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白狐物語  作者: 山上龍介
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第十二話 黒い影




「彰様後何駅っすか?」



「急行だからな、後二駅だよ」



彰の右隣に座り、外をボーと眺めていた剛毛からため息が聞こえる。



まぁ分からなくもない。



何故なら、紅暁魔法学校は東京駅のすぐ近くにあると言うの訳ではないからだ。



東京駅に着くと、今度は学校専用のバスに乗り、東京駅からお台場まで運ばれる。



そして、そこから紅暁魔法学校行き直通専用列車に乗り東京湾の真ん中まで運ばれる。



つまり、紅暁魔法学校とは東京湾海上に存在する魔法学校なのである。



何故こんな事になってしまったのかと言うと、紅暁魔法学校は、その名の通り魔法を学び魔法を開発し、魔法使いを育成する学校である。



しかし、未だ誕生してから二十年たらずの新技術の為何が起こるのか分からない故に、もし何かがあっても被害を最小限に抑える為に隔離しているらしい。



そうして作られた海上学校は、海の上にも関わらず日本最大の埋め立て地であり、それは1062haと言う関西国際空港を圧倒的に抜き抜き10000haと言う凄まじい大きさである。




ん、分かりづらい?ならば君の家に10畳の部屋があったとしよう。


その部屋6060000個分と同じ広さだ。




とてつもない広さだと言う事が分かって頂けただろうか?



「彰様後何駅っすか?」



「もう着いたよ」





いつの間にか東京駅に着いたアナウンスが車内に流れ、彰達は電車から降りた。





「え〜と、とりあえずバスの停留所に向かわないとな」




「何度来ても思いますけど東京駅ってグチャグチャしていて分かり辛いですね・・」



「・・そうね」




美月と茜は容姿が目立つので、歩く人が皆振り返る為人が多いこう言う場所は居心地が良くないのだろう顔を少し俯きながら歩いている。




「東京って世界一人口が多いらしいからな・・・。まぁ我慢するしか無いだろう」




人混みに揉まれながら着いたバスターミナルは、行き先により何本も別れており悪戦苦闘したが、なんとか時間通りのバスに乗る事が出来た。




バスの中は電車の中とは違い目的地が絞られている為か冬休みの為か、あまり混んではいなかった。




20分程バスに揺られていると、迷路の様な形をし、何を考えたのか真ん中に球体がくっついている某テレビ局のビルが見え、お台場に着いたアナウンスがバスの中に響く。




「んーー、やっとここまで着いたわね!」



「まぁやっとここまで着いたって感じもあるけど、ここからが一番時間掛かるよ・・」



バスから降りた茜が体を伸ばし、大きく深呼吸をする。


「うっわ・・すげ」



バス停から降りた彰達は、二十年前まで船の博物館だったと言われる場所まで歩くと、白い巨大な建物が見えて来た。





それは最早駅ではなくビルと言う方が適切な形をしており普通の駅の様に目の前に改札口など無く、見えるのは巨大なビルの真ん中にポッカリと口を開けている四角い門だけだった。



まるでパリのエトワール凱旋門を現代版の技術でで作り変えた様な形だ。



そしてこの駅は、船、航空機を除き唯一陸路で行き来できる道の為に荷台に荷物を乗せた輸送車や、トラックなどが駅の門の前にズラッと並んでいる。


その中に普通車が全く見えないのは、紅暁学園が一部の期間を除きスパイ、テロリストなどの対策の為一般人の公開を禁じられているからであった。



しかし、いくら魔法学校とは言えど全ての物を自給自足などできる筈も無い。




なので、必要な物は外部から取り入れる様にしているのだが、確実に不審物を持ち込ませない為なのか、一車線しか検問をする門がなく、車の列が伸びる一方で全く処理しきれている気がしない。



しかもタチの悪い事に、検問の時間が9時から5時までしかやってないため、処理しきれなかった車は明日に繰越になってしまう。



そして、そうなってしまった時のホテルや設備などを詰め込んだ結果この様な大きさになってしまったらしい。



「えーと地図によると・・あそこですね!」



しかし今回彰達が用があるのは門では無く駅なので美月が指を指した先にある、車とは別の入り口の扉まで向かった。




正面に車は門が付いているのに対し、ビルの側面は左側がホテルなどの入り口で右側が駅の入り口となっているらしい。



なので右側の側面の方から彰達はビルの中に入ると、そこには空港で身体検査に使う様な黒いボックス型のゲートが横一面にズラッと並んでおり、ぞろぞろと人が並んでいた。



「おはようございます。紅暁魔法学園受験生の方ですか?」




「あっ!はい、そうです」




「でしたら此方に並んでいただき自立型自動身体検査機にてチェックをし終えた後、目の前のエレベーターを使い上階へ上がりリニアモーターカーにご乗車ください」



受験者への説明を任されているのだろうか、黒いスーツを着こなした男性が営業スマイルを浮かべ入り口にいた彰達に慣れた口調で話し掛けてきた。




「・・・まさか試験を受ける為にここまで苦労するとは思わなかったすね」




「なんでも国内にある学校の中では最高峰のセキュリティーシステムらしいわよ・・。って言うかこれを超えるセキュリティーと言うものを私は見たく無いけどね・・」




全員バラバラに別れ一人ずつゲートに並んだ方が早いのだろうが、彰達は固まったまま一番空いていた端のゲートに並ぶ。



「こっちのゲートの進みはかなり早いんですね」



「今は学校が冬休みで休校になっているからここまで空いてるけど、入学式になると、このゲートに一斉に人が押し寄せて来るからね。学生を待たせる訳には行かないし、外よりむしろこっちに力を入れてるんじゃ無いかな?」



「・・入学式行くのが嫌になってきましたわ」



何故かもう既に受かった気でいる美月に曖昧な返事をすると、列は豪網までもう進んでいた。



「受験票を提示して下さい」


「これっすか?」


「それです・・はい。有難うございますそのままゲートを潜り抜けてください」



どうやらゲートを潜る前に、一時試験を合格した時に郵送された受験票を見せるらしく豪網の受験票を受け取った男は受験票を確認するとゲートを潜る様に指示していた。



そうして無事に全員がゲートを潜り抜けるとそこから一番近かったエレベータの前に並ぶ。




暫くすると、チンという軽い音の後にエレベータの扉が開き、並んでいた人達と彰達がその中へ入ると扉は閉まり、静かに上へと上がっていく。




「彰様、車内では隣に座りましょう!」



「えっ?・・別に良いけど「言い訳無いでしょこのバカ!」」



エレベータの中で小声で話しかけてくる美月に対し茜が小声ながらも怒気を含んだ声で美月に声を発した。



「あらっ?どうしてダメなのですか?」


「試験前なのにそんなにはしたないことしてんじゃ無いわよ!ちょっとは緊張感をもちなさい!」


「じゃぁ貴方が隣に座りますか?」



「・・・え?」


急に顔を赤らめもじもじし始めた茜に美月のこめかみがピクピクと動き何か言葉をを発しようとした瞬間ポーンという音ともにエレベーターは止まり扉が開いた。





「さ、さ、さぶ」


扉が開き急に入り込んできた冷たい冷気に思わず身を竦めた彰が辺りを見回すとそこは神殿の中の様な駅になっていた。



大きな柱が何本も辺りに並んでおり、天井を支えている様な仕組みになっている為壁の無い外から冷たい風が流れて来ているのだ。



流石に、落下防止の手すりはあったが・・



【間も無く発車致しますので、エレベーターから降りた受験生の方々は、順に当車にご搭乗下さい。尚座席の方は自由席となっております】



そう何処かしらに付いているのであろうスピーカーから流れる声を聞くと、エレベーターに乗っていた受験生は徐々に目の前に止まっている、新幹線をもっと薄っぺらくした様なリニアモーターカーに乗り込んでいった。



「席は乗ってから決めるとして取り敢えず乗っちゃいましょうか」


「そうね」


「そうだな」


「そうだね」


茜、豪網、彰と三者三様に返事をして、リニアモーターカーの中に乗車していく後ろ姿を見ていた彰はふと背中に嫌な気配を感じた。



(なんだこれは?・・殺気?何処から??)



人間状態のままだと能力が完全に封じられている彰は日頃から負の気配には敏感に反応する様に修行していたのだ。




その為か先にリニアモーターカーに搭乗した、三人は全く気づいている様子がない。



(何処から?・・・後ろか!!)



そう思い彰は後ろを振り向くとビルから離れた雑木林みたいな所で四〜五人の黒い服を着た人間が誰かを取り囲んでいた。



(なんだ?喧嘩か?・・・ッッ!?)




普通の人間なら見えなかっただろうが半妖である彰は黒服が手に持つ物が見えてしまい思わず息を飲んだ。



(拳銃!!??)



「彰様?どうかしたんすか?」



何時までも車内に入らず、落下防止の手すりの向こうを眺めている彰を不思議に思ったのか豪網が声を掛けてきた。



「・・・豪網わるい。後で行くから先に行っててくれ」



「は?」


ポカンとしている豪網の背中を強引に車内に押し込むと同時に、まるで計った様にリニアモーターカーの扉が閉まり彰と豪網の間に一枚の壁が生まれた。



そして、音もなく動き出したリニアモーターカーに彰は目を向けず落下防止の手すりに手を掛けるとそこから勢いよく飛び降りた。


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