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白狐物語  作者: 山上龍介
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第十話 騒がしい者たち



走り去っていた美月を見送った彰は、取り敢えず当初の予定通り、風呂に入る為にお風呂場に向かった。


「・・・ふぅ」


風呂場着くと、身体に張り付いている湿布や絆創膏、包帯を剥がし身体をシャワーで流す。



丁度良い温度の水が肌を撫でる様に流れて行く。


そこで、流し場に付いている鏡をふと眺めると、昨日の傷は既に粗方綺麗に治っていた。



これも妖怪ならではの治癒能力なのである。



人間の身体より格が高い妖怪の肉体は多少の事の傷ならばすぐに治ってしまう。



勿論これは治癒能力だけに限らず、身体能力に着いてもそうであり、妖怪の個体差はあれど、どの個体も人間よりは身体能力が高い。



もし妖怪が隠れてオリンピックなどに出たら全ての競技の記録を打ち破り金メダルを獲得するだろう。



流し場の棚に置いてある一本の500円くらいのごく普通のシャンプーで頭を流し、身体を清めると、浴槽に入る為の引き戸を開ける。



「・・・さ、寒、寒」


扉を開けるとシャワーにより火照った身体を冷やす様に冬場の乾燥した冷たい風が身体を突き抜ける。



扉から大股で五歩くらい歩くとバスケットボールのコートくらいある大きな温泉があった。


温泉はバスケットボールぐらいのコートの周りをぐるっと丸い岩で囲まれており、中はミルクの様な白い湯で満たされていた。




「・・・ふぅ〜〜」


白い湯に肩まで浸かり、疲れを取りつつ彰は辺りを見渡す。



一人で入るにはあまりにも広すぎる温泉の前つまり引き戸がある反対の方向には大量の木々が絶妙な具合に並んでいた。


薄紅色の花が視界一杯に広がる光景はまるで花のカーテンの様だった。


風が吹くたびに木々が揺れ甘酸っぱい花の匂いが温泉に浸かる彰の元まで漂う。




ここは月島家の大浴場〈春夏秋冬之湯〉と言う。



恐らく無駄に広い敷地の中で最もよく作られている場所であり、彰が家で最も気に入っている場所でもあった。




この温泉はその名の通り季節ごとによって違う木々が咲き、自然のカーテンを作り出すのだ。


春は桜、夏にはしだれ柳、秋には紅葉、そして冬には梅が咲く。


つまり今は冬の為梅の花が咲き乱れていた。



少し熱めの湯の為かのぼせてきた彰は湯から上がり、もう一度シャワーを浴びた後、事前に用意していた服に着替えた。



灰色のフード付きのパーカーを上に来て、下にジーパンを履いた彰は壁に立て掛けられている時計を見ると時計は現在7時40分を示していた。



「7時40分か。茜ちゃんと9時に駅で待ち合わせしてるからな〜。・・取り敢えず朝ごはん食べに行くか」





今日は2月10日、一次試験の筆記テストを合格した者のみが受験資格を得る日本国立魔法学校の二時試験の試験日である。



彰は昨日の夜、自らの幼馴染である新城茜からメールが届き9時に駅前で待ち合わせする事になっていた。



因みに試験の開始は11時30分であり、そこから午前、午後の部の試験を受け夕方の5時から6時ぐらいに試験は終了する。



彰は着替えが終わると、朝ご飯を食べに向かった。



「・・・おは「てめぇ何神楽様の飯残そうとしてんじゃぁ!!」


とある広間の前に立ち引き戸を開けたと同時に怒声が飛んで来た。


ここは、月島家にとっての食堂の様な場所である。



100畳程あるだろう長方形のフローリングの部屋には、二本の線の様に沢山の小さな膳が並んでおりその数は二本合わせて大体100程あり、畳の上には座布団が敷かれていた。



イメージとしては、老舗の旅館の畳の部屋で食事をする事をイメージして貰えると分かりやすい。



禅の上には、白いご飯と、こんがり焼いた紅鮭、そして鮮やかな色をした沢庵と、湯呑みわ、小さくした様な容器には納豆が入っていた。



彰は自身の朝食を食べる為席に向かおうとするが、「見ろよこれ!」「うぉ!真水酒じゃん!どうしたんだよそれ!俺にも少しくれよ!」

「・・昨日の悲鳴聞いたか?」「おう、ありゃ総司様の声だったよな。甚平の話によると神楽様がやったらしいぞ」「まじか!!あんな可愛い顔して恐ろしいな・・」「座敷童子!今日暇か?パチンコいかねぇか?」「ぼ、僕パチンコなんてやった事ないよ」「いんだよ、お前いりゃ玉がゴロゴロ出てくるからよ!」



無論彰一人で100食も食べる訳が無いので他にも屋敷に住んでいる妖怪達が居るのだが・・・



まぁいつもの事なのだが、とにかく朝っぱらうるさい。



大声で騒ぎ立てる者、走り回る者、下座の方を見てみれば平日の朝っぱらから酒を揉み交わしている妖怪もいる。



彰はそんな妖怪達の間を時に耳を塞ぎ時に避け、自分がいつも食事をしている上座に近い席に腰を下ろした。


「三代目、おはようございます」



席に座ると左のほうから声が聞こえそちらに顔を向けると、黒のスーツをビシッと着こなし、赤のネクタイを締めている、まるでSPの様な格好をした20〜30代ぐらいの男がいた。




「・・おはよう牛鬼、後俺は三代目じゃないから」



「そうでしたな、これは失礼しました」



モデルの様なスタイルをしており、金髪の髪をオールバックにして流しながら軽く微笑みを浮かべているこの男、牛鬼は二代目妖怪頭の父、月島総司の護衛をしている。



恐らく月島家の妖怪の中でトップ10に入るぐらいの強さを誇り、美形で、礼儀正しく、賢い牛鬼は、まさに絵に書いた様な完璧人間・・もとい完璧妖怪だった。


「そう言えば彰様、怪我をしておられますね?いかがなされました?」


「・・・包帯とか湿布見えない様にしていたつもりなんだけど」


「いつもの彰様と比べ体の動かし方が僅かに違います、感じる少し妖力も禍々しい、アレを使用したのですか?」


包帯や湿布を見抜かれたのは、牛鬼だと思えばまだ分かる。



しかし〈妖壺十門〉を解放した事まで気がつくとは思っていなかった彰は思わず黙ってしまう。


「・・豪網の馬鹿は、主人の御身を守れなかった様だ、もう一度一から鍛え直す必要がありそうですね」


牛鬼は、整った眉を微かに崩し溜息を吐く。



その様子を見ていたのか、微かに顔を赤らめ下を向いている美月の隣に座る剛毛が、ちぎれるんじゃ無いかと言うくらい首を横に振っていた。



「違うんだよ牛鬼、昨日じぃちゃんに呼ばれてね、稽古をつけて貰ったんだよ。ご覧の通りボコボコにされたんだけどね」



「そうでしたか、・・・稽古?ですか?」


(敵本拠地に行く前日に、わざわざアレを使わせてまで稽古だと?初代は何を考えておられるのだ?彰様はアレを使わなくても三倍までは短時間だが出せた筈だし、美月や豪網も護衛に付いている。・・・まさか、魔法サイドには、アレを使わなければならない程の者がいると言う事か?これは少し調べてみるか・・)


「・・えっ?ぎ、牛鬼?」


急に指を顎に当て難しい顔をしている牛鬼の顔を見て、彰は戸惑い豪網は恐怖に顔を真っ青にしていた。



よほど、牛鬼に稽古をつけて貰う事が怖いのだろう。



「ん?・・あっ、いえ、すみません。少し考え事をしていました。しかし主人である彰様が稽古をしていたならば、やはり豪網にも稽古をつけましょう。主人に護ってもらう護衛など聞いた事がありませんからね」



牛鬼がにこやかにそう告げた瞬間、ドスンと何かが倒れる音がし、皆が喋るのをやめ音がした方に注目すると、



顔を真っ青にした、豪網がお膳に顔を突っ伏し動かなくなっていた・・・。

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