俺は親友に恋をする
俺には幼馴染の親友がいる。
そいつの名前は有栖川 拓也。小学生の時にタク坊と呼ばれていて、高校生になった今でもそう呼んでいる。
気が合う奴でとても仲がいい。たまに喧嘩したりするが、すぐに仲直りする。いつも馬鹿やったりして一緒に居て飽きない奴だった。
家も近いし、ずっと学校もクラスも一緒だったので、もはや唯一無二の親友と呼べる存在だった。
このまま大人になっても親友でありたいと思っていた。
しかし、ある日を境にタク坊は変わってしまった。
一時期タク坊と連絡が取れない時があった。たった数日間だけとはいえ、少し不安だった。真面目なあいつが学校をサボるとは思えなかったからだ。学校に行く途中、いつもの合流場所であいつを待っていたが、今日も来なかったら直接家に行こうと思っていた。
そんなときだ。こちらに向かって歩いてくる人影が見えた。その人は女子生徒だったが、どこが見覚えのある顔つきだった。初めて見る人なのに何故か慣れ親しんだ雰囲気があった。徐々に近づいてきて、顔をよく見てみるとタク坊に似ているではないか。しかしタク坊は男だ。あの人は女で明らかにタク坊とは違う。それでも不思議とタク坊かもしれないと思い始めていた。
人違いかもしれないが、俺は咄嗟に呼びかけた。
「タク坊……?」
言った瞬間、そいつは目を見開き、驚いたような表情をした。そしてすぐに目の前まで近づきすごく嬉しそうに喋りだした。こいつは本当にタク坊だったのだ。安心すると同時に疑問も湧いた。言うまでも無く、なぜ女になっているかということだ。
病名はよくわからないが、突然女になってしまう原因不明の病らしい。治療法も無く、一度発症したら元に戻らないそうだ。それでも命に別状が無いと聞いて安心した。普段通り学校に通えるとのことだ。
例え女になったとしてもタク坊はタク坊だ。いつもと変わらぬ態度で接しよう。そう思った。
しかし他の連中は違った。
男共はタク坊にセクハラ発言するし、女共は中身が男だと知っているので避けるようになった。そんな状況が続き、タク坊は次第に元気を無くしていった。だからせめて俺だけでもあいつの側に居てやろうと思った。
そんな中、俺はタク坊に惹かれるようになっていった。何故ならあいつは俺に対してあまりにも無防備なのである。スカートが捲れても直そうともしないし、汗でブラが透けてもそのまま、更には腕に抱きついてきたこともあった。女になってからやたらボディタッチが増えた気がする。その度にやんわりと注意したが、女としての自覚が無いのか、あまり直そうととしなかった。
タク坊のことが好きだと気づくのにそう時間は掛からなかった。だがこれは叶わぬ恋。女になったからって態度を変えて告白したら、セクハラ発言している男連中と変わらないではないか。だからこの想いは胸の奥にしまっておくことにした。今の関係が壊れるぐらいならこのままでいい。俺とタク坊は親友のままで居たかった。
けれどもタク坊に対する想いは強くなる一方だった。
そしてあの事件が起きた。
ある日の放課後、タク坊と一緒に帰ろうとして探したが見つからなかった。メールも電話も反応が無く、すごく嫌な予感がした。
学校中を走り回り、必死に探したが見つからなかった。もしかしたらと思い、人気の無い場所を探す事にした。そこで男がタク坊を押し倒している場面を目撃したのだ。急いで近づき、男の顔面を思いっきり殴った。手が痛くなるほど強く殴ったが、クリーンヒットしたのか一撃で気絶したようだった。
タク坊は俺の姿を見るやいなや勢いよく抱きついてきた。そして胸の中でわんわんと泣き出してしまった。余程怖い思いをしたのだろう。俺はただ頭を撫でることしか出来なかった。
せめて……せめてタク坊に恋人が出来るまで俺が守ろう。そう心に誓った。
その後、襲った男は退学処分となった。当然だ。
次の日、タク坊は学校を休んだ。
無理も無い。あんな怖い思いをしたのだから。もしかしたらこのまま学校に来なくなるかもしれない。そう思い帰りにあいつの家に行く事にした。
学校の帰りにタク坊の家を訪問した。部屋に入って目に映ったのは、明らかに元気が無く、虚ろな目をしたタク坊の姿だった。
……こんな状態で学校に行かせるわけにはいかない。少しでも気が楽になるように、「無理して学校に来る必要は無い」と言って安心させた。他にも色々と言葉をかけて慰めた。
そして話しかけてる途中でタク坊が泣き出してしまったのだ。この時ばかりは困惑した。なぜ泣き出したのか分からなかったからだ。
泣き終わった後、いつもの調子で「もう大丈夫だよ」と言ってきた。それを聞いて安堵した。
この日を境に、タク坊は徐々に女らしくなっていった。
いつの間にか『僕』ではなく『私』になっていたし、細かい仕草まで変わっていったのだ。
料理も勉強しているらしく、俺のために弁当を作ってくれるようになった。長い付き合いだけあって俺の好みを把握しているためか、弁当は非常に美味しかった。
しかし相変わらずボディタッチは無くならなかった。それどころか更にくっ付くようになっていった。タク坊の胸は女子の中でも比較的大きいサイズらしく、腕に抱き付かれると柔らかい感触が伝わり、俺には刺激が強かった。
こんなこと俺以外にしたら勘違いしてしまうのも無理ない。そう思ってやんわりと注意したが、一向に止める気配は無かった。
……もしかして俺のことを恋愛対象として見てくれているのか?
いや違う。それこそただの勘違いだ。第一、男としての付き合いのが圧倒的に長いのだ。いまさら俺に対して恋心を抱くはずがない。
タク坊とは親友だ。そしてこれからも親友のままだ。そう思っていたはずなのに、頭の中はタク坊のことでいっぱいになっていった。
もはや女より女らしくなっていったタク坊は、まるで狙ったかのように俺好みの女の子なっていった。
一度意識し始めたらタク坊の顔をまともに見れなくなっていた。
日曜日に、タク坊が俺の家に遊びに来てくれることになった。日曜日は両親が日帰りの温泉旅行を予定していたので、夜まで他に誰もおらず丁度よかったのだ。
そして当日。インターホンが鳴り、玄関を開けると、露出の激しい服を着ているタク坊が居た。まさかこんな際どい服を持っていたとは予想外だった。やはりというか胸も大きく、一瞬目を奪われそうになるが我慢し、平静を装って部屋に案内した。
それからのタク坊は大胆だった。やけに密着してくるのである。その度に理性を削られていった。タク坊の感触だけではなく、密着されるといい匂いがしてくるのだ。これも理性を削る原因であり、限界が近づいていた。
理性を失いそうになる度に、相手から見えない位置で自分の体をつねった。つねり過ぎて涙が出そうなほど痛かったが、襲ってしまうよりはマシだった。
そして終わりの時間がやってきた。タク坊が帰宅する時間帯である。
やったぞ! ついに耐え切った! 俺はやり遂げたんだ!
そんな謎の達成感に感動を覚えつつ。襲わなかったことに安堵した。
しかしタク坊は帰ろうとしないし、何故か元気が無かった。理由を聞こうとしたとき、むこうから話しかけてきた。
「ねぇ……恭弥はさ、好きな人は居るの?」