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ダイアモンド・ベイビーズ  作者: 雨地草太郎
新東京攻防戦
9/50

東都駅奪還戦(4)

     †


 最初に仕掛けたのは花山だった。


鬼身(ボーガ)〉で強化された脚力を活かして高速接近。竜族のガルネアは身軽な動きで花山の拳を躱した。


 在歌はガルネアの回避先を狙って踏み込み、〈炎珠(イラ)〉の火球を放った。ガルネアが片手で払って粉砕するが、煙が残る。それで一瞬視界が奪われるはずだ。


「はあああああっ!」


 右腕に〈竜四肢(ドラテア)〉を宿して全力のストレートを打ち込む。ガシッ、と重たい手ごたえが帰ってきた。


「え……」


 ガルネアが在歌の拳を受け止めていた。


 ――そんな……。


 超火力を有した一撃を腕一本で止められるなんて考えられなかった。


「貴様ごときが竜族の真似事などをしたところで無意味だ」


「うっ――⁉」


 ガルネアの手が在歌の拳を包むように握ってくる。握力が桁違いすぎる。在歌の骨がたちまち悲鳴をあげ始めた。


「――相手は二人だよ」


 相手の手が離れた。


 ガルネアの側面から花山が蹴りを放つ。竜族は左腕で止めて後方に飛び、距離を置いた。動きに呼応するかのように兵士級が三体、こちらに向かってくる。


 在歌は左手で〈炮烈波(ヴォール)〉を放った。一体が巻き込まれて消滅する。


 残る二体を花山が引き受けてくれた。彼女は〈風拳(カフシ)〉を腕にまとって拳打の威力を上げて打ち込む。一体が吹っ飛ばされて改札口近くまで転がっていく。


 げあああああっ、と奇声を発しながらもう一体が剣で斬りかかってくる。花山は冷静に回避し、相手の喉めがけて二本指を突き込んだ。彼女の指が鱗を突き破って体内まで侵入する。


「あんたなんかじゃ勝負にならない」


 花山の右腕が赤く光り、竜族の兵士の頭が膨らみ出した。そして地面に叩きつけられたスイカのように勢いよくはじけた。


 相手の体内で〈炸炎珠(フラーボル)〉を発現させたのだ。内側で火球が膨れ上がればあのくらいはじけてもおかしくない。


 ガルネアに向き直った花山は、全身に血を浴びて鬼神のような迫力を感じさせた。


「我が同胞をいともたやすく……」


 相手は倒れた仲間を見つめてつぶやいた。


「お前たちのような存在がいれば、四年前この都市を奪えなかったのにも納得がいく」


「わかったらおとなしく引き上げてよ。これ以上死体が増えるのは嫌でしょ?」


「そうはいかん。そしてこれから増える死体は我々のものではなく貴様らのものだ」


 ガルネアが突っ込んできた。


「えっ――⁉」


 疾風のような速度で距離をゼロに詰められる。在歌は反撃の準備すらできていない。竜の拳がうなりをあげて迫ってくる。


「在歌ッ!」


 花山が横合いから飛び出してきてガルネアに体当たりを食らわせた。ガルネアはよろめきからすぐに立ち直って再度踏み込んだ。今度の狙いは花山だ。拳が開かれている。爪の一振りが花山の二の腕を裂いた。


 花山は呻きながらも反対の手で〈炸炎珠(フラーボル)〉を発現させた――が、ガルネアが発現途中の火球に拳を叩き込んで爆散させた。


「うあああっ!」

 超至近距離で爆風を受けて花山が床を激しく転がった。


 竜族はそれを追いかけず在歌に向き直った。在歌がとっさにイメージできたのは小さな火球だけだった。〈炎珠(イラ)〉を撃ち込むが難なく撃墜され、またしても肉薄を許した。


 どん、と腹部に衝撃が走った――と思った瞬間にはもう天井に叩きつけられていた。落下が始まり床に激突する。


「く……う……」


 やはり族長級の強さは兵士級などとは比較にならない。二人がかりでもこのざまだ。在歌の頭の中ではいかにして逃走するかの計算が始まっていた。なんでもかんでも灯希に頼るわけにはいかない。自分がどうすればいいのかは、自分で考える。


 しかし花山はまだ起き上がっていない。この状況からどうやって脱出すればいい?


 在歌は起き上がろうとしながら唇を噛みしめた。


 ……悔しい……。


 灯希に大口を叩いておきながら、結局はこの有り様だ。彼女を襲う無力感はあまりにも大きすぎた。


「地上人にしてはよくやった方だと褒めておいてやろう」


 ガルネアが言い、足音が近づいてくる。


 早く、早く立ち上がって反撃の構えを見せなければ。

 頭はそう考えるのに、体が痛みで言うことを聞いてくれない。


 ……立って、戦わなきゃ……。


 在歌は残りわずかな気力を必死に振り絞る。

 立ち上がって、ガルネアを睨みつける。


 ガァン、と音が響いたのはちょうどそんな時だった。奥の方のドアが外れて、そこからスーツ姿の人影が現れたのだ。


「灯希!」

 在歌は思わず叫んでいた。反応するように、花山も起き上がった。


 戻ってきた灯希は、少しつらそうな表情をしていた。目立った傷はなさそうだが、たぶん、かなりの想波を消費したのだろう。そのくらいは簡単に想像できた。


「貴様……するとあの毛玉族は敗北したのか」


「ああ、跡形もなく消し去ってやったよ」

 灯希はにやりと笑った。


「ふうむ……どうやら分が悪そうだ」

 ガルネアは冷静につぶやいている。


「まあよい。ここなど、あってもなくてもさほど変わりはない」


 言うが早いか、ガルネアの手が白く輝き始めた。


「――目を閉じろッ!」

 灯希の怒鳴り声に、在歌はとっさに言われた通りにした。


 目を閉じていても、世界が明るくなるのが伝わってきた。

 ガルネアが閃光を発現させる〈白閃(ミネイ)〉を使ったのだ。


 目を開いた時、そこにもうガルネアの姿はなかった。破られた窓から出ていったのだろう。外から口笛のような音がした。あれは聞き覚えがある。時雨たちを追いかけていった兵士級の連中に撤退を呼びかける合図だ。


「二人とも、大丈夫か」

 灯希が駆け寄ってきた。


「なんとか、ね……」

 在歌は腹部を押さえながら返した。〈鬼身〉を使っていない状態であの拳を食らっていたら、確実に死んでいただろう。


「花山は?」

「平気。たいしたことない」


 答えた花山の顔には火傷の痕がいくつもついていた。左の二の腕も深く裂けている。あれらは在歌の〈傷癒泡(メディブル)〉で治すことができるだろう。


「上の奴は倒せたのね」


「ああ。ちょっと斬撃をもらった程度で済んだよ」


「よかった……」

 在歌は安堵のため息をついた。


「時雨たちが心配だ。すぐ行きたいんだが、動けるか?」

「うん、行ける」

「問題ない」

「急ごう」

 灯希を先頭に、三人は階段を駆け下りた。


 これで拠点を一つ、確保できたことになる。


 灯希が帰ってきただけで、ここまで状況は変わるのだ。同時に、在歌は自分の力のなさに悔しさも感じていた。

 四年間のブランクがあったことは事実だ。しかし、それは灯希だって同じだ。言い訳にはならない。


 ――もっと強くならなきゃ、世界は変えられない。


 在歌は拳を握りしめ、成長を誓った。

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