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僕は親友に恋をする

 僕には仲のいい親友が居る。

 その人の名は折原 恭弥(おりはら きょうや)。小学校からの付き合いでクラスもずっと一緒、高校に入ってからも同じクラスだった。なので自然と仲良しになっていた。

 恭弥は僕のことをタク坊と呼ぶ。僕の名前が有栖川 拓也(ありすがわ たくや)だからタク坊なのだろう。高校に入ってからもタク坊と呼ばれるのはさすがに恥ずかしかったが、悪い気がしなかった。

 お互い家も遠くなく、趣味も合い、学校もずっと一緒だったので、もはや唯一無二の親友と呼べる存在だった。

 このままずっと仲のいい親友でありたいと思っていた。


 しかし、その想いは儚く崩れる去ることになる。


 ある日のことだった。朝起きたら女の子になっていたのだ。

 侵食性男性因子喪失症候群。通称TS病。それが僕の病気だ。発症例が非常に少なく、全国でも数十人くらいしか居ないらしい。幸いな事に命に別状は無く、普通に生活できるとのことだ。だが治療法は見つかっておらず、一生女として生きることを余儀なくされることになった。

 しかし僕は非常に戸惑った。昨日までは男として生きてきたのに、突然女として生きることになったのだから当然だ。

 女になってから身体も色々変わった。髪は肩まで伸びたセミロング、背も縮んで150くらい、そして胸に大きな膨らみが二つぶら下がっていた。サイズを測ったところ、Dカップと言われた。一番変わったのは男の象徴である息子も無くなっていたことだ。女になったのだから当然とも言えるがショックだった。

 両親に言われて名前も変えることになった。これからは有栖川 拓也ではなく、有栖川 拓美(ありすがわ たくみ)として生きることになった。

 様々な手続きも終わり、今まで通り学校に通う事になった。


 だが恐れていたことがある。それは親友である恭弥のことだ。女になってから一度も連絡を取っていないのだ。

 会うのが非常に怖かった。もう親友でいられなくなるかもしれない。もしかしたら嫌われるかもしれない。それ以前に僕だと気づいてもらえないかもしれない。そんな考えがいつまでも頭の中を駆け巡っていた。


 ついに女になってから初の登校日がやってきた。

 恭弥とは家が近いこともあり、いつも途中で合流してから学校に行くのが習慣になっていた。

 家を出てからいつもの場所へと向かったが、既に恭弥は待ち合わせ場所に居たのだ。いつも通りスマホを弄りながら僕のことを待っているようだった。

  恭弥と会うのが怖い。胸が張り裂ける思いだった。しかしいつまでも会わないわけにはいかない。勇気を振り絞って恭弥の元へ近づいた。

 恭弥がこちらに振り向き、その瞬間心臓の鼓動が跳ね上がった。

 そして僕のことをじっくり見始め――


「タク坊……?」


 と言ってきた。

 嬉しかった。一目見て僕だと気が付いてくれたのだ。姿も変わり、女子用の制服を着ていたのに僕だと分かってくれたのだ。

 最初は動揺してたみたいだけど、徐々に慣れてきたのかいつも通り接してくれたのだ。それが非常に嬉しかった。


 だけど恭弥以外の態度は違った。

 男連中は僕に対して「胸を触らせてくれ」とか「ヤらせてくれ」みたいなことばかり言うようになった。かといって女グループにも馴染めず、段々と孤立するようになった。

 恭弥だけは違った。僕が女になっても態度は変わらず、男だった頃と同じように接してくれた。名前が変わったのに相変わらずタク坊と呼ぶ。それだけなのにすごく救われた気がした。恭弥が居なければ不登校になってたかもしれない。

 僕が女でも親友でいてくれる恭弥。けれども女になった影響だろうか、日が経つにつれ、恭弥の事が好きになっていった。

 しかしこれは叶わぬ恋。恭弥が僕のことを好きになるはずがない。何故なら女の僕より、男だった頃のが一緒に居た時間が圧倒的に長いのだ。

 例え告白しても気持ち悪がられるのがオチだ。だからこの想いは胸の奥にしまっておくことにした。今の関係が壊れるぐらいならこのままでいい。僕と恭弥は親友のままで居たいからだ。

 それなのに恭弥に対する想いは強くなる一方だった。


 そして転機ともいえる事件が起こった。


 ある日の放課後。とある男子生徒から用事があると言われ、人気の無い場所に呼び出されたのだ。

 用事とは告白のことだった。またか……と思った。何故なら女になってから告白されるのはこれが初めてじゃないからだ。

 体は女になったが、まだ心は男の気持ちのが強かったのだ。そしていつも通り断った。しかしこの日ばかりは違った。告白してきた男が襲い掛かってきたのだ。

 必死に抵抗するも空しく、覆い被さられてしまう。女なったことで力もだいぶ落ちていたのだ。貞操の危機を感じ、叫ぼうとしても口を塞がれ叫ぶことが出来なかった。

 もう駄目だと思ったときだった。恭弥が助けにきてくれたのだ。この時の恭弥はすごく格好よく見えたのを覚えている。


 次の日、学校を休んだ。

 さすがにあんな出来事があって学校に行く気にはなれなかった。それどころかもう学校に行くのを止めようかと思っていた。どうせ学校では孤立してるし、あんな思いをするぐらいなら不登校でいいやと思っていた。両親は学校に行くように説得していたが、それでも気持ちは変わらなかった。

 その日の夕方、恭弥が僕の家に訪れてきた。家に帰らずそのまま来たのか制服のままだった。恭弥もどうせ学校に来るように説得しにきたのだろう。そう思っていた。

 しかし、恭弥は無理して登校しなくてもいいと言ってきたのだ。「暇なら俺が遊びにきてやる」「俺が協力するから心配すんな」と、そんな感じのセリフで慰めてくれたのだ。それを聞いて思わず泣いてしまった。

 一番の親友で、僕のことを一番思ってくれる。そして一番好きな人。

 やっぱり僕には恭弥しかいない。恭弥のことが好きだ。でもこのままだと恭弥は僕のことを恋愛対象として見てくれない……。


 ならば僕は――


 いや、私は変わることにした。


 その日を境に女らしくなろうと決心したのだ。女らしくなれば恭弥もきっと振り向いてくれるはずだ。

 それから学校に行くようになった。


 まず最初にしたことは一人称を変えることだった。『僕』と言うのは止めて『私』と言うようになった。これはさほど苦労はしなかった。気が付けば無意識に言えるようになっていた。恭弥の前では時々『僕』と言ってしまうけれど……。

 次にしたことは料理だ。料理が上手くなるように、母親に頼み込んで特訓をするようになった。特に恭弥の好きな料理を重心的に練習した。

 恭弥のために弁当も作る事にした。私の作った弁当を、恭弥は「美味しい」と言ってくれた。その一言ですごく幸せな気持ちになった。

 その後も女らしくなるために様々なことをした。服装も女性用を買い揃え、簡単な化粧も覚えた。仕草も女らしくなるよう勉強した。

 それから恭弥にくっ付こうともした。こうすれば嫌でも私を女として意識してくれるだろうと考えたからだ。効果はあったようで、腕に抱きついたときに恭弥は顔を赤くし、顔を背けたのだ。その時は怒られてしまったが、止める気は無かった。

 この調子ならいつか私のことを好きになってくれるかもしれない。そう考えていた。


 しかし、その願いは打ち砕かれることになる。


 ある日、学校での出来事だった。恭弥が男グループに混じって話しているのを目撃した。どうやら話題は恋バナらしい。

 気になってなんとなく盗み聞き気してしまった。その時に恭弥が衝撃的なことを言ったのだ。なんと恭弥には好きな人が居るらしい。それを聞いてふらつきそうになった。

 もしかしたら好きな人というのは私のことかもしれない。そんな淡い希望はすぐに消えることになった。何故ならその時に、恭弥達が話題にしてたのはとある女子生徒だったからだ。

 その女子生徒は男子生徒に人気で、成績優秀、運動神経もよく、身長が高く、綺麗な長い髪をした美人だったからだ。私から見ても羨ましいぐらい理想的な女子だった。恭弥が好きになるのも納得してしまう。

 それに比べ、私の成績は良いとは言えず、どんくさくて、背も小さく、髪も肩までしかない。勝てる要素は胸ぐらいしか無かった。


 ここままでは恭弥が取られてしまう……?


 嫌だ嫌だ嫌だ!

 最初に恭弥を好きになったのは私だ!

 全ては恭弥のために女らしく生きてきたんだ!

 恭弥が居たからこそ今まで頑張れたんだ!

 もう恭弥が居ない人生なんて考えられない!


 もはや一刻の猶予も許されない。ゆっくりしてたら恭弥が奪われてしまう。

 どうしたらいい……?


 ……そうだ。だったら一気に攻めよう。


 日曜日に恭弥と遊ぶ約束をした。場所は恭弥の家だ。

 そして日曜日。家のインターホンを押した後、恭弥が玄関から出てきた。

 恭弥は私を見るなり驚きの表情をした。それもそのはず。私の服装は肩が出ており、胸が強調されるような露出が激しいやつを着ているからだ。スカートも短いのを履いている。

 ふふっ……恭弥ったら私の胸をチラチラ見ているのが丸分かり。女になってから気づいたが、男の視線はすごく分かりやすい。

 家の中に入り部屋へと移動する。そういえば女なってから恭弥の部屋に入るのは初めてだ。

 それからは大胆に攻めた。足を崩しスカートの中が見えそうな体勢になったり、すぐ隣に座って肩をくっつけたり、腕に抱きついて胸を押し付けたり……。


 しかし、帰る時間になっても恭弥は何もしてこなかった。嬉しい反面、悔しかった。やはり私には女としての魅力が無いのだろうか……?

 このまま帰ったら駄目だ。ここで終わったら一生振り向いてくれなくなる。そんな気がした。

 だから勇気を振り絞って聞くことにした。


「ねぇ……恭弥はさ――」



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