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2匹目 リュオン


人間の街に来て、成り行きで街を助けて、そのまま成り行きでイケメンの家に泊まらせて貰った日から数週間。


「めっちゃニートしてるじゃん私」


「ん?どうしたんだいリンネ。何か欲しいものでもあるのかい?」


リュオンの屋敷は豪邸であった。いや豪邸と言うには小さいのだが、他の街の家と比べると数倍くらいの広さがあるし、細かいところまで凝った意匠が入っているし、何より風呂がある。ヒューゲンの家には無かったのに。

そして、馬鹿でかい屋敷なのに使用人は雇っておらず一人で生活しているらしいので騒がしくない。

さらに、リュオンが毎食ご飯を作ってくれるし、これがまた美味しいのだ。しかも魚がよく出てくる。

そもそも、凜音が海というホームを捨てて人間の街にやってきたのは、前世で毎日のように食べていた魚が恋しくなったからである。

何故か鮫などに襲われはしなかったものの、人魚は戦闘種族ではないようで魚を素手で捕まえることはできなかった。包丁がなければ捌くこともできないので、捕まえたところで食べようとは思えなかっただろうが。よってワカメや昆布を食べていたのだが、流石に飽きた。

こんな生活耐えられるか!俺は陸に上がる!とこの街にやってきた。


一度リュオンに働かなくていいのかと聞いたが、私が好きな人のために働きたいんだよ、と笑顔で言われた。

リュオンは、ほとんど屋敷にいて一週間に一度どこかへ出かける程度なのだが何故か金が入ってくる。凜音はディレッタントみたいなものではないかと思うことにした。彼女の中でディレッタントは何故か金持ちで自分の趣味にとりあえず金を使いまくる奴というイメージである。偏見だらけで申し訳ない。

ともかくそういうわけでお金については気にしないことにした。

本人曰く屋敷で魔術の研究をしているらしい



そう、ここで初めのセリフに繋がる。私は今、広い屋敷でニートのような生活をしている。


しかしそろそろリュオンともちゃんと話さないといけないか、と凜音は重い腰を上げた。することが無くなって暇になったとも言う。



「リュオン、話したいことがあるんだ。あ、真面目な話ね」


夕食のあと、凜音はリュオンに話しかけた。いつの間にか敬語は外れていた。


「あぁ、やっと私と結婚する気になってくれたかい?」


笑顔で答えるリュオン。

それに対して凜音は出来るだけ真剣な顔をして、はっきりと発声した。






「その()、もうやめていーよ?」






「……嘘、って?はは、酷いなぁリンネは。私のこの気持ちが偽りだと言うのかい?」


「私のこと、見た目通りに頭の弱いただの小娘だって思ってるでしょ?多分、今リュオンが考えてることは大体察してるから腹を割って話して妥協点を探れたら、外の結界破って外に逃げるのも止めようかと思ってたんだけど」


とりあえず思いついたことをズバズバ言っていく。

見た目が頭弱そうだから舐められるのは前世からだから慣れている。


「そもそも私のこと好きでもないでしょ。それに私に一目惚れしたとしてもいきなり結婚とか馬鹿のすることだよ。そんな馬鹿が金持てる程この国は甘くない、って聞いたんだけどなぁ。もしかして嘘だったのかなぁ。それに、」



愛を知らない人が(・・・・・・・・)、人を愛する演技なんてするもんじゃないよ」


「……どうしてだい?」


「出来るわけがないから。リュオンは私に笑顔しか見せない。リュオンは私のことは聞かない。何も知ろうとしない。それに何も私に教えようとしてないよね?本も適当な理由つけて貸してくれなかったし、私に知識を得て欲しくないのかな?なんて」


リュオンはしばらく笑顔のままで固まっていた。

多分、彼は笑顔が仮面であるような人なのだろう。


「……あぁわかった、観念しようじゃあないか!そうとも、私は君が好きなわけじゃない。信用もしてない」


「私の身柄を拘束するのには、そうするのが一番楽だったんだよねぇ、わかるわかる。屋敷にはってある結界はそう簡単にバレることも無いし、高位の魔術師じゃないと破ることもできない。私がただの善良な人だったら、好きだからって理由で尽くしてくれる人に良心の呵責を覚えないはずがない。そのうち絆されてくれるかも〜なんて考えてたんじゃない?」


「それだけじゃないとも。君は君が思ってる以上に危険人物なんだよ。魔術では説明のつかない妖しげな術を使うし、下半身は魚なんて種族は見たことも聞いたこともない。おかげさまで魔力量も体力もどの程度なのかさっぱり分からないし、何故か測定器も機能しない」


ここで突然、凜音には聞き逃せない情報がさも当然かのようにサラッと流された。


「ちょっ、ちょっと待って!?私みたいな種族見たことないって、人魚知らないの?」


「おや?……私の知る人魚というのは肌が青く、所々に鱗とヒレがあり、喉にエラがついている種族だ。……どうして君は、自分が人魚だと思っているんだい?」


形成逆転!?どうしよう、大ピンチ〜☆なんて頭の中でふざけたことを考えつつも凜音の口は冷静に動いていた。


「私は生まれたときから自我があって、自分は人魚なんだって理解してた。私は自分が人魚だと思ったから人魚だと知ってる、そういうこと」


これこそが忍法、分かりずらい適当なことを言って誤魔化すの術である。煙にまくともいう。


「へぇ……まぁいいか。それで?私は腹を割って話したとも。ならば君も、話すべきじゃないかい?」


「……じゃあ何を知りたいの?聞きたいことを聞いてくれれば分かる範囲で答えるよ」


これで前世のことは話さなくていい、はず。流石にそこまで気づくのであればリュオンが恐ろしすぎるので海に逃げようと思った。


「じゃあまず、君は自分以外で同じ種族の者を知っているかい?」


「知らないなぁ。なんか目が覚めたら一人だったし、親代わりになってくれたのは別の種族だったし」


「次。君が使ってたあの妖しげな術は何だ?」


「あ〜あれは昔とった杵柄的な……昔知り合いに教えてもらってちょっと齧っただけの私にもよく分からない術」


あの術は前世で幼馴染みに教えてもらったものだ。幼馴染み曰く陰陽道の符術らしい。この世界は異世界だろうと凜音は思っているのでこのくらいのファンタジーがあっても不思議ではないかと楽観していたが、街並みや人の名前の響きから察するにヨーロッパ風の異世界だ。東洋の術は妖しげな術だとか言って呪い認定されているかもしれない。


「じゃあ分かることだけ話しくれないかい?」


「えぇ〜長くなるんだけど」


「いいとも。時間はたっぷりかるからね、喉が渇かないようにお茶でもいれてあげよう」


なんかリュオン機嫌よくない?怖いな。もしかして本当に呪い認定されてて合法的に自分を処刑できるからではないのかと訝しむ凜音。

そして、そんなリュオンに内心で怯えながら陰陽術の説明をする。えっとね〜まず陰陽道ってのがあってね、それが神道っていう宗教と混ざって、うんたらかんたら……。


「ほう……なるほど、こちらではない考え方だ」


「あの、できればあんまり口外しないでね?私の大事な護身術だから」


「約束はできない。努力はしよう。それより、私は魔術が好きでね。新しい魔術の道が見えてとても機嫌が良い。色々やりたいことも出てきたので次の質問で最後だ」



「君は、どうしてこの街に来た?」


単純な質問だった。少なくとも、凜音にとっては。



「そりゃあ、魚が食べたかったから」


「……それだけなのかい?」



「うん。まぁ、でも寂しかったのかもなぁ。最近、その親代わりが死んじゃって」


あ、と凜音が声を上げる。


「リュオンの笑ってる以外の顔、やっと見られたなぁ」






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