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ダイアモンド・ベイビーズ  作者: 雨地草太郎
未来に向かって架かる橋
43/50

新入間基地攻略(1)

 灯希たちは池原の運転するワゴン車で新入間基地を目指した。


 内陸に入ってもガイアの使いによる攻撃の痕跡はあちこちに見受けられる。倒壊した建物、倒木や土砂崩れ、そして折り重なった死体と、爪痕は深い。


 ただ、地上部隊が陸路から攻め込んできた様子はない。すべて上空から攻撃を受けたように見えた。ビルの崩壊部分や、樹木の倒れ方などからそのように推測できる。


 ガイアの使いの地上部隊は、あくまで海の近くを荒らし回っている。あるいは、降下して拠点に密集している。


「それでもこれだけの被害か……」


 車窓からの景色を見て、灯希はこぼした。


 道路の左側は森だ。右側は田園が続き、その向こうに住宅地が見える。あちこちから煙が上がっていた。


「復興……できるでしょうか?」


 後ろの座席で、時雨が不安そうにこぼす。


「やるしかないさ。まあ、時間はかかるだろうけど……」


「俺らの手にかかってるってわけだろ? そう考えると燃えるよな」

 灯希の隣に座る紅蓮が言った。

「まずは敵をぶっ飛ばすのが先だ。街を立て直すのは大人に任せりゃいい」


「その通りです」

 運転席から池原。

「復興は我々の仕事です。本来であればガイアの使い撃退も我々の仕事なのですが……皆さんに頼らざるをえない。まったく心苦しい限りです」


「いやいやいや、そういうの気にする必要はねぇっすよ。俺らは戦うしかできねぇっすからね」

 紅蓮は相手が自衛隊員であっても口調を変えない。


「ところで紅蓮」


「なんだ灯希」


「お前も排斥運動は見てきたのか?」


「おう、好き放題言われたぜ」


「喧嘩っ早そうに見えるけど、よく耐えられたな」


 それは出会ってからひそかに気にしていたことだった。


「いんや、俺は残念ながら耐えられなかったんだ。俺んちって練馬にあったんだけどな、それもぶっ壊されちまったんよ。家族も死んだし家もねぇしでふらふら歩いてたらさ、ガイナーは危険な存在ですとか演説してる国会議員を見かけてな、イラっときて――」


「まさか……」


「ああ、ついぶん殴っちまったんだよ。で、ほら、俺も髪の色がこんなんだろ? お前ガイナーだな、やっぱりガイナーは危険だってすげぇ野次もらってな、慌てて逃げたよ」


「あ! その話知ってる!」

 助手席から在歌が振り返った。


「練馬でガイナーが暴れて国会議員を殴ったってニュースになってたわ。あれで排斥運動賛成派が急に増えたのよね」


 紅蓮は人差し指でこめかみのあたりをかいた。


「すまねぇ……俺もさ、勢いでしたことがあんなに広がるとは思わなかったんだよ。それからは自重するようになったんだ。冬姫のところに行って、精神を鎮める修行ってのをやったりして、とにかくすぐキレねぇように練習したんだ」


「そんなことがあったんだな。全然知らなかったよ」


「あの事件はガイナー全員に影響あったよ」

 後部座席から花山の声。

「排斥運動を加速させちゃったし」


 花山が紅蓮を睨みながら言う。相変わらずこの少女は容赦がない。


「そうだよな……。ほんとに、みんなには迷惑かけた。すまん」


「今さらしょうがないさ。花山、そんなに責めなくてもいいだろ?」


「確かに言いすぎた。ごめん」

 花山はすぐに謝った。

「でも、それで貴方が変われたのならよかったと思う」


「ああ、もう大丈夫だ。ちゃんと自制する」


 どうやら紅蓮ともいい雰囲気を作れそうだった。


「あと一時間ほどで新入間基地に着きます」

 いったん静まったところで、池原が言った。

「いつ敵襲があってもおかしくありません」


「ですね。――みんな、すぐ想術を使えるように覚悟しておけよ」


 全員が頷く。


 車は緩やかな坂を下っていた。


 まもなく都市部に入る。


 四年前の攻撃から立ち直ったばかりの入間市。そこは再び破壊されていた。ここもまた、黒煙が上がっている。


 ビルは壊され、電柱が倒れて電線は切れ、田畑は黒焦げで何が育てられていたのかもわからない。道には瓦礫も多く、ワゴン車はわずかな隙間を見つけて走った。それでも車体が激しく揺れた。


「入間基地も、昔は狭山市の方にほとんどの施設があったんですが、再建されて半々くらいになっているんです。前回偵察した限り、狭山側の方が大きく損害を受けています」


「どんな種類でもいいからヘリが無事ならいいですけどね」


「どうでしょう……祈るしかありませんね」


「ここの住民はどうなったんでしょう? 避難できたんですかね?」


「さあ……前回もまったく民間人には出会いませんでした。どこか別の場所に移動したか、あるいは……」


 池原はそこで言葉を切った。

 灯希としても、あまり想像したくない事態だった。


「地下シェルターみたいな施設はないんですか?」

 在歌が訊く。


「地域によっては建造されているそうです。ですが、どこに造られたのかまでは自分は知りません」


「ここにあるとすれば、そこに人が集まっている可能性はあるわね」


「作戦が終わったら少し探してみるか?」


「うん、被害状況の確認も含めて、やっておくべきかもね」


「その前に私たちが全滅したりしてね」


「おい」


 灯希は思わず振り返った。花山は涼しい顔をしている。


「冗談。灯希がいる限り全滅はありえないよ」


「一人でも欠けたら駄目なんだぞ」


「わかってる。死なないようにする」


「わ、わたしも頑張ります」

 時雨も緊張した顔で言った。


 やがてワゴン車が停止した。


 正面に新入間基地の姿を捉えている。


「どこまで車で接近しましょうか」


「とりあえずここで。偵察しながら進みましょう」


 池原の問いに灯希が答えた。


 ワゴン車は路肩に停車し、全員が降車する。

 作戦には池原も同行する。一人だけ残していくのは危険すぎるし、彼に護衛をつけたのでは戦力が中途半端に分かれてしまう。


 六人は花山を先頭に歩いた。彼女の索敵能力がもっとも高いからだ。


 二番目を灯希が行く。鉢合わせして花山が対応できない相手であれば、即座に灯希が戦う。池原を真ん中に置き、次に時雨、在歌、最後尾は紅蓮だ。


 ガイナーがそれぞれアンテナを張って、奇襲を警戒する。陥落した街は敵地と考えていい。相手はどこに潜んでいるかわからないのだ。


 やがて航空自衛隊新入間基地と書かれた正門が見えてきた。バリケードはなく、人影もない。その向こうに見える建物はほとんど全焼か全壊していた。どの建物がなんの役割を果たしていたのかさえわからない有り様だ。


 壊れたビルの陰から、真っ黒な体が現れた。輪郭がゆらゆら揺れておぼつかない。全身が墨でも塗りたくられたかのように真っ黒で、目の部分にだけ丸く白い穴が見える。明らかな異生物でありながら形は人間にそっくりだ。


 ――虚人(きょじん)、か。


 ガイアの使いの一種だ。報告通り、ここは奴らの支配下にあるらしい。


「数が掴めないな。花山、どうだ?」


「……正門の近くには、八つ。もっと奥は進んでみないとわからない」


「八体ならどうにかできるな」


「おい、俺に行かせてくれ」

 紅蓮が最後尾を放棄してやってくる。

「虚人でも殴り倒せるってことを見せてやんよ」


「わかった。――紅蓮を先頭にして侵入する。最後尾は在歌に任せるぜ」


「オッケー。異常があったらすぐ声を上げるわ」


 バシッと拳と手のひらをぶつけ、紅蓮が笑った。


「そんじゃ、いっちょ行ってみっか!」


鬼身(ボーガ)〉を纏い、紅蓮が走り出した。


「俺に続け!」


 言われなくてもわかっている。


 全員が走り出した。

 正門を駆け抜け、通路を歩いている虚人に急接近する。相手がやっとこちらに気づいた。真っ黒な顔――口のあたりにぽっかりと白い穴が開く。声を出そうとしている。


「しっ!」


 掛け声とともに紅蓮が拳を出した。引いた肘が一気に伸びて、虚人の顔面を直撃する。頭がはじけ、もうもうと黒い陽炎が揺れた。紅蓮の連撃。左の拳が腹に入り、続いて手刀が体を真っ二つにする。虚人の体が黒い粒子になって流れていった。


「どーよ」


「お見事」


 灯希の感想はそれだけだった。


「でも他にもいるからな」


 瓦礫の向こうから虚人が四体出てきた。どれも想波の密度からして兵士級だ。雑魚ならばどれだけいようと片づけられる。


「みんな、死角を突かれないように注意しろ」


「うん」とか「はい」とかバラバラな返事が来た。


 正面の虚人が走り出した。


「ぶっ飛ばしてやる」


 紅蓮の想波が密度を増していく。冬姫も強いが、こいつもかなりの腕前だ。


 シャーッ、と滑車が転がるような音がした。


 ハッとして振り返る。


 ホワイトボードがハイスピードで滑ってきた。三つほど現れて、正門を封鎖した。


「あんなのならすぐ突破できるわ!」


 在歌が言うが、問題はそこではなかった。


 この反応の速さ。


 敵はどうやら、こちらが下車した辺りでもう気づいていたらしい。


 灯希は怒鳴った。


「気をつけろ! 奴ら、俺たちを包囲する気満々だぞ!」

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