第五話 道場
「うむ、一つ目の話は終わりじゃ」
「・・・一つ目って事はまだあるの?」
本日家に帰って来てから様々な事が重なり彰のHPはもう既に0だ。
「次は、ボンに渡したい物があっての・・・」
そう言うとじいちゃんは懐に手を入れ一枚の面を取り出した。
面は白雪の様な白をベースに、鮮やかな赤で目元や、飛び出している口元を彩っている。
俗に言う狐面なのだが、何故か耳の部分だけは欠けている。
「これは我が妖狐の一族が、隠密や顔を知られたく無い時に使用していたと伝えられている面『天照』じゃ」
「重蔵様、それは私達が見てもよろしい物なのでしょうか?」
成る程、妖狐が付けていたから耳の部分は無いのかと彰が一人納得していると、後ろから美月が恐る恐るじいちゃんに質問した。
「構わんよ、むしろ知っといて貰わんとボンが仮面を使う時サポートしてくれる者がいなくならからの」
「じぃちゃん、何でそれを今俺に渡すの?」
仮面を渡されたものは良いものの何故隠密や顔を隠さなければならない事があるのか分からず聞くと、じぃちゃんは眉を寄せ溜息を吐いた。
「はぁ・・、我が孫ながら阿保すぎて困るわい、美月や豪網は見た目は普通の人間だし、その人間の姿のままに力をふるえる、しかしボンはそれが出来ん、ボンが本気で戦う時には嫌でも妖狐の状態にならないと戦えないじゃろうが・・」
「・・・・あ」
「それを妖怪を敵だと思ってる人間達のど真ん中でやったらどうなると思うのじゃ?」
冷たい汗が背中を流れる、もし自分が妖怪とは関係ない生活をしており、目の前にいきなり妖怪が現れたらどうするかと・・・間違えなく敵だと認識して排除しようとするだろう。
「因みじゃが、魔力と妖力は根元が同じじゃから、通常の人間なら問題なく騙せるじゃろうが陰陽師やその血縁関係にある者には気を付けるのじゃ、奴等の目は妖力を見切れる故誤魔化せん・・・昔は話の通じる奴らじゃったが、今はもう頭が凝り固まって妖怪と聞いたら即排除しようとするからの」
じぃちゃんはそう言うと少し残念そうに天井を見上げだが、しかしすぐに表情を戻し仮面を付けるよう催促してきた。
「・・ん?・・えぇ!?」
仮面を付けてみると初めて付けたと言うのが信じられないと言うくらいフィットした。しかし驚いたのはそこではなかった、
仮面を付けた途端元々着ていた衣服では無くなり、絹の様に滑らかな美しい白の衣装に変わっていた。何と表現をすれば良いのだろう、真っ白の袴だと言えば分かりやすいだろうか、
「巫覡、まぁ巫女の男版ってところじゃ、仮面を付けると服は男性の巫装束に変わり、それは幾ら汚れたとしても仮面をはめ直すと元に戻る洗濯要らずの優れものじゃ、後・・「あっ声が・・!」」
じぃちゃんの説明途中に美月が驚きに声をあげる。
「そぉじゃ、この仮面を付けると声も変わり老若男女の誰にも取れる不思議な声に変わるのじゃ」
「これで話は終わりじゃ、美月、豪網外に行ってくれるか?」
説明が全て終わったのか、じいちゃんは立ち上がり、美月と豪網にそう告げた。そして二人が外に出て姿が見えなくなった所で、彰に立つよう促した。
「さて、じゃぁボン久々に手合わせでもするかの、じゃがその前に、天照を契約しときなさい。」
この世には、人類が誕生がしてからの歴史の内の中に通常人には知られていない様々な摩訶不思議な事が存在する。
例えば、我が家で言うと平安時代以前から妖怪は『アヤカシ』という名前で人間にバレぬよう存在し続けたり、龍、河童、ツチノコ、鬼、もその内の一つである。
これらの様々な書物や伝承があるのは、存在していないからなのではなく、存在しているが、存在してないように見せかけているのだ。
これは日本だけではなく、世界中の様々な国でも言える事である。
その内の一つに『契約』と言うものがある。
契約にも様々な種類があるのだが、今から行おうとしている契約とは、自分の所持品に自分の痕跡、つまり魔力を通しておく事により、遠く離れたところからその所持品を呼び寄せる事が出来る、まぁ所謂『口寄せ』という奴を行う為の契約と判断してくれれば構わない。
彰は自分の指の皮膚を歯で食い破る、親指に微かに血が滲むソレを白雪の仮面にそっと塗る、すると白い雪に一輪の赤い花が咲くように仮面に色が付いたと思うと、仮面は一瞬淡く光り何事も無かったかのように元の白雪色の仮面に戻った。
「よし、契約終わったなじゃぁ少し手合わせをするぞい」
そう言うとじぃちゃんは懐から一本の扇子を取り出した。
「げっ!?蜻蛉使うの!!??前やった時は素手だったのに・・・」
「高校入るんじゃろ、ボンもアレ、使いなさい」
懐から出した藍染されている扇子を広げているじいちゃんの前で、彰は中学生の時に初めて契約した一本の刀を召喚した。
「来い、草薙剣」
何も持っていなかったはずの右手に光の粒が集まったかと思うと、いつの間にか一振りの日本刀が握られていた。白銀の美しい刀身を持っているソレは龍の牙を想像させ、異様な雰囲気を放っていた。
彰は刀の切っ先をじぃちゃんに向け右肩に担ぐように刀を構えた瞬間、薄暗い部屋が真っ赤に包まれた。いや包まれたのではなく炎の塊をじぃちゃんが放ったのだ。
転がるように炎の塊を避けるとそのまま凄まじいスピードで壁に当たり凄まじい衝撃波と轟音を奏でて消滅した。
背中に冷たい汗が流れる。今までなんどもじぃちゃんにと手合わせはした事はある。しかしいつもじぃちゃんは素手で戦っており、度を過ぎた攻撃をした事は無かった。
しかし、今回は違う。今の火の玉を直に食らっていれば恐らく身体中の血は沸騰し、一瞬の内に死んでいただろう。
「のぉボンよなんじゃ?その無様な姿は?舐めてんのか?」
転がった状態のまま放心していた彰の元にじぃちゃんは一瞬で距離を詰めると老人とは思えない蹴りを放つ、体がくの字に曲がり胃の中の何かが逆流して来るのを必死に堪え続けてると、
じぃちゃんは彰の頭を掴み、小石を投げるかのように軽く、本当に軽く投げた。
ブォンという音と共に壁に向かい飛んで行った彰はそのまま壁に叩きつけられた。
意識が飛びそうなになるのを必死に堪える。
「ボンよなぜ能力を使わん?死ぬぞこのままじゃ?それともなんじゃ力抜きでワシに勝てるとでも思っとんのか?」
「・・グ、アッ・・グ」
壁に叩きつけられた俺をじぃちゃんは頭を掴み持ち上げる。そしてそのまま頭を地面に叩きつけようとした瞬間・・確かに掴んんでいたはずの手から頭が無くなった。
「・・・ほぉやっとかい、ボンよ」
そう嬉しそうに見つめる先には立ち上がり四本の銀色の尾を生やし刀を構えてる彰が立っていた。