第三話 犯人は・・・!!
父のいた大広間から追い出された彰と豪網と美月は、長い長い廊下を歩いていた。
「大丈夫っすよ!彰様なら二時試験も三時試験も四時試験も勝てる!勝てますよ!」
「・・・豪網、お前絶対に何故俺がこんなに凹んでいるのか聞いてなかっただろ、後試験そんな長く無いし、明日の試験で終わりだし、最後に誰に勝つんだよ、この脳筋・・・」
もう、色々な意味で疲れ切った彰はトンチンカンな事を言いだしている豪網に力無く返した。
「そう言えば総司様が最後に仰っておられた事はどう言う事なのでしょうかね?」
「んー、何だろうね、ただ、向かっている今の時点で、もうすでに家に帰りたいんだけど・・はぁ、そう言えばここが我が家だった。」
今、彰たちは、父が最後に言っていた、『あっ、そう言えば、親父が彰の事よんでたぞ』っと言っていたのを思い出し、じいちゃんの所に向かっていた。
「鍛錬場で待ってるってもうやる事が決まってるでしょ」
溜息を吐き先程と全く風景が変わらない左に縁側が見える長い廊下を歩いていると、
「あっ、お兄ちゃん!!」
「ん?・・おっ、夏蓮」
風呂上がりなのだろうか、多少湿っている髪と父親そっくりの、真珠のような白銀の耳と尻尾をした夏蓮が彰を見かけ寄って来た。
父親と違うと言えば尻尾が六本では無く三本なところだ。
「お兄ちゃん、帰って来てたんだね!あっ、そう言えばお兄ちゃん明日紅暁魔法高校の、二次試験何だよね!受かったら私と同じ高校だよ!」
そう、夏蓮は現在日本紅暁魔法中学校の三年生なのだ。
整った顔立ちをしており、彰や母のような黒髪とは違い父親似の黄金色のセミショートの髪を首筋の辺りでクルンッとしている髪はとても可愛らしく、更に優秀で周りの皆に優しい夏蓮は学校でとても人気・・・・んんんん????
「だから、・・学校受かったら一緒に登校しようね」
顔を少々赤らめ二本の尻尾の先を合わせる様な仕草をしている夏蓮だが、今の彰には夏蓮との会話に含まれていた聞き捨てならない単語に意識がいっており夏蓮の声は全く届いてなかった。
「ちょ、ちょ、ちょ、か、か、夏蓮、さっきの言葉もう一回だけ言ってくれる?」
彰の精神状態は普通では無く、聞き間違いであってほしいと、夏蓮の手を両手で挟み込みながらもう一回問いかけた。
「ふ、ふえぇっ!えっ、えーと、お兄ちゃん明日の日本国立紅暁魔法高校の試験頑張ってねって・・・」
何故顔を赤くしながら答えたのかは分からんが、気になっていた単語が聞き間違えでは無い事に気付いた彰はさらなる問いかけをしようとした所で・・・・、
ピロリン
ポケットにしまっていたスマホからメールが来たことに気づき、耳をピンと逆立て顔が赤い夏蓮から、手を離しメールを見てみた。
メールの送り主は新城茜からだった。
茜は彰と小学生の時から同じ学校の幼馴染で、容姿端麗、成績はいつも学年トップ、周りから慕われ、先生にも信頼されてると言う、所謂パーフェクトな優等生だ。
そして気になる、メールの中身には・・
『彰、明日紅暁魔法高校の、二時試験でしょ?、私も明日の二時試験受けるから駅の前で9時に待ってるから一緒に行くわよ』
・・・・と書かれていた。
「・・・はぁぁぁぁっっ?!?!?!?!」
予想外すぎるメールに思わず叫んでしまう彰。
(まっ、まっ、まさか、母さんが話した??いやでも、それは無いな、じゃぁ誰が・・・)
「ど、どうしたのお兄ちゃん」
急に叫んだ彰にビックリした夏蓮達に今来たメールを見せてみると・・
「・・・チッ」
舌打ちする美月
「・・・・」
渋い顔をする夏蓮。
「知り合いが、受験するなんて良かったじゃ無いすか!」
目をキラキラさせる豪網
「いや、そこじゃ無くて、何で茜ちゃんや夏蓮まで俺が紅暁魔法高校受ける事知ってるのよ・・!?!?」
渋い顔をしている夏蓮に聞いてみると予想外すぎる返事が返ってきた。
「えっ?私だけじゃ無いよ?みんなお兄ちゃんが、紅暁魔法高校受けるって話してたよ?」
「・・・はい?、みんなって誰が・・・?」
背中に冷たい汗が流れてくる。
「そのまんまの意味だよ、お兄ちゃん、家中の妖怪達がみんな話してたよ?」
「い、い、家中だと!?!?、い、一体いつから?」
「え?いつだったかな?えーと・・2年前くらいだったと思うよ!」
「に、2年前だと・・・はぁぁぁぁーっ!?」
(2年前って母さんに話した時からじゃ無いかよ???!!!)
んな、アホなと、口をダランと重力のままに下げポカンとしていると、後ろに座っていた二人からも衝撃発言が飛んで来た。
「逆に俺らからすると知ってないのが意外でしたよ」
「そうですよ、そこら中の妖怪達が噂していて、普通に屋敷を歩いていても耳に入るレベルでしたよ?」
「う、嘘だろ?」
彰は中学一年生の最後辺りに、母だけに秘密に紅暁魔法高校を受ける事を話したのだ。
一次試験を終えた、最近知ったのならまだ分かるが、二年前となるともう何ていうか、言葉すら出て来ない・・・。
(母さんがみんなに話した??・・いや、それは無いな、なら一体誰が・・・この事を知ってるのは俺と、母さんと、・・・あっ!!)
「・・・ま、ま、まさか」
「どうされました?彰様?」
暫く黙り込んでいたからか、美月が心配そうに声をかけて来たが、俺は今思い付いた一つの仮説を試すために縁側の窓を開けた。
「・・報寺、いる?」
暗い夜の縁側見渡す限りの漆黒で、誰もいない闇に、突如誰かが姿をあらわす。
「は!ここに」
彰の目の前に膝をつく、闇に溶け込むような黒色の髪と、瞳をしているこの男は、我が月島家の隠密諜報の頭で、この町の事は殆ど知っており、更に情報も多々集めてくる。
因みに何の妖怪なのかは知らない。我が家には相当な妖怪がおり、誰が何の妖怪なのか何てぶっちゃけ把握してないのだ。
彰がなぜ報寺を呼んだのかというと、隠密諜報の頭のこいつが、俺の試験のことを知らないはずがないからだ。
「報寺、俺の高校のことは勿論知っていたよね」
報寺は殆どの情報を知っているがそれを話すのは月島一家のみで、それ以外には絶対に口を割らない故信頼されていた。
「・・・はい」
蚊の鳴くような声で答える報寺・・。
「なんか、凄まじい勢いで内緒にしていた俺の高校の事が広まってるんだけど何か知らない・・?」
優しげに問いかける彰に報寺は、より一層頭を下げ・・、
「申し訳ありません!!彰様、彰様がその高校を目指していたのは知っていて、それを隠しておられるのは承知していたのですが、酒で酔っ払ってしまった時に、迂闊にも話してしまったらしいのですが、その時の記憶が無くて・・」
頭が地面にめり込むじゃないか?と思うくらい頭を下げている報寺に、彰は最後の質問を告げた。
「・・・酒を飲んでいた相手は??」
何と無く大体の予想がついて来た。幾ら酒を飲んだからとはいえ、月島家筆頭の隠密諜報の報寺が周りにペラペラ回りに話すとは思えない。
・・・となると必然的に、
「はい、総司様でございます」
プチンッと何かが切れる音がした。
「ふふふふふふふ、はっはっはっー!!」
突如笑い出した彰に驚き、報寺は顔を上げる。
(あんっっっっのクソ親父!!!何が二代目当主の情報網だ!!!ただ報寺に、記憶をなくす程酒を飲ませて、聞いただけじゃねぇか!!!くそっ!!そっちがその気ならこっちだって・・!!)
「報寺、ちょっと頼みたい事があるんだけど」
「・・頼み?ですか?」
頼みと聞いて、姿勢を正している報寺に向かい俺はこう言った。
「そう、母さんに、父さんの部屋の一番右端の畳開けてみてって伝えて!」
「神楽様にですか?」
頭にクエスチョンマークが出ている報寺に、彰は頼むと言うと、報寺は頭を下げ「承知」と言い、闇に溶け込んでいった。
「畳って、どういう事、お兄ちゃん?」
最初から最後まで話を聞いていても彰が報寺に頼んだ事の意味が夏蓮にはわからなかったらしい。
「今夜は騒がしいって事だよ」
と彰は夏蓮の頭を撫でながらそう言いうと、じいちゃんが、待つ鍛錬場に向かって再度廊下を歩き始めるのだった。