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水盤の君と烈火の君


 水盤の君ハイフズ殿下の登場を皮切りに、暫くは登場キャラクターの紹介が続く。

 んでもって、殿下の後に出るのは、彼の兄である烈火の君こと王太子ティズ。

 王太子って言っても王位継承権は無いみたいだね。このゲームの設定だと、同じ家が三代以上王家を続けることが出来ないから、今の王様…二人のお父さんが退位されたら貴族に戻る事になってる。

 そんなだから、二人は王位継承権を巡って対立することもないし、どちらが王位をついで家を継ぐか兄弟で骨肉の争いをする必要もない。

 公式で言われるように兄弟仲が良すぎるもんだから、二次界隈では主人公放置して兄弟カップリングに走るやつが居るよ。



 

 公式ファンブックにお昼ご飯は一緒に取るって書いてあったから、「兄さん、今日は面白い子に会ったよ」とでも言ったんじゃないかね、ハイフズ殿下は。ティズ王太子殿下がそれに食いついて「お前が面白いって言うなら相当だろうな」って続いたんだろうね。ええ。それで盛り上がったのだろう。話が。ものすごく。


 結果、

「ティズ王大使殿下が面会をご所望です。すぐに支度を」

 って術者寮の食堂で殿下達の侍女さんに言われたんだけど、こういう時どんな顔すればいいかわからないn…もとい、権力の前ではどんな顔をしようと拒もうと、話は強引に進んでいくのだと知りました。


 ティズ王太子殿下が居るのは剣術寮の離れ。現役王子様だけあって、昼夜問わず人が出入りするものだから迷惑になると殿下自ら離れに移ったという。その離れには、寮に迷惑がかからないよう正門から専用の道が作られ、訪れる人々のプライバシーも完璧に守られる。

 そんなこんなでエリーゼの居る術者寮の前に停められた漆黒の馬車に乗り込み、女子生徒の嫉妬にまみれた視線と男子生徒の楽しそうな視線に晒されながら人生二度目の馬車。

 侍女さんと向かい合って座る馬車の空気は最悪で、エリーゼはとりあえずなにか話しかけようと思った。

「貴女はティズ殿下のお世話係なんですか?」

「左様でございます」

「殿下達のお世話係って何人いらっしゃるんですか」

「日によって異なりますので、お答えできません」

「そうなんですか。…あの、やっぱり殿下の侍女ってなると、採用試験とか大変なんですか」

「そうとも言えません。大方は家柄で決まりますので。…全ての侍女がそうではありませんが」

「…おねーさん、貴族の生まれなんですか」

「左様でございます」

「なんか、あの…すいません。平民階級で」

 話せば話すほど墓穴を掘っていく事に気付き、エリーゼはそれ以降何も言わなかった。


 馬車はかなり大回りして剣術寮の裏手の離れに止まった。

 術者寮にもハイフズ殿下が使っている離れがあり、男子寮と繋がっていたそれは女子寮からも遠目に見えていた。

 ティズ王太子殿下の居る離れも、それに似た二十坪ほどの小奇麗な建物で男子寮と繋がっていた。こちらもかなり年季が入っているのが見て取れる。先程の侍女の話によると、王女が入学した場合は、この建物が女子寮の庭に移築されるのだそうだ。

 門をくぐれば皆等しく学問の徒、とハルアが言っていたが、王族用に離れがあるところを見れば、うっすらと権力や安全面での問題が見えた。こうして隔離せざるを得ないのは彼らにとって幸か不幸か、とエリーゼは考えた。


「こちらへ」

 ティズ王太子殿下の侍女に促されるまま来客用の廊下を通り、扉の前に立たされる。

「取次をしてまいります」

 と侍女が隣の侍従部屋に消えたので、エリーゼは何とかティズの登場場面を思い出そうと目を閉じた。


――確か、無難な話をするはずだ。どういう所に住んでいたのか、ハルアの生家が後ろ盾になった理由を知らないか、など、今後の展開に合わせた前振りのような質問がされるはずだ。

 何かの質問に答えると、次のイベントのフラグが立つはずだった。が、興味がなかったので攻略サイト見ながらやってしまい、完全に忘れている。


 古い古い記憶を呼び起こそうと必死に頭を抱えていたところ、侍従部屋から先程の侍女が姿を見せた。

「急なお客様がいらっしゃるようなので隅でお待ち下さい」

 と愛想もなく言われた。はて、急な来客の話などあったろうか。


――普通、そういうのって待機室みたいな所に案内しませんかね?平民だからそこら辺で待ってろってことですねなんとなくわかりました。おねーさん私のこと嫌いでしょ。


 とは口が裂けても言えず、ああはいと生返事をして一歩下がった時だった。

 眼の前の木製の扉が開いた。

 

 扉の隙間から漏れ出る昼の陽光に一瞬目がくらみ、反応が遅れ、

 バチン、という衝撃音と一緒に、痛みと、鼻の奥から何かが流れる気配がした。


「まあ、ごめんなさい!」


 蹲ったエリーゼに覆いかぶさるように、客と思しき女性が覗き込んだ。

「扉にぶつかったのね。ごめんなさい。――誰か、氷を持ってきて頂戴。無いなら作るから、水でも良いわ」

 張りのある声がした。

 その女性はハンカチを取り出し、エリーゼの鼻に押し当てると流れる血を吸わせた。


「何だ、どうした」

「音がしたようだけど」

 部屋の向こうでティズ王太子殿下とハイフズ殿下の声がする。

「イオ、おい。何だ」

 ティズの声に、エリーゼはチカチカと火花が舞う視界から女性を見上げた。

 紺のワンピースに金の刺繍…呪者寮の制服だ。襟元の刺繍は金に加えて銀糸の龍が施されている。これは寮長を意味するもの。

 呪者を選択した時とティズのルートを進めると出てくるのが彼女…呪者寮の女性寮長、イオ。

 王太子ティズの現婚約者だ。





『ティズ』

 八代国王スウィズの長子。術者寮のハイフズ殿下の同母兄。剣術寮に所属する。

 弟ハイフズと異なり突出した能力は持っていないが、当人達は気にしておらず兄弟仲は良好。

 豪快な性格と王家で培われた知識と人々に時折見せる優しさから慕う者も多い。

 国の安定ために多くの貴族の娘との婚約と解消を繰り返してきており、ハルアとも一時期は婚約関係にあった。


――その魂は烈火。火は人と共にあり凍りついた心まで溶かす。傷を炙り血を止め、憎しみを焼き切り、灰は土に溶け新たな花を包む揺籠となる。夜には日の代わりに人を温め、恐怖に震える心のそばに寄り添う。

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