だけどな」
「白い魔女……彼女がミートに寄り添ってたな」
「ジャイアントはな‥‥‥成長し続ける骨の痛みで苦しいらしい。それが今は止まって、痛くないようだ。ジャイアントが長く生きられないのはそれも原因らしいぞ」
「そうなのか。すまない。知らなかったよ」
「気にすることじゃない。むしろ感謝してるんだから」
「今日は、あいつをあのまま優しく寝かせてやってくれるか?」
「‥‥‥そうだな。アゼリアも幸せそうだしな」
「あの子守歌気持ちいいよな」
「ああ」
「あの白い魔女は何だったんだろうな――」
「ああ。それはこれから――」
気づくとリッカーは眠りについていた。
あの日、泉で現れたアゼリアそっくりな雪の様な白く長い髪をした魔女。何か彼女に言われた気がするが思い出せない。アゼリアは外の世界を見てみたいという。だから、街の魔女、あとは光の魔女にでも会って探せばそのうち見つかるかもしれない。
俺はそう考えながら全身に黒いタイツを装備した。
今日は最初で最後の『アゼリアが初めてベッドで眠るのを見た日』になるはずだった。それをミートが……せめて、拝まねば。アゼリアの可愛いベッドでの初寝姿をっ!
本編 25部分 24話 白い魔女の誕生