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白狐物語  作者: 山上龍介
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第八話 本当の力



月島総司、日本全国に数多くいる妖怪の頭であり、二代目月島家当主であり、そして彰の父でもある。



彰より頭一つ高い身長の中肉中背の男は、何も無い空間だった筈の道場の入り口の付近の壁から突如現れた。




それはまるで壁の色に同化していたカメレオンが突如姿を現わすような感じだ。



目が隠れるくらいの長さの黒髪をしており、背中に龍が描かれている着物を着ている男は六本の尻尾と、頭の上から耳を生やしていた。



尻尾と耳は上質な絹をも上回る様な毛並みをしており、色はシミひとつない真珠の様な輝きをしていた。




その輝きは薄暗く血生臭い道場の中でも薄らぐ事はなく寧ろ闇夜に浮かぶ月の様に美しかった。



「親父何で気づいた?音も立てて無いのは当然の事ながら気配すら放って無い筈だぜ?」


そう言うと片方の手を懐の中に突っ込み煙草の箱を取り出すと、その中から一本口にくわえライターを使わずに人差し指から火を出した。




ロウソクに灯っている火をイメージして貰えると近いかもしれない。


「この道場の中で一箇所だけ他の場所に気を配っている場所があったら誰でも気づくわ」


重蔵は誰でもと言っているが実際は彰も美月も豪網も気が付かなかった事からこの男にとっての普通はかなり高いところにある様だ。



「はぁ、そろそろ夜這いでもして首とってやろっかなと思っていたがこの調子じゃ無理そうだな」


そう言うと総司は口に含んでいた煙を吐き出す形の無い紫煙が辺りを雲の様に漂う。


「ふん、まだまだ甘いな儂の首を取るなら数百年真面目に修行してから出直すんじゃな」


この数百年と言うのは只の冗談では無く実際にこの二人の年齢にれだけの差があるから言われた事だった。


「まぁ取り敢えずその話は置いといて、彰はどうだった?」



「ボンか?お前も最初から見ていたんだろう?まぁじゃが一言で表すとするならメチャクチャじゃ」


その言葉を聞くと総司は額に手を当てため息を吐いた。


「相変わらずとんでもない能力持ってるし、あの草薙剣を契約したと思ったら今度は天照かよ・・。あの歳で神器二つと契約出来るって」




「儂らが天照と契約しようとした時なんかひどかったからの」


苦笑いをしている重蔵に比べ総司は口から紫煙を吐きつつ渋い顔をした。



まるであの時の事は触れて欲しく無いと、言っている様だった。



「正直天照を契約した時は本気で驚いた、草薙剣もそうだが、あの二つはあの方が使っていた道具だろう?」


「そうじゃ、儂はかなり長い間生きてきたが天照や草薙剣と契約をし使いこなせていたのはあの方のみじゃった」


「つまり彰の能力が・・・」



「関係しておるんじゃろうな。あの能力を持っていたのもあの方だけじゃった。まぁ本人は遠距離の攻撃が全く出来ないし副作用あるし、妖力の消費が激しすぎる!!って嘆いておったがの」



贅沢な悩みだなと呟きながらタバコの灰を落とす。



「そういや親父、今回彰には《妖壺十門》を使わせてたが、そもそも何であまり使わせない様にしてたんだ?」



又もや懐に手を入れ今度は茶色い革で出来た灰皿を取り出すと、そこに吸い終え短くなったタバコを押し込みながら総司は重蔵に問いかけた。


「ふむ、お前は気づいとると思ったんだがの・・。ボンのあの能力は恐らく妖術の中じゃと最強じゃろう。じゃが、ボンの能力は強すぎるが故の弱点がある、その為じゃ」



そう言うとまぁこれはボンが一番分かっている筈だがのと付け加えた


「弱点?《妖壺十門》の方にか?」


「そっちじゃ無い器は貯めるだけじゃ問題が起こる筈が無かろう問題なのは《修羅艨艟》の方じゃ。これでもう分かったな?」



「・・・・いや、さっぱりわからん」





お前はあの子の親だろうと言う視線を総司に向けていた重蔵だが、ここに第三者がいたとしても恐らく誰も理解できなかっただろう。




「・・・つまりじゃな。ボンの体を車に例えると〈妖壺十門〉は車を動かす為のエネルギー、ガソリンじゃ。そして〈修羅艨艟〉はエンジンじゃ。ボンはこのガソリンを燃やしエンジンを動かしている。構造は車と全く一緒じゃ。じゃが車とボンの違う部分が一つだけある。それはストッパーじゃ。色々な車があるが全てにおいて出せる限界のスピードと言うのが存在するじゃろ?それがボンには無いのじゃ。これがどう言う事か分かるな?」




「ガソリンがある限り幾らでも加速出来るという訳か。それの何が弱点なんだ?」



重蔵はダメな生徒が問題を解けなかった時の様に渋い顔をしつつため息を吐いた。



「・・限界を超えすぎたらどうなると思う?限界のスピードが180キロなのに対し、出るはずのない600キロとかのスピードを無理に出そうとしたら?車は速度につけていけずバラバラに崩壊するじゃろ?それをボンに置き換えてみろい」


無言にり暫く考え込んでいた総司は口を開くと、



「つまり親父は今回彰に〈妖壺十門〉と併用させて〈修羅艨艟〉を使わせたのは出せる限界を見ようとした訳だな?」



「・・まぁ、そんなところじゃな」



総司は謎が解け落ち着いたのかタバコを箱からもう一本取り出し火を付けた。


「んで、彰の限界はどんなもんだったんだ?」



「儂が見た限りじゃと五倍までは恐らく副作用無しでいけるじゃろ。じゃがそこから上げてくとなると徐々にボンの体を蝕んで行くじゃろう」



「・・・そうか。彰には伝えたのか?」




「いや、伝えなくて大丈夫じゃろ。ボンが一番よく分かっているはずじゃ」



総司は確かになと納得した様に呟いた。



「・・まぁ彰の話は置いといてだ。見てたぜ親父が美月に謝ってる姿、傑作だったな〜〜」




「っっっな!!あれはっっ・・!!」


先程とは態度が急に打って変わりニヤニヤし始めた総司は先程の重蔵の痛いところを攻撃し始めた。



「あっっれ〜〜〈五行を司る者〉とか言われて恐れられてた御方が歳離れた少女に脅されてビビっちゃうんだ〜〜」



「だから、あれは違うと言っと・・・」


総司は顔を赤くし、必死な顔をしていた自分の父が急に顔を青ざめさせている様子を見て疑問に思うと同時




スコン


と小さな音が総司の耳に聞こえた。



どこからか飛んできた物は吸っているタバコを切り裂き後ろの壁に突き刺さった。



「・・・は?」


(なんだ?気配も何も感じなかったぞ、て言うかこれなんだ?・・ん?、んん?、んんんん??)


「あああぁーーーー!!!俺の本庄翼ちゃんの秘蔵DVDじゃねぇかーーーーーぁ!!誰だ絶対にゆるさ・・・ん・・?」


・・・そこで総司は見てしまった。道場の入り口に立つ鬼を。



「へぇ〜〜やっぱりこれは貴方のだったんですね」




暗闇からヒッソリと姿を現したのは月島神楽、彰の母であり、総司の妻である。




四十を超え子供を持っているのだがその容姿は母と言うよりむしろ姉という方が近い。



しかしその整っている筈の容姿はカケラも見えず寧ろ般若を連想させた



(お、お、鬼、こ、殺される・・ん?待てよ?一つしか飛んで来なかったと言う事はコレクションの内一つしかバレてないんだ!そうだ!きっとそうだ!!)


同じ所に隠したと言う限り、一つしか見つかっていないと言う事は小学生でも分かるような事なのだろう。



然し今の総司は恐怖により例え1+1は?と聞かれたら自信を持って3!!と答えるくらい思考回路が落ちていた。



「それは、報寺がオススメしてくれたんだ!は、は、ハレンチだったもんでな一度しか見てないし、そう言うものは他には一切持って無いんだ!信じてくれ!!」



神楽が現れ時から土下座をしていた総司は、そう言うとこれ地面にめり込むんじゃね?って言うくらい頭を地面に擦り付けた。



「・・そう、じゃぁこれは何??」



神楽は何処からか数多の本を取り出すと、まるで成金の札束を散らせる様な仕草で雑誌を投げた。




「ゲゲゲッッッ!!」


総司の声門から変な声が出る。神楽が投げた。



雑誌は総司が何年もかけて必死に集めた身体学的書物だった。



まぁつまりエロ本の事だ


「同じ場所からこんなに沢山見つかったんですが・・・。ねぇ?どう言う事?ソーちゃん?」



顔が険しくなっていき、顔が般若を超え言葉では言い表す事の出来ない得体の知れない何かになっていく自らの妻を見てこれは正直に謝ろうと総司は思った。



「・・・すまん。全部俺のだ」


とりあえず頭を地面に擦り付けたまま謝った総司はまさかこの後こんな事になるとは夢にも思ってなかっただろう。




それはーーー




「・・まぁ、女性に興味を示すのはまだ理解出来ますがまさかソーちゃんが男の子にも興味があったなんて」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」



慌てて先程の神楽が投げた雑誌を漁って見ると、数々のコレクションの隙間に所々ある怪しい物を見つけた。



その内の一冊を引き抜いて見ると〈目覚めろBL!!これで君もBLマスター!!〉と書かれていた。



「・・・なぁぁぁっっ????!!!!」


暫く呆然と眺めていた総司は我に帰ると他にも怪しげな雑誌を片っ端から引き抜いて見ると・・・、



〈共に行こう!美の新天地〉とか〈男に好まれる男〉と言うのがあり他にも口に出すだけでも恥ずかしい名前の雑誌などもあった。



「ノゴォォォォッッ??!!!なっ、なっ、なんじゃこりゃーーーーーっっっっ!!??」




「まぁまぁ、そんなに悲しまないでソーちゃん」


もちろん総司は同性愛者では無い。




寧ろ男は汗臭いし、ゴツゴツしてるから嫌いなぐらいだ。



しかしこの場でその事を話すのは無理があった。


「ちがっ・・か、神楽、これは?な、何?」



「まぁ、又嘘つくつもり?ソーちゃんの部屋の隠し棚に大切そうにしまっていたじゃ無い」



(し、し、しまってネェェェーーーッッ!!)



恐らく誰かしらが総司の部屋に入り込んで仕掛けたに違いは無い。



しかし誰が仕掛けたのか全くわからない。



総司の部屋に入れる人物もは限られているし、そもそも隠し棚の事など誰にも話していない。



「この様な雑誌を読んでいたのも許せないし、嘘をついた事も許せないけど・・。何より許せないのは男好きだった所かしらね?これは少し調教しないとダメね、安心して明日になったら何も覚えていないから♪」


手をバキバキ鳴らしながら徐々に総司に近寄る神楽。




「ち、ち、違うんだって、だから、あれは俺のじゃ・・ア、ア、アーーーーッッのぉぉぉぉ!!!!グギャーーーー!!キャイーーーーン!!!」



暗い夜に響き渡る当主の悲鳴を聞いた妖怪達はこの家で誰が一番最強なのか認識を改めた。

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