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森を出た四人の後日冒険談。
最初に訪れた小さな街で、冒険者登録をする一行。旅をするのに宿の提供はありがたい。
ウィルは忘れていた。この町で先日、自分がしたことを――
俺の名前はウィリアム。気軽にウィルって呼んでほしい。身長は大体170ちょい。茶黒い短めの髪にブラウンの瞳。今、入口の両扉をキィっと音を鳴らして入ったところが、いわゆる冒険者ギルドだ。受付と張り出しと食事処兼居酒屋。どこの街でも見かける木と石で出来た普通の建物。
「おい、なんだこいつら」
「なんて綺麗な女だ」
「エルフじゃないか?」
皆が俺たちに注目するのも無理はない。まずはこの彼女!ってあれ? いない?
「うふふ。ありがとう。美味しいのねこれ! まぁ、すごい大きい剣! んー! だめ、持てない。えへへ」
おいおい。すごいな‥‥‥屈強なハゲ男ともう楽しそうに話している。あの銀髪の長髪、細めだけどちゃんと掴めるほどのおっぱ――胸がある屈託のない笑顔が最高のエルフが俺の彼女、アゼリア・ブルーベル。純真・無垢で嘘偽りのない彼女は疑うことを知らない。だから、ちょっ、えっ
「そうなの? すっごい大きいのがあるの? 見てみたい」
「あぁ。俺のはすごい――ブベ」
危ない。あれ絶対に宝刀のことだろう? うまいことそんな屈強なハゲ男を足止めしたのがジャイアントのミート。ハーフ短パンにピチティーみたいになってるのはしょうがない。言葉はうまく喋れないが、慣れれば伝わるかわいいやつだ。デカいけど。
「いててて!! ぎぃあああ。潰れる!」
「ミートォ」
よくやったぞミート。そのまま、そいつの頭を掴んでてくれ。それともう一人……見えないけど、多分カウンターで酒をもらってるはずだ。小さくて大きな髭を蓄えた年齢以外全部おっさんなのがドワーフのリッカー。一応、ジャイアントとは兄弟だ。といっても血はつながっていない。ほらね、両手に酒を持ってこっちに来た。
「おお、ウィル。して、どうじゃ?」
「あぁ、今、お前らの紹介が終わったよ」
「ええ、賑やかなパーティですね」
受付のお姉さんの笑顔には困惑が混ざっている。茶色で長い髪、ちょっとポッチャリしている。大体受付の人ってのはそのまま夜も働くから、お金を稼いで羽振りの良くなった冒険者に食事と酒を勧められる。育つのはそのせいか?
「あの、あそこの大きい方は‥‥‥」
「あぁ、ミートね。大丈夫だから」
頭を掴まれて暴れていたハゲ男はすでに諦めている。空いた席にアゼリアが座って、そんなぶら下がったハゲ男と楽しそうに会話を続けている。なんて気さくな彼女なんだ!
「今回、登録したいのはこの三人なんだけど」
「はい。では、こちらに記入を」
「おい、リッカー? お前ら二人はそのままでいいか?」
「ワシは構わん。ミートも……いいじゃろ」
「これでよしっと。アゼリア!? 登録名はどうする?」
ぶら下がったハゲ頭と話しているアゼリアがこちらへ駆け寄ってくると嬉しそうに受付のお姉さんに挨拶をする。
「こんにちは」
「こんにちは。あれ? エル……エルフですか!?」
まぁ、驚くのも無理はない。今この世界で見かけるエルフは太古の名残。ここまで色濃く純粋なエルフを見るのは初めてだもんな。
「もしかして、先日に東の方であったエルフの郷が突然現れたのと関係してるんですか? 調査中の案件なんですよっ」
お姉さん。正解!
「昔からずっとあそこにあったのよ?」
「いやぁ、ちょっとわからないなぁ――!?」
ちょっとアゼリアちゃん。何、さらっと言ってんの。被ったからよかったけど。アゼリアの口を塞ぐ俺の顔を見るお姉さんの目が鋭い。話題を変えよう。
「―!ンー!」
「アゼリア・ブルーベルでお願いします」
「‥‥‥かしこまりました。で、その、貴方の名前は?」
「あぁ、俺はもう登録してるから。ウィリアム・ハートレッド」
「ウィリアム……ハート……あ、あった」
お姉さんの目が輝き出した。それも当然。だって俺、意外と活躍してたから!どうぞ、どうぞ、この三人に教えてあげて!
「ウィリアム・ハートレッド。通称が赤い槍。上級冒険者ながら、街に訪れては女性との間に問題を起こし、先日も……あ、あったこれだ。はいどうぞ」
「え?」
アゼリアの手が俺から離れる。怒ってはいないけど、何か聞きたそうな顔をしている。
「この紙は? えっと『果たし状特別依頼』?」
「はい。冒険者同士で正当な理由があれば受理される決闘申込書ですね。期限が切れてないのはそれだけですよ」
ちょっと、いたい。アゼリアが腕の肉ごと服を掴んでくる。
「殺してしまうと逆に追われますが、現状、それを無視できるような重要任務も承っていませんし。ウィリアム様、女の恨みを受け止めてくださいね」
「いやいや、お姉さん。言い方。俺、全部未遂だからね? ね? アゼリアもそんな目で見ないで」
「わははは。いきなり決闘か。こりゃ見ものだわい」
「私、見てみたい」
「お姉さん。重要任務受ければ回避できるんだよね?」
「ありません」
「いや、そこのファイルに」
「見えません」
ドン!っという音と共に依頼の判子を押すお姉さん。何その笑顔? これで成立だ。そうだった。ここは先日の犬獣人カップルの街だった。忘れていた。とりあえず来たばかりだし……飯でも食うか。
「ところでここのギルドマスターは? 鍛冶屋を紹介してもらいたいんだけど」
「あぁ、それなら」
「よぉ。お前がうわさに聞く、赤い槍か? よろしくな?」
突如、背後から聞こえる渋い声。振り返るとミートに頭を掴まれたままぶら下がったハゲ男が高いところから俺を見下していた。
お前か!!
読んで頂きありがとうございます!
少し、コメディ要素を強くして続編を始めます。
本編『私と魔女』は真面目なのであしからず。
今作からでも問題ありません。
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■私と魔女 プロローグと繋がりあり