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ギリギリギリギリ
決闘の場にやってくると逆三角形の獣人ボボックはそれはもうお怒りの様子で立っていた。すでにギャラリーは集まり丸く囲うように出来たその中に彼は立っている。
「てんめええぇ!! おせえぇんだよぉ!!」
「わりい、わりい。ちょっと散歩してて。お前も好きだろ?」
「それに俺の子分におかしなことしやがったな!」
決闘の場所。門の前に広がる草原にあるのはまばらに生えた大きな木。頭に蝶々が飛んでいそうなエーとビーとシーが幸せそうな顔で木の根っこに座っている。
「いや、俺じゃなくて……」
「ごめんなさい。ボボック! 私が馬車から降りるの手伝ってくれた時から調子悪そうで。だいじょうぶ?」
駆け寄っていくアゼリアを嬉し恥ずかしそうに見つめるボボック。彼の後ろの木には子分が他にも数人いる。
「あら、貴方たちもここへ? こんにちは」
アゼリアがエービーシーに近寄ると周りの子分も彼女に近寄っていく。そしてなぜか順番に一列に並んで握手して、自分の手を掴んで吠えている。
「なんだあれ」
「惚れたな」
「すごいですね。アゼリアさん」
俺とマスターと受付のお姉さんが感心する中、肝心の決闘相手のボボックはその様子を振り返ってみながら尻尾を全開に回している。なんかむかつくな‥‥‥
「思ったよりギャラリーがいるな。お姉さんのせいだね」
「がんばってくださいね。ウィリアム様。片方空いてますし」
「え? それさっきのビンタのこと? 喰らうの前提なの?」
マスターは男二人の間に立ち、お姉さんはギャラリーに混ざる。肝心のアゼリアは敵陣でチヤホヤされ、すでに何人かはおなかを見せて尻尾振って犬化しているのもいる。
「ちくしょう!」
そういいながらこっちを向いたボボック。どういう意味のちくしょうなんだろうか? マスターが何か言い始めるぞ。
「それでは、本日執り行いますは『果たし状特別依頼:決闘申込書による、犬対鬼畜』」
犬と言われたボボックも、鬼畜と言われた俺もマスターを同時に観たがこのギャラリー。無視しておこう
「ま、まぁいい。このボック様の実力を見せてやる」
そう、彼の名はボック。ボボックじゃない。
アゼリアがそんなボク・ボック・ボボックの元へ駆け寄る。
「あのねボボック。昨日ね、貴方にそっくりなボックっていう人に会ったの。ボボックのことは知らないって言ってたけど、もしかしたら生き別れの弟かもしれない。あとで一緒に探しましょ!?」
「‥‥‥」
「それでは赤い槍こと、ウィリアム・ハートレッド前へ」
これは素手の勝負。逆三角形とはいえ負けてたまるか。
「この鬼畜!」
「女の敵!」
「スケコマシ!」
「あたしを抱いてぇ!」
若干、変なのも混ざっているがお姉さんから聞いてたぶん罵声なんてへっちゃらさ。
「そして、唸る牙こと、ボッ――」
「ボボックだ」
「唸る牙こと、ボッ――」
「俺はボボックだ」
ん? あいつなんて? 今、認めた? 傍にアゼリアがいるからって自分の名前を変えた? マスターは空気を読むのが得意。
「俺は、ボボックだ!!」
マスターがボボックに「お前、一皮むけたなって笑顔で頷く」
いやいや、そこ剥いちゃいけないから。守らなきゃいけない皮だから。ボックっていう皮剥いてニューボボックでちゃったよ。
「そして、唸る牙こと、ボボック・グレートリバー前へ」
あんのやろう! 自分の彼女がいるのにその目の前で名前変えやがった! ぶっとばしてやる
「アゼリアさん。ここにいると。危ないですよ。アイツの細胞が付着しますよ? 俺の毛で守りますから。もっと後ろへ」
キラキラした目、すがすがしい顔、風でなびく汚い毛、ニューボボックはアゼリアを紳士にエスコートする。
ボボックにそういわれたアゼリアが子分たちの方へいく。なんなのこの構図。俺の味方は‥‥‥いた!? って酒飲むリッカーだけか。俺の彼女とボボックの彼女が並んで立っているのが気になるが‥‥‥
「素手のみの! 男による! 女の為の闘い! はじめ!」