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冒険者、旅人、商人。街を行き来する人にとっては魔法使いは大事な存在。火をつけたり、水をきれいにしたり、明るくしたり、軽いケガなら止血もできる。
そのかわり魔法を使えるのは街の魔女に師事してもらった者だけだ。
「なぁウィル。アゼリアがもってるのは、魔法の杖だよな?」
夜。ギルドの賑やかな酒場。ウッドテーブルでリッカーが不思議そうに聞いてくるのも無理はない。
「ああ。さっき、ちょうど見つけてね。しかも譲ってもらった。もしかしたら魔法が使えるかもって」
「どうだった?」
「いや。ひたすら振り回してるだけだ」
今は、ミートに先っぽを当てて遊んでいる。ミートがアゼリアに魔法をかけられたフリをして。それをみて他の客も楽しんでいるのだが……どちらかというとアゼリアを見てるだけ?
「しかも、マスターがハゲにしている理由が分かった」
「わははは。人間の街は面白いな。してその理由は?」
「あれは、奥さんがやっているらしい」
「なんで全部剃るんだ?」
「‥‥‥そこまでは」
「簡単ですよ」
割り込んできたのは、受付のお姉さん。リッカーが頼んでいたお酒。まぁ、お酒しか頼んでないけど。
「あの髪型なら『ハゲが女の家から出て行った』って話になればすぐに見当がつきますので」
「わははは。目印か」
「そうですね。この町でハゲといえば、ここのマスターだけなので」
「奥さんの機転か」
「理由はもう一つありますけど‥‥‥本人は男らしいって思ってるみたいですし。それでは」
テーブルから離れていくお姉さんの歩き方は見惚れてしまうほどとても、
「セクシーだろう?」
「うお! ハゲ! あ。失礼。マスター」
「気にしなくていいぜ。どうせ街中でハゲがきたって言われるからな。それに俺の名前はハゲルだ。みんな略してそう呼ぶんだ」
絶対に違うと思う。あ、もう一つの理由か、これ?
「ところで、掲示板にあった依頼なんだが‥‥‥」
気まずそうなハゲルの口ぶりからすると、ちょっと難しい仕事なのだろうか?
「すまん。まだ全部は見てないんだ。どんな内容だ?」
ハゲルがテーブルに置いた依頼書には魔女の文字がある。魔女に会いたいのは確かなんだが、それなりの準備がいるな。
「魔女?」
「いや、よく読んでくれ。この町を南に一時間程のところに森がある。そこが昔から魔女の縄張りのギリギリ外側だったんだが、最近動物が狂暴化したらしくてな。魔物も出るって噂だ」
「それは物騒な内容だな。闇の魔女か?」
「いや、光の魔女だったはずなんだが‥‥‥とりあえずは、その森の中に街道があって、隣町との行き来がしづらいらしい。それで今回は調査と魔物の討伐だ」
「それなら安心か」
正直、森の魔女を相手にするなら十人以上で向かわないといけない。小遣い稼ぎと、そうだ決闘があるじゃないか
「ちなみにハゲルは大剣を持ってるけど、あれは」
「ああ。あれか? モテるだろ? だからだ」
この人を掘り下げるのは止めておこう。かわいそうだ。
「決闘があるし、依頼は受けられるのか?」
「往復二時間。調査は数時間で構わない。森の中の街道は普通に進めば二時間もかからない。討伐すればその分報酬を払う。それに決闘は夕方なんだろう? あのお嬢さんが言ってたぜ!」
ウィンクと親指が繰り出すコンボは似合う男と似合わない男がいる。ハゲルはどっちだろうか
「わかった。じゃぁ、明日の朝イチで出発して戻ってくるよ。馬車を借りれるか?」
「おお。そうだな。その方が早いしな。お前さん、あのレッド・ランスなんだろう? 今この町にいる冒険者で安心して頼めるのはあんたくらいだ」
「どうだかな‥‥‥皆顔なじみなんだろ? 気にするなよ。ハゲル。お互い様だろ?」
俺はハゲルが気を利かせて部屋を分けてくれたそのカギをちらつかせ、そのままリッカーに渡す。
「おお。そうじゃな。すまん。明日は早いのか? ならワシらも寝るとするかな」
アゼリアもそろそろ寝なければいけませんよ?と酒場の中を見回すと男が群がるテーブル。絶対にあそこだ。
「はい、ちょっとごめんね。いこうか? アゼリア」
「おいおい、せっかく綺麗な花がきたのに持ってくなよ!」
アゼリアと会話を楽しんでいた男たちからの罵声。それに最初に怒ったのは、テーブルにドン!っと酒を置いた女の子たち。
「あら? それじゃ私たちは? あなたたち毎日なんて言ってるのかしら?」
「いや、あの、君たちも花だよ?」
女の子たちからは嫉妬の目線よりも、今のうちに離れた方がいいよという気配りだった。
「みんな、ありがとう。おやすみなさい」
「「「はぁーい。おやすみアゼリア」」」
なんなのこれ? 持ってきたお酒を最初に飲んだのはそれを持ってきた女の子だった。そして「おかわりは?」と追加させる。こわい……