第四話 いきなりピンチ!
宝石の様に散りばむ星空の下に、彰と、美月と豪網はいた。
因みに夏蓮は、あの後何故か満足げに尻尾をフリフリと揺らしながら自分の部屋に戻って行った。
今彰の目の前には、頑丈そうな木を基調とした、高さ6メートル程の木造建築があった。
そして、右のほうの木の看板には筆文字で『月島家鍛錬場』と書かれている。
「はぁ、入りたくない・・・」
ーー月島家鍛錬場ーー
妖術を駆使する妖怪達の修行は、爆発や凍結など日常茶飯事である。
なので人間の鍛錬場と同じ様に建ててしまうと、被害が凄いことになってしまうのだ。
よって、妖怪の鍛錬場は、幾ら暴れても大丈夫な様周囲に何もない月島家の中でも端の方に建てられているのだ。
しかし幾ら妖怪用に作ったとはいえ、素のままで戦うと大変な事になるので、建物の周りにはじいちゃんが結界を張って、建物や周囲に被害が出ないようにしている。
道場を一通り眺めていた彰は引き戸に手を掛けると横にスライドして開け、中に入った。
50畳程の畳が敷き詰められたその部屋には、所々に大小様々な傷や血痕が付着しており鍛錬場内の灯りがそれを生々しく映し出していた。
「おー、来たか、来たか、三人ともほれ儂の前に座れ」
ゆったりとした青藍の着物を身に纏い、白髪白髭を生やし歳を重ねている様に見えるものの、眼は鋭く歴戦の強者のオーラを醸し出している老人が声を掛けてきた。
この人が彰の父総司の実親であり初代月島家当主である月島重蔵だ。
重蔵は彰の師匠でもあり、数少ない父さんを圧倒する化け物であり、そして八本の尾を持つ妖狐だ。
ここで、我が月島家の妖狐について話しておこう。
月島家は妖狐の家系であり、父は六本の尾を持ち、じいちゃんは八本の尾を持ち、夏蓮は三本の尾を持ち、そして彰は四本の尾を持っている。
妖狐の尾には一本一本に強力な能力が宿っている。
しかし能力自体は運で決まるのだ。
例えるとガチャガチャをすると当たりが出たり、ハズレが出たりとするのと同じなのである。
因みに通常の妖怪は、それぞれの属性が固定されていて、それを駆使して戦うのである。
例えば美月だと、氷の属性を操り、豪網は、火の属性を扱う事が出来る。
無論それらの属性を我ら妖狐が使えないというわけではない。
しかし、生まれる前から属性が決まっている通常の妖怪と違い、生まれて成長してそして運で持つ能力が決まる妖狐は妖怪の中では特別であった。
しかし妖狐は、通常一つしか持てない属性や能力とやらを尾の数だけ持てるという分、希少な能力に目覚めれば最強の種族だとも言える。
因みに今前に座っているじいちゃんは正真正銘本物の化け物であり、もう勝てる気が全くしない・・・。
「おーい、いつまでそこに立っているんじゃ?早よ座らんか」
どうも彰は鍛錬場の玄関で一人ぶつぶつ呟いていた様で、美月と、豪網が若干引いた目で見ていた。
「・・・あ、う、うん」
そうして彰達がじいちゃんの前に座ると彰を呼んだ話を始めた。
「そろそろ、高校生になるお主らに、話さなければならない事があって今日は呼んだんじゃ」
(((話さなければならない事??)))
三人共口には出さないが何の事だ?と言う様に首を傾げていると、それに気付いたのか、続きを話し出した。
「まず最初に、主らが受ける学校の事なんじゃが、単刀直入に言うとじゃな・・・お主らに能力は使えん」
「「「・・・は?」」」
突然の思いもよらない発言に言葉が出てこない三人。
前も話したが魔法育成高校とは能力を、開発、育成する学校なのである。
一時代前の時には、魔法を使えるのは選ばれた人のみと言う考え方だったのだ。
しかし現在では、魔法は強弱の差はあれど全ての者が魔法を使用できると認識されている。
魔法育成高校とは、入学試験の時点で魔法を使用できる人と魔法をまだ使用出来ない人に別れている。
これもひと昔前までは、魔法育成高校に入学する資格のある者は魔法を既に使用出来る者に限ると、決められていたのだった。
だが、魔法が使用出来なくても学校内のカリキュラムで魔法を開発すればいい為、魔法使い魔法使いじゃないに問わず入学を受け入れる様になったのだ。
その為魔法を使用出来ない彰達は入学してから、魔法開発カリキュラムを受け入れようと思っていたのだが・・・
「あーー言いたい事は分かるのじゃが、ちと待ってくれ」
思わず理由を問いただそうとしたところでじいちゃんからのストップが入り喉まで出かかっていた言葉を飲み込む。
「まぁ、ではまず、何故魔法を主らが使えないかを説明するとしよう」
そう言うとじいちゃんは咳を一つしてから話し出した。
「遥か昔、平安時代から儂ら妖怪達は存在していた。もともと妖怪は、悪しきもので名の通り妖力を駆使して数々の人々に迷惑をかけたものじゃ、
しかしそれに危機感を覚えた人間達は、陰陽師と言う妖怪や物の怪、人々に害を加えるものを祓う者を誕生させた。
彼らは妖術に対抗する為妖力とは真逆の存在の霊力を操り、ある一定の時までは争い続けた」
「ある一定??」
能力を使用出来ない理由を聞きたいとは思っていた。
しかし、平安時代まで遡り妖怪の歴史を話されるとは思ってなく困惑していたが気になる単語を話の中に見つけた。
「そうじゃ、妖怪は全てが悪しき者と言うわけではない。
中には良心を持ち、悪しき妖怪を快く思わぬ妖怪もいたのじゃ。
そして、ある時良心を持つ妖怪の頭領と陰陽師の頭領が、悪しき妖怪を滅する為の契りを交わしたのじゃ。
その契りは、長くの間守られてきていたが、それでも陰陽師の頭領が死に、妖怪の頭領をも死ぬと少しずつその契りも薄れていったのじゃ。
そして完全に契りを放棄したのが・・・」
「20年前の魔法使い誕生と、魔物の誕生だね?」
なんとなく予想がつき、じいちゃんの続きを話すと嫌そうな顔で頷きそして続きを話し出した。
「魔物か・・。本当は悪しき妖怪とか物の怪って読んで欲しいのじゃが・・。まぁそれは良いとして、魔法使い誕生は、その契りとはあまり関係無いのじゃが、妖怪や、物の怪が何故か能力者と共に大量発生し、そして元が悪のこの者達は暴れ回った。その為人は妖怪を滅する敵だと認識し、今は数少ない陰陽師も、悪しきもの や良心ある者に問わず妖怪を払おうとしておるのじゃ」
「陰陽師と妖怪の成り立ちと今の現状は分かったけど何でそれが俺らが魔法を使えない事に繋がるの?」
話が合ってないと怪訝そうな顔をする彰の顔に手をかざし、じいちゃんは話を続けた。
「少し話をずらして話したのは、まず主らに陰陽師の存在を知ってもらう事。そして陰陽師の話をしないと今から言う話を理解出来ないからと思ったからじゃ」
そこで一呼吸おき、じいちゃんは最後の言葉を発した。
「妖怪は妖力、陰陽師は霊力、魔法は魔力これはもう決まっておることなのじゃ。妖怪は霊力を使えないし、陰陽師が妖力を使う事も出来ない。霊力を身に付けた人間が魔力を扱う事も出来ない。故に一人で二つの能力を使える事は絶対に無い。水と油は共存出来ないとかそう言う意味じゃ。お主らは今現在妖力を使っているから、もう新しい能力に目覚める事は無いのじゃ」
「・・・んな、アホな」
魔法育成高校は、その名の通り、魔法で成績の良し悪しが殆ど決まるも言っても良い。
それを魔法開発の可能性があるならまだしも、全く無いとなると・・・
「じゃ、じゃぁ、入学するとしたら俺達三人は、三年間も魔法が使えない事を誤魔化さないといけないの?」
「そう言う事じゃ、まぁ、三人ではなくボンだけだがの」
どうでも良いがじいちゃんは彰の事を何故かボンと呼ぶ、本当に謎だが。
「魔法は、根元は妖力や霊力と殆ど変わらん。豪網は火を使えるし、美月は氷を使える。つまりボンだけじゃ」
思わず後ろを振り返ってみると、申し訳なさそうな顔をした二人と目が合った。