とある朝の光景。 Other view
前話と合わせてご覧ください。
〜妹視点〜
毎朝、兄を起こしに行くのは私の仕事だ。
兄が起きるより前に起きて、鏡の前でおかしなところがないか何度も身嗜みを確認する。
よしっ、大丈夫。
兄の部屋の前で何度も深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。
いつもいつも失敗してるので今日こそはと意気込んで、ノックをする。
「兄?入るよ?」
断ってはいるが朝に弱い兄がこんな小声で起きるわけが無いのは知っている。
部屋に入ると案の定、兄は気持ちよさそうにすやすや寝ている。
毎日見ているけど、兄のこの可愛い寝顔は飽きることはなく、独り占めできるこの時間がなければ一日が始まった気がしない。
その後、一時間近く兄の寝顔を堪能すると、名残惜しいけどそろそろ起こさないと学校に遅刻してしまうので起こすことにした。
「兄、起きて。朝だよ。」
最初は優しく揺すって起こす。
けれど、兄さんはまったく起きる様子がない。
「兄。起きて。」
「ふに〜。」
可愛い寝息にこのまま寝かしてあげようかとも思うけど、このままじゃ兄を遅刻させてしまう。
「兄。起きて。」
「はふ〜〜〜。」
「兄ってば。」
段々強く揺すっていく。
「兄。」
「ふにゃあ〜〜。」
「起きて、兄。」
「はみゃ〜〜。」
ああ、時間がなくなっていく。
「起きて!兄!」
「む〜。」
あ、目が開いてきた。この起きかけの表情がすっごい可愛い。
「起きろ!馬鹿兄!」
兄が起きてきたのを意識したらまた口調が・・・・・・。
「にゅ〜〜〜。」
「起きろ!馬鹿兄!」
「きゃふ〜、です〜。」
ああ、またやっちゃった。
布団を剥ぎ取って転がる兄を見て、私は心の中で頭を抱える。
「寒いです〜。眠いです〜。」
「さっさと起きろ!遅刻するわよ!」
「遅刻でいいです〜。だから、お布団です〜。」
「起きろって言ってんでしょ!」
「あう〜。」
あ〜!!何やってるの私!兄を起こしにきただけなのに何で蹴るの!?
「もう起こさないからね!絶対に起きなさいよ!」
兄の部屋から出て、自分の部屋のドアを閉めるとその場に座り込む。
「ああ・・・・・・、またやっちゃった。今度こそ兄に嫌われた。どうしよう・・・・・・。」
兄のことが大好きなのに本人を前にするとどうにも暴力的になってしまう。
自分のこんな性格が嫌になり、泣きたくなってくる。
でも、ここで泣くと兄に余計な心配をさせてしまうので泣くわけにはいかない。
何とか気持ちを落ち着けてリビングに行くといつも通り兄が朝食を作ってくれていて姉と兄と一緒に食べた。
おいしい・・・・・・。兄の料理の腕は贔屓目を抜きにしても、すぐにレストランを開けるぐらいはあると思う。
けど、その一言も満足に口にすることも出来ずに隣で姉が料理に難癖つけるのを黙って聞きながら食べ続けた。
兄が席を外すと、姉がテーブルに突っ伏した。
「・・・・・・妹、何故、私はこうなんだ?」
「私だって何でこうなんだろ・・・・・・。」
姉妹共々揃って溜息をついた。
その後、兄の背中に捕まって一緒に自転車に乗ってドキドキしながら登校する。
これが私の一日の始まり。
〜姉視点〜
目覚ましの音でいつも通りの時間に目を覚ます。
淡々と服を着替えているといつも通りの妹と弟の騒ぎが聞こえる。と言っても、妹が一方的に騒いでいるだけだが。
妹も難儀な性格をしている。どうせこの後自分の部屋に戻って自己嫌悪に襲われるのだろう。
まぁ、私も人のことを言えた義理ではないが・・・・・・・。
部屋を出るとタイミングよく弟が部屋から出てくる。
弟は年齢に見合わない幼さを外見的にも内面的にも保っていて、学校でも苦労をしているんじゃないかと常々心配に思う。
「弟。」
私の声に反応してこちらを見る弟の顔は本当に幼い。いわゆる、童顔というやつだ。
私も妹も母に似たのかいわゆるショタコンというやつなので、弟はモロに好みのど真ん中なのだが・・・・・・。
「貴様、昨日ちゃんと掃除したのか?」
これもまた母に似たのか本人の前だとどうにも素直になれない。
というかこの行動、私は小姑か?
しかも、ご丁寧に前日、寝る前にわざと自分で汚しているのだから始末に終えない。
「こんなに汚れが残っているぞ?」
私が汚したんだから当然だな。
「ごめんなさいです〜。」
ああ、弟。すまない。こんな姉を許してくれ。
「毎日毎日、同じことを言われても出来ないのか?」
毎度毎度、何故、私は懲りない?
「努力するです〜。」
弟は十分に頑張っている。改善するべきは私だというのに。
「それは聞き飽きた。結果で示せ。」
・・・・・・私の阿呆。
「はいです〜。」
弟のその純真でいて、少し傷ついていることが伺える瞳が痛い。
「それと私の部屋の照明がきれたから換えておけ。あとリンスもきれていたから買って来い。」
「了解です〜。」
弟の見えなくなるところまで移動すると壁に手をついた。
「最低だな、私は・・・・・・。」
心中でしばらくの間自分に向かって罵詈雑言を吐いた。
朝食の席につけば、せっかく弟が用意してくれた朝食に難癖をつける。
うまいと思っているのに、口から出てくる言葉は文句ばかり。
弟がその理不尽な言葉をちゃんと受け止めているのを見て、うつになってくる。
何をやっているんだ、私は・・・・・・。
弟が席を外すと机に突っ伏した。
「・・・・・・妹、何故、私はこうなんだ?」
弟を傷つける自分を殺してしまいたい。
「私だって何でこうなんだろ・・・・・・。」
妹と揃って溜息をついた。
弟達より家を出る時間が遅いので、妹が弟の背に抱きつきながら登校するのを羨ましく思いながら、リビングで弟が淹れてくれたコーヒーを飲んでいると
「み〜ぢゃぁ〜ん。」
「・・・・・・何があったか大体予想は出来るが泣くな、母。」
大泣きしながら弟の作った朝食を持って母がリビングにやってきた。
「だっでぇ〜、だっでぇ〜、ぜ〜ぢゃんのごばんのごど、わだじ、がぢぐのえざっでいっだのに、ぼがにもびどいごどだぐざんいっだのに、ぢゃんどごばんもっでぎぢぇぐりぇだんだよぉ。」
弟がいるときといないときでは二重人格じゃないかと疑うぐらい性格が変わる母は泣きながら、弟の作った朝食を食べていた。
「ごんなにおいぢいのに、わだぢば、わだぢばぁ〜。」
そんな母をなだめてから家を出る。
これが私の一日の始まり。
〜母視点〜
徹夜明けで重たいまぶたをこすりながら用をたしてもう一度、自分の部屋に戻ろうとしたときだった。
「おはようございますです〜。」
私の愛しの天使、せ〜ちゃんと出くわしてしまった。
姉さんの子供でその血を濃く受け継いだのか、天使のように可愛らしい顔立ちをしたせ〜ちゃんに私はこの子が物心つく前から虜だった。
姉さんとお義兄さんにお婿に下さいと頭を下げて頼んだことも一度や二度ではない。
そんなわけで目に入れても痛くないほど心から愛しているせ〜ちゃんを姉さん達が死んでしまって、ありとあらゆる手段を駆使して引き取った。
しかし、私はせ〜ちゃんに夢中のあまり自分の性格を忘れていた。
「相変わらず苛つく話し方ね。」
いや〜〜〜〜〜!!何言ってるの!?私〜〜〜〜!!
好きな人の前だとどうしてもその人に対して攻撃的なことしか言えないのだ。
「ごめんなさいです〜。」
ああ、傷ついたその顔もまたかわい、じゃなくって!私!これ以上せ〜ちゃんを傷つけるようなことを言っちゃダメ!
「喋らないで。ほんとにあんたの話し方は苛々する。ただでさえ徹夜明けなのにあんたの顔を見ると気分が悪くなってしょうがないわ。大体、あんた昨日私が仕事している間、すやすや眠ってたでしょ?居候の癖に家主が働いてるのに先に寝るなんてどういうつもりかしら?夜食も用意できないの?これだから愚図は嫌になるのよ。養ってやってるんだから少しぐらいは役に立って欲しいわね。あんたみたいな役立たずに期待するのも馬鹿らしいけど人の金で生きてる以上、何かしなさい。」
いぃぃぃいいぃいぃぃいいぃぃやぁぁぁぁああぁぁぁあぁぁぁあぁ!!
何言ってるの私!?せ〜ちゃんの愛らしい顔を見れて嬉しいくせに!徹夜してせっかくの綺麗な肌に悪影響を与えて欲しくないくせに!夜食は自分で太るからって断ったくせに!ほんわかしたところが大好きなくせに!家事全般頼り切ってるくせにぃぃいいいいぃ!
「・・・・・・。」
あ、あれ?せ〜、ちゃん?く、口をきいてくれないの?お、怒っちゃったの!?私のこと嫌いになっちゃったの!?
「何か言いなさいよ。私を無視するの?」
こんなだから嫌われるのよ、私!
「お母さんが喋るなって言ったです〜。それに、家事をやってるです〜。」
素直!何て素直で純真ないい子!
「私のせいにするつもり?生意気ね。それに家事をやってるですって?あんな家畜の餌みたいにまずいものを出されて、掃除をすればほこりを残す、洗濯をすればノロノロ時間をかけてよくそんな偉そうなことが言えるわね。」
私の馬鹿ぁあぁぁぁぁぁぁああぁぁあぁぁ!!
ご飯をいつも大喜びしながらおいしく食べてるくせに!家中いつもピカピカなのを知ってるくせに!洗濯物がいつも綺麗に畳まれてしまってあることを知ってるくせにぃぃぃいいいぃ!
どの口でそんなことを言ってのよぉぉぉぉおおおぉおぉぉ!!
「これでも頑張ってるです〜。」
そうよ!せ〜ちゃんはこれ以上ないくらいに頑張ってるじゃない!
「もういいわ。あんたに人並みの結果を求めたあたしが馬鹿だったわ。ああ、私、朝食はいらないから。あんたの作った家畜の餌なんて口になんかしたくもない。姉さんとお義兄さんはあんなに出来た人だったのに何でこんな駄目な子が出来たんだか。」
・・・・・・・もう、死のう。
せ〜ちゃんと別れて、自分の部屋に篭る。
「死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ。」
あんな良い子に何であんなひどいことしか言えないんだろう?
うふふ、一度死ねばこんなひどい性格なおるよね?
そうだ。遺産は全部、せ〜ちゃんに残るように遺書でも書いておこう。
そうして、遺書を書いているとドアをノックする音が聞こえた。
「あの〜、です〜。いらないかもしれないですけど、ここにお母さんのご飯を置いておくです〜。いらなかったら捨ててくださいです〜。体を壊さないようにお仕事頑張ってくださいです〜。」
遺書を書く手が止まる。
その後、せ〜ちゃんのいってきますという可愛らしい声が聞こえてから、ドアの外を覗くとお盆にのせられている朝食があった。
こ、こんな、ひどいお母さんにもちゃんとご飯を作ってくれたの?
感激と罪悪感のあまり泣き出しながらリビングに向かうとそこにみ〜ちゃんがいた。
「み〜ぢゃぁ〜ん。」
「・・・・・・何があったか大体予想はつくが泣くな、母。」
「だっでぇ〜、だっでぇ〜、ぜ〜ぢゃんのごばんのごど、わだじ、がぢぐのえざっでいっだのに、ぼがにもびどいごどだぐざんいっだのに、ぢゃんどごばんもっでぎぢぇぐりぇだんだよぉ。」
み〜ちゃんの前でせ〜ちゃんが作ってくれたご飯を食べる。
「ごんなにおいぢいのに、わだぢば、わだぢばぁ〜。」
罪悪感で心をズタボロにされながらもご飯をよく味わって食べる。
その後、み〜ちゃんに慰めてもらって遺書を破棄して今日の仕事を始める。
これが私の一日の始まり。
他の連載を続けて書いているうちに疲れてきたので息抜きのつもりで書きました。読者の皆様の反響と気分次第では続きを書くかもしれません。
息抜きなので至らない点は多いと思いますがどうかお見逃し下さい。
ちなみに、主人公 天川 星。妹 果樹 林檎。姉 果樹 蜜柑。母 果樹 苺。