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3匹目 懐かしい出会い



よし。


「リュオンとも打ち解けた(?)訳だし、これからは安心してニートができる!」


「何言ってるのかな?とりあえず明日から家事は当番制だよ。というか君は今は世間一般でいう居候の身分だからね」


出鼻を挫かれた。

しかし言われていることは正論である。


そういうわけで、ニート生活から抜け出した凜音はリュオンの家で家事をしながらのんべんだらりと過ごすことになった。



***



「は、はわわわわ」


夕食の買い出しに来ていた凜音は、すっかり常連になった魚屋でらしくない声を上げるほど歓喜に震えていた。


そこには、一匹の魚がいた。


間違いない。あれは、サケ目サケ科サケ属の鮭だ。シロザケとかアキアジとか呼ばれたりするサケだ。Salmonだ。

あぁどうしようか。やっぱり刺身にしようか。でも鮭は恐ろしく汎用性の高い魚で鮭の塩焼きは旅館の朝食と言われ想像すると必ずと言っていいほどついてまわる。つまりそれだけ美味しいということだ。しかもそれを白米と一緒に食べるとお代わり3杯余裕である。バター焼きやホイル焼きなんかで洋風な味付けをしても美味しい。


何故ここまで凜音が興奮しているのか。

魚屋の常連なんだから魚を見るのは初めてじゃないだろう、との声、もっともである。

しかし、凜音は今までこの世界に来てから、前世と同じ魚を見つけることはあっても、鮭だけは見つけることが無かった。

凜音の勘が告げている、これは本物だと。


無言で立ち止まっている常連に、恐る恐る店主が声を掛けてきた。


「リ、リンネちゃん……?どうしたんだ?」


「私あの魚買います何が何でも買います絶対に買います」


凜音は鮭を指差しながら鮭んだ。――誤字だ、叫んだ。ノンブレスであった。店主である男は彼女が魚についてはいっとう詳しいことを知っている。人魚であるのに魚を美味しそうに見つめていることにも疑問を抱いているが、それは今は関係ない。

彼女に、これは聞いておかねばならなかった。


「リンネちゃんはその魚知ってんのか?」


「はい!!勿論ですとも!!」


「あー……実はその魚、誰も知らないらしくってな。俺も初めて見るもんってことで売り物じゃないんだが……」


その魚は凜音の魚特化型センサーによって見つけだされものの、店の奥―本来売り物ではない魚を置いておく場所―の水槽で泳いでいたのだ。

鮭を見つけた凜音はそれを気にするほど余裕が無く、今初めて気づいたようだ。


「え、そんな……お金なら払います!リュオンのだけど!!」


「やっぱそれリュオン様のなのか……いや、そうじゃなくて。あの魚、どんな魚か教えてくれれば無料(タダ)でやるぞ。残念ながらあの一匹しかいないが」


凜音はすらすらと鮭について洗いざらい知っていることを吐いた。その間、凜音は鮭をどう料理するかについて考えており何を話したかは覚えていないそうだ。


「……このぐらいですかね」


「おぉ、ありがとな!ほら、持ってけ。……あ、食べて毒に中っても知らんからな」


「大丈夫です、絶対!あ、また捕れたら絶対教えてくださいね!」


そう言い残し、鮭を戦利品のように掲げながら凜音は屋敷に帰っていった。



***



「鮭!!今日の夕飯は鮭だよ!!リュオン!!」


「うるさ……え、夕飯が酒?」


足早に屋敷に帰り、リュオンとそんな問答をして鮭について熱弁を振るい、凜音はキッチンに立てこもった。


さて、今回やっと出会えた鮭であるがその数は一匹。しかし鮭はわりと大きめの魚なので、この鮭もおそらく平均的な大きさではあるが体長は80cmくらいある。今日中に食べきるのは無理だろう。

前に肉屋に行った時(凜音は大体魚屋に行くが時折栄養バランスを考えて肉も食べることにしている)、ベーコンを見かけ、燻製ができることが発覚したので残った分はスモークサーモンにしよう。あれは保存がきくし何より美味しい。

あと刺身は絶対食べたい。何があっても食べる。

刺身があるけどリュオンは鮭は初めてのはずなので味付けは洋風のものにした方かいいだろう、じゃあ焼きものはホイル焼きとかバター焼きかな、スープもクリームシチューっぽくして鮭を入れよう、あとは……。


結局、次に鮭が手に入ったら石狩鍋を作ろうという結論に至ったので、鮭を捌き始める。

居候を初めてから屋敷で料理をするようになったので洋包丁で魚を捌くのにも慣れた。

まず鱗をとって腹を割り、内蔵を取り出して……あっ白子持ちだ。血合いをとって綺麗にして、残りの工程は、本格的なグルメ小説を目指していないのでカット。三枚おろしの出来上がりだ。


次は米を炊こう。洋食と言えども鮭に出会えたのだから、この喜びは白米と共に噛み締めなければ。ご飯は洋食にも合うすごい食べ物なのだ。


しかし、凜音は気がついた。



あれ……?この世界に来てから今までに、米見たことないような……



もしかしてこの世界に米は存在しないのだろうか。いやいやそんな訳がない。米は日本人のソウルフードだ。あるに違いない。


「リュ、リュオン……お米、米を……ください」


「コメ?」


凜音はリュオンの下へ行った。正直魔法という不思議パワーでなんとかしてくれないかなと思っていた。突然に部屋に押しかけてきた凜音に少し怪訝そうにしている。


「えぇっと、このくらいの小さい粒が採れる穀物なんだけど……」


近くの紙に凜音が絵を描いて必死に説明すると思い当たる節があったのか、あー、と声を上げて凜音を屋敷の地下へと案内した。


「昔知り合いが美味しいらしいって持ってきたんだけど調理法が分からなくて、ここに置いといたはずなんだけど」


何も言わずに地下に向かい出したので、何か逆鱗に触れて地下にある牢屋に入れられるのではないかという猟奇的な発想が頭をよぎったがそんなことはなかった。よかった。

地下は温度が低く、少し肌寒い。連れられた部屋の前のプレートには『食料庫』と書かれている。


重い扉をリュオンが開けると、そこでは左右の棚におそらく穀物が入っているのであろう袋が詰められていた。薄暗いものの食料があるためか綺麗そうだ。


「えぇ……確か、あった、これだ」


しばらくウロウロしていたリュオンだが米を見つけてくれたらしく袋を渡してくる。

中身は、米であった。似て非なる植物とかではない。凜音の勘では。

しかも精米までしてある。あったとしても玄米だろうと思っていた凜音は内心で狂喜乱舞している。


「そう、これ!これだよ!!ありがとうリュオン!!」


内心だけでなく言動も狂喜乱舞していたようで、それを聞いたリュオンは若干引く。

それに気づかないまま凜音は上機嫌で米を手にキッチンへ戻っていった。


「……今日の夕飯、どうなることやら」


一連の凜音を見て不安げにため息をつきながら呟くリュオンであった。



***



「とは言ったけど、やっぱりリンネは魚料理は上手いね」


食卓に並ぶ鮭を口に運びながらリュオンはそう言った。

白米に鮭のバター焼き、鮭のクリームスープ、鮭ときのこの炒めもの、鮭のグラタンが今日の夕飯の献立である。


ちなみに、凜音は料理がとても上手いというわけではない。前世では両親が職業上の都合で家にいない事が多かったので必然的に料理はできるようになっただけだ。

しかし、魚に関しては別で、凜音の魚に対する強い執念と、住んでいたのが海辺で魚が毎日のように手に入ったため、魚料理だけは上手いのである。

まぁ、そもそも前世いた世界とこちらの世界では食文化のレベルが違うので凜音でも料理は上手い方に入るのだが。


「……あ、聞いてなかった。何の話?寄生虫なら一旦凍らせたから大丈夫だと思うけど」


凜音は鮭に夢中でリュオンの言ったことを聞いていなかった。しょうがないじゃないか、久しぶりの鮭なんだから。


「いや、リンネは魚料理は上手いよね、と言っただけだよ」


リュオンは最初初めて見るピンク色の鮭の身に不安げだったものの、凜音が美味しそうに食べるのを見て恐る恐る口に入れると美味しかったらしく、普段より早めのスピードでカトラリーを動かしている。ちなみに凜音はカトラリーの扱いに自信がないので、木から削って自作したマイ箸を使っている。


「……よくそれで物が掴めるね」


箸を使う凜音を見て、リュオンがそれを言うのは何度目だろうか。


「慣れたらフォークとかより楽だよ?リュオンも使ってみなよ〜ほら貸したげる」


そう言って先ほどまで自分が使っていた箸を差し出す凜音。彼女はこの世界で箸を普及させるのことによって、公式の場でも箸を使ってもいいようにさせたいというショボめの野望を持っている。その第一歩である。


「え、いや、でもそれ」


「?いやちょっとくらい鮭食べるの我慢できるって。ほら思い立ったが吉日!」


「えぇ……リンネはいいのかい?」


所謂、そういうことを気にするタイプと気にしないタイプである。

前者がリュオン、後者が凜音だ。

つまるところ、リュオンは俗に言う間接キスになることを気にしていたのだがリンネがさっぱり気にしていないので、気にしないことにした。


「中指と親指でそこを抑えて、人差し指がこっち。うん、そんなかんじかな?」


「……??動かない」


凜音がやっていたように食べ物を箸で挟むため閉じようとするものの思ったように動かせないリュオン。


「やっぱり始めては難しいかぁ……絶対箸の方が楽なんだけど」


「絶対フォークの方が楽だよ……」


結局、間接キスを気にしていたものの、箸で食べ物を掴むことは出来ず、それが起こることは無かった。しかも凜音はそれを気にしている様子も無かったので、どことなくモヤモヤした気分になったリュオンは、自室でこっそり箸を作り、使えるようになるまで練習したという。






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