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「なぁ、あれ? 杖を取り扱ってるんじゃないか?」
「あ! そうね。行ってみましょう?」
鍛冶屋の用事を済ませギルドへと戻る途中、魔法使い用のお店を見つけた。
「みて、かわいい! 看板に絵が描いてある。えーっと、ほうきに乗った魔女? 一目でわかるいいデザインね」
「そうだね。もしかしたら杖があったら魔法が使えるかもしれないし、ちょっと試してみようか?」
「それは良い考え!」
木造平屋建ての魔法の店。所狭しと置かれた薬や杖の素材になる木やら服やら。
「あら、いらっしゃい。あんた魔法使えるのかい?」
着古した白いシャツ、髪はぼさぼさのおばあさん。引退した魔法使いって感じだ
「こんにちは。おばあさん。私は――」
「名前はいいよ」
ちらちらこっちを見るようになったアゼリア。ちょっとかわいい。
「えへへ。アゼリアです」
「あら、ありがとうね。お嬢ちゃん……エルフかい? それも見たことないほど純粋なエルフだね。こりゃおったまげた。生きててよかったよ。エルフのお嬢ちゃんが魔法の杖?」
「ああ、彼女は今……調子が悪くてね。魔法が使えないんだ」
「そうなの、おばあさん。杖があれば魔法が使えるかなって思って。試してもいいかしら?」
「杖があれば? ハハハハハ――」
なんだ上を向きながら大笑いしたおばあさんが止まったぞ? 加護か? これは加護を使ったのか?
「止まったわ?」
「俺は何もしてないよ?」
アゼリアと目を合わせるがお互い理由がわからない。
――ガホッ!
「ゲホッゲホ――。危ないわい。自分の入れ歯で死ぬかと思った」
こわ。長かったし。大笑いして外れた入れ歯で死ぬとか大往生ですか。
「大丈夫? そんなしわくちゃになるまで生きてるのもすごいけど、やって来た死を迎え撃つなんてもっとすごい」
アゼリアに他意はない
「ハハハ――。ッと、エルフのお嬢ちゃんには婆がそう見えるのか。面白いねぇ。ところでその杖はどうかな?」
アゼリアの話すことに笑っているおばあさんだが、ちょっと危なかった気がする。オススメしてくれる杖は、短く細い生活魔法で役立つ程度の物。戦闘より旅向きの物だ。
「これね――。ん! えい! えい!」
「ちょっとアゼリア? 何をしてるの?」
「何か出るかなって思って」
一生懸命に握った杖を振るアゼリア。魔法が出るわけもなくおばあさんも孫を見る目で見ている。そもそも使い方を知らない。
「ハハハ―――ッ! なんじゃったかな? そうそう。こんな綺麗なエルフを見るなんて夢にも思わなかったよ。いつ死んでも悔いはないねぇ。それ、あげるから。持って行っておくれ」
ついさっきも記憶が飛ぶくらい死にかけてましたけど。おばあさん、笑うの堪えてくれないかな。
「まぁ、おばあさんありがとう!」
「おお、おお。暖かいお嬢ちゃんだねぇ」
嬉しさからおばあさんに抱き着くアゼリア。杖を一生懸命に振りながら外へと出ていく。おばあさんが手招いている。
「あんた、あの子の。あれだろ? ほらこれ」
「ん? 小瓶? なんだいこれ?」
「これはアタシが若いころによく使ったやつだよ。男の飲み物にいれるとそれはもう――」
「ありがとう! いくらだい?」
正直、必要ないがそれでも欲しがるのは男の性だろうか?
「いらないよぉ。これはね、ほれ、ギルドのハゲおるじゃろ? あいつが若いころに実験台になってもらって作った非売品じゃ」
副作用はハゲですか? 女好きですか?
「だいじょぶ。副作用なんてないから。あいつはただ、奥さんに髪を剃られてるだけじゃて」
「ほぉ。それでは、問題なく強化可能だと?」
「ほほほ。そうじゃな、強化薬じゃ。いいのそれ。それで売り出そうかの?」
俺たちは互いの手を取り未来を希望に託した。
外で待っていたアゼリアに追いつく。
「ねぇウィル? やっぱり何も出てこない」
「そんなに一生懸命振ったってなにも出てこないよ。ハハハ」