いい天気だなぁ
「今日はいい天気だなぁ」
わたしは、窓の外を見ながら一人でそう呟いた。
天気がその日のわたしのテンションの高さを左右し、一日を楽しく過ごせるかが決まる。それぐらい大事なものだと思っている。
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「未来ー、来たよー」
今日は、友人の未来の家で勉強会をすることになっていた。来週は定期テストがあり、一夜漬けとまではいわずとも、最後の足掻きをしようということだ。
「いらっしゃい、夏子……て、今日は傘さしてこなかったの?いつも日傘さしてるくせに」
未来は少し呆れたようにそう言った。彼女にとってわたしは、いつも傘を持っているイメージのようだ。
「まぁ、歩いて1、2分で着くし、走れば秒だからね」
わたしと未来の家はかなり近い。そんな距離でさえ、傘をさして歩くのは面倒だった。それに、少しぐらい浴びておいた方が気持ちがいいのだ。
部屋に入れてもらい、机に勉強道具をひろげて、いざ、テスト勉強……のつもりだったけど、ものの30分で集中が切れ始め、1時間足らずで雑談タイムに突入。まぁ、お決まりのパターンだよね。
「最近、暑いねー」
「夏だからね。やっぱり、夏は、ギラギラとした太陽の下で体を動かすのが気持ちいいよね」
陸上部に所属している未来のようなスポ根を、あいにくわたしは持ち合わせてはいない。暑過ぎるのは嫌だ。
「ねぇ、全然違う話なんだけどさぁ」
「ん、何?」
珍しくわたしから話を振っていく。
「いちごのショートケーキのいちごを、最初に食べるか、最後に食べるかっていう質問あるじゃん?」
「あるね」
美味しいものを先に食べる派か、とっておく派かを判断する質問である。
「これについてどう思う?」
「どうっていわれてもなぁ。わたしは、いつもいちごを先に食べるよ。好きなものは、先に食べちゃいたいもの」
「わたしもいちごは最初に食べるよ。でもそれは、好きなものを後にとっておきたいからなんだよね」
未来はどういうこと?って顔してる。わたしがこの質問をされる度に、イライラしていた理由が、この食い違いなのである。
「そもそも、この質問は、好きなものを食べるのが先か、後かを決めるのには不適切だと思うの。個人個人で好きなものが違うのに、あたかも、いちごの方が価値の高いものであるという前提で、診断している」
わたしは、ショートケーキのスポンジと生クリームが好きなのだ。勝手にいちご好きにされた挙句、好きなものを我慢できない、堪え性のない奴だと思いこまれるのだ。
「あのさぁ、そんな小さなこと気にしてさぁ、人生疲れない?」
また呆れられてしまった。
ふむ、もしかしたら、わたしのような小さなことを一々気にする、面倒くさい奴を見つけ出す。そんな性格診断も兼ねているのかもしれない。その為に、こんなアバウトな内容になっているのかもね。
「もっと単純に、『好きなものは先に食べちゃう?それとも、最後まで残しておくタイプ?』って聞けばいいのよ」
自分で言っておいて身も蓋も無いなぁと思った。
「まぁ、何が言いたいかっていうと、普通はこうだろう、とか簡単に決めつけないでってことだよ」
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「なんか、ほとんど勉強せずに終わっちゃったね」
その後も、何のとりとめのない話を続け、もう昼過ぎである。お腹すいたなぁ。
未来の家の玄関の扉を開けて外に出る。
「うわぁ……」
思わず"うわぁ"とか口に出してしまった。なんてこったい。朝起きたときは、あんなにいい天気だったのに。今日一日を最高の気分でいられると思っていたのに。
太陽だ。太陽さんがギラギラと輝いていらっしゃる。朝起きたときには、あんなに雨が降っていたというのに。
わたしは雨が好きだ。雨が家の屋根を叩く音が好きだ。雨に濡れるのが好きだ。雨が降る様を見るのが好きだ。雨が降り始めるときの匂いが好きだ。雨が好き雨が好き雨が好き雨が……
最近、日照りが続き、雨不足による禁断症状でも出ようか、というぐらい待ち望んでいた雨が降ったというのに、たかだか2、3時間でやんでしまうとは。ああ、神は何をお考えなのか。
そんな傷心しきっているわたしの後ろで未来が、一般的に、至極真っ当なことを言った。
「わぁ、凄くいい天気になったね」
最後までお読み頂きありがとうございます。
果たしてこれを、推理ジャンルで出してよかったのだろうか……