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神代権闘師ギルドライバーRexX  作者: 黒羽光一 (旧黒羽光壱)
第1章:能力発現から大会参加まで
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001.いままでのあらすじ

ギルドライバー(関連作)の執筆意欲を引っ張っていくために、前向きなお話を作ろう! という企画です。変身があるかはまだ未定・・・

 

 

 

 

 

 飛行機か何かで見た映画でかかったヴァン・ヘイレンのジャンプを聞いたとき、時代が変わった! と俺は確信した。

 何が変わったのかのかとか、そんなもの説明できるようなリテラシーは残念ながらない。

 ただただ映像がすさまじく、ストーリーがこてこての王道で、そして途轍もなく心揺さぶられたことは間違いない。

 未だ小さいころに味わって久しい、あの異様な高揚感。

 クリストファー・ノーランが銀幕で正義と悪を問い正したようなあれともまた違う、一つの歴史の転換点だ。

 スピルバーグってやっぱりスゲェんだなとか、色々思うところはあった。

 翻って思うと、あれが本気で俳優を志した契機なんだと思う。

 もとから確かにそういう世界に興味はあった。

 ただ、一歩、ジャンプして踏み出す勇気がなかった。

 踏み出すことによって、親との関係がこじれることが怖かった。

 親戚のお姉さんから、たびたび、その手の業界の不安定さとか、闇というか、そんなに明るみにされない部分の恐ろしさとか、そういったことをしこたま聞かされていたのも、理由の一つかもしれない。

 また当たり前のように、おおよそ母親はそういう業界に子供が就職することに、良い顔をする親ではなかった。

 言い方は悪いが、水商売につこうとしている娘を叱り飛ばすような、そんな感覚なのだろう。

 特に何もなく順当に進めば、俺も、特に何も考えず、三流大学とかに就職して、適当な就職口を探して、凡庸に過ごしていくのだと、まあそう考えていた。

 ただあの感動を味わってしまった俺は、もうそれまでの俺に耐えられなかった。

 あの興奮を。

 あの感動を。

 俺と、俺の後の世代にも永遠に続けていきたい、つないでいきたい。

 いや、繋がなければならない、俺が、俺が、俺こそが繋いでいかなければならない。

 ………………我ながら、簡単に影響されすぎだ。

 というか、そんなテーマ性の作品では断じてなかったはずだ。

 まあ、ほら、創作物を見たり聞いたりしたとき、個人個人の感想は違うから。

 ともあれ猛烈な勢いで後日に映像ディスクを購入し、何度も何度も自室でリフレインする俺を、妹が「お兄ちゃん頭どうかしちゃった?」と訝しげに見つめるくらいには、もう俺の人生観は、とんでもなくシャッフルされてしまっていた。

 絶対に妥協できない何かがそこにあった。

 この身に宿った信念は、もはやどんな言葉にも屈しはしないだろう。

 

「母さん、俺、俳優なりたい」

「あ゛ン゛?」

 

 その勢いのままに母親に放った言葉、とそれに対する反応の第一声である。

 ………………うちの母親、こういう時のリアクションはとてつもなく柄が悪い。

 眼鏡越しとはいえ、視線の威圧感だけで小動物くらいなら殺せちゃいそうでさえある。

 ともあれ営業時間の終わった中華料理店、片付けを手伝いながら発した俺の一言に、母親は案の定嫌そうな声を上げた。

 

「勝手に家を出て、勝手にやり出さないところで育ちの良さが出てるって喜んでいいものかしら、これ。……って言っても、適当な理由でそんなこと言うんだったらブン殴るわよ」

「止めてください死んでしまいます……。ただ、どうしてもやりたいんだよ」

 

 実際、昔からその手のことはやりたくて仕方がなかった。

 小さいころから続けてきた本の音読というか朗読というか、感情を込めて話すのは今でも続けてる。

 ドナルドとかジーニーとかスティッチとかミュウとかチーズとか、小さいころから声真似とかの練習も繰り返してるので声だって色々出せる。

 スポーツだって、運動神経抜群! とは言えないけど、テニスでツイストサーブが打てたりもする。

 

「最後の要らねーでしょうが」

「いや、重要じゃない? ツイスト回転」

「まあ別にいいけど。……とは言うけど、剣一? アンタ、もし稼げなくて辞めることになった時のこと、何か考えてるんでしょうね」

「その時は、まあ、しがないフリーターとして働く」

「却下。その調子だと、最後引きこもりになるわよ? 隣の奥寺さん家とかも。引きこもりはダメっていつも言ってるでしょーが」

「なら、死ぬよ」

「………………そう言っておけば、なんでもかんでも親が子供の言うことを聞くと思ってる?」

「だけどそれ以外、俺が、俺としてやりたいことなんてないんだよ」

 

 それはともすれば、わがままな感情なんだろう。

 常々、母さんは小さいころの俺や妹に言い聞かせていた。

 人間、なんでもかんでもやりたいことを仕事にしているわけじゃない。

 折り合いをつけて、出来ることをして、生きているだけなんだと。

 そこにやりたいこととか、夢とかを絡められるのは、ごくごく少数でしかないのだと、

 

「もちろん、そんなこと解ってるんだ。母さんが自分のやりたかったことを今やってないっていうのも」

「………………まあ、前の職を続けながら、子供二人は育てられないからね」

 

 唐突だが、俺の家に父親はいない。

 俺たちが生まれる前に亡くなってるらしく、写真も残ってない。

 ただ母さん曰く「剣一と鞘花が元気に育てるように頑張って、その結果死んだ」らしい。

 実質、詳細不明だったりする。

 ちなみに剣一っていうのは俺。鞘花っていうのは妹。

 二卵性双生児の、新剣一と新鞘花。

 

「とはいっても、剣一は大事な、あの人の子供だからね。おいそれと、そういう不安定な職につくのに頷けるくらい、軽率な人間じゃないわよ? 私」

 

 じっと俺の目を見つめる母親に、俺も見つめ返す。

 こうしてみると、目元とかは本当にそっくりな親子なんだなと思うくらいには鋭い。

 なのでありていに言えば、超こわい。

 こんな目つきであの柄の悪い返答とかしてくるもんだから、チビりそうにもなる。

 なんとなく不安になり、首に巻いた包帯のあたりをさする。

 数分、はかかってないだろうけど、しばらくして母さんは視線を逸らし、深くため息をついた。

 

「血は争えないわね……」

「あー、ん?」

「いいわよ。今ならまだ進路希望的に、大学なり養成所なりを探してもいいでしょ。ただ条件はいくつかつけるけど――――」

 

 こうして母さんとの会談は終わり、いくつか条件付きで俳優を目指すことにOKをもらった俺だった。

 

 一つ、まず浪人期間は二十歳までに終わらせ、どこかの事務所なり養成所なりに入ること。

 二つ、怪しげな仕事は絶対にとってこないこと。

 三つ、二十八までに安定した収入を手にすること。

 

 それが無理だった場合は、最悪実家の中華料理店を継げという話だった。

 まあ順当というか、むしろその間の衣食住についてはなんとかしてくれるとか言われてしまってるので、むしろ贅沢ここに極まれりな条件すぎる気もする。

 そのことを言うと、母さんは半眼でにんまりと笑っていった。

 

「もともと、アンタたちのお父さんも俳優とかになりたかったらしいのよ。だからアンタたちのどっちかがそう言いだした時のために、ちゃんと受け入れられるようにって、色々考えてたのよ?」

 

 なんというか、親の偉大さというか、母親の人間としての凄さをを思い知った一日だった。

 その場で泣き崩れ、妹とかお爺ちゃんとかに心配されたのは言うまでもない。

 

「ただ仕事ないときは家でアルバイト扱いってことにするから、ちゃんと料理は出来る様にしときなさい」

「あ、それは、まあ、はい」

「あ゛?」

「し、しますしますです、はい!」

 

 ただしこればっかりは反論が許されなかった。

 まあ、ニートって立ち位置にはならなそうなので、それはそれで助かったりもする。

 そんなこんなであっという間に季節は廻り、高校は卒業。

 進路について、演劇科のある大学と養成所とで揺れはしたけど、最終的には養成所の方にトライし続けた。

 理由はいくつかあるが、一つは個人的に尊敬している俳優がかつて入っていた事務所、そこの養成所があったからだ。

 案外と我が実家、月城市と距離も離れていない。

 これは願ったりかなったりというか、色々と好条件が続いていたのも事実。

 そしてまた運良くそこの養成所の試験には合格。

 面接でツイストサーブはさすがに披露できなかったものの、面接官の人と結構話が盛り上がったのが悪くなかったかもしれない(と個人的に思ってる)。

 卒業式を終え、数少ない高校時代までも友達にサヨナラ! また会う日まで! という感じで別れを告げ、本格的に自分の中でスイッチを切り替えた。

 髪も多少整え、首には包帯じゃなく赤いマフラーを巻き、上は薄い白い丸首シャツに濃い目のジーンズ(ダメージ加工のないやつ)、黒いスニーカー。

 中学生の頃にノートの端に、ボールペンで落書きしていた謎のキャラクターの恰好のイメージだ。

 うん、中二病。

 くわばら、くわばら。

 いや、最低限清潔感には気を付けてるし、首に物を巻くのは小さいころからの癖みたいなものなので、それとちょっとだけ目立つ格好を意識してるだけだ。

 別にちょっとくらいはいいじゃないか。

 ちなみにこの恰好を見た妹と母親の反応。

 

「ダサいよ、お兄ちゃん」

「なんでそんな、とっぽい恰好を好んでするのかアンタも……」

 

 何故だ、何故理解されない。

 まあ人生そんなもんだと涙目ながらに自分に言い聞かせ、本日、初の登校日となるはずだったのだが。

 

 

 

 

 

「嗚呼……、ん゛ん゛ん゛? いや、マジかよ」

 

 

 

 

 

 都心のビル、目的地たる養成所が、野次馬に囲まれて燃えていた。

 

 

 

 

 

 

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