状況報告
竜族軍を撃退して、早くも二日が経とうとしている。
一川市と海晴市の民衆が一体になって、互いの生活を支援する状態が続いていた。
食料の確保も今のところ問題ないが、戦いが長引いて冬になるとまずい。敵を追い出したら、農業には復活してもらう必要がある。
一川市の見張りは灯希たちガイナーが交代で行っている。
竜族以外には大規模な襲撃もなく、少数の鬼どもが現れる程度だ。そいつらにしても大した力はなく、戦闘が苦手と言っているキリカや時雨でも倒すことができている。
†
その日の夕方のこと。
一川市の中央通りをジープが走ってきた。
車はセントラル一川というホテルの前で止まった。このホテルが、ガイナーと自衛隊の作戦本部となっている。
車から降りたのはフタマル式に搭乗している池原操縦士と、護衛を担当した花山とセッカの三人だった。
だいたい予定通りの時刻だったので、メインのガイナーがほぼ集結していた。
「道中の攻撃はなかったよ。はあ、緊張した~」
ブラウスにスカートとシンプルな格好をしたセッカが言った。
その横を池原が歩いてきた。車長の藤丸が出迎える。
「ご苦労様。さっそく成果を聞かせてくれ」
「はっ。――その前に、担架の用意をお願いしたいのですが」
「担架?」
「はい、道中で重傷を負った隊員を拾いました」
「わかった、すぐ持ってこさせよう」
ジープから、腹に深い傷を受けた自衛隊員が運び出された。
彼はすぐロビーの大きなソファーに寝かされた。在歌が外傷を治癒する〈傷癒泡〉の想術を使って、まずは傷口を塞いだ。
「しばらくは起きないと思います」
施術を終えた在歌が、藤丸に報告する。
「わかった。では目を覚ますまで話し合いをやろう」
会議はセントラル一川のロビーで行われた。複数のテーブルとイスを寄せて大勢が会議に参加できるようになっている。
池原が立っていて、他の全員がそれぞれの席についていた。
「予想した通り、大宮駐屯地はほぼ壊滅していました」
彼は深刻な顔で切り出した。
池原、花山、セッカの三人は、無事な自衛隊の戦力を求めて埼玉へ行っていたのだ。通信ができないので直接出向くしかない。そのため二日を要した。
「おそらく堕天使か、他の飛行系部隊の攻撃を受けたのでしょう。隊員とガイアの使いの死体が数多く見つかりました。機関銃で迎撃したものと思われますが、人影は一切ありませんでした。そして車両も全滅状態でした」
「そうか……」
藤丸もがっかりした表情を浮かべた。
「今回の敵は徹底しているな。四年前は地上から数に任せて襲ってきた。だが、今はいかにこちらの反撃を抑えるかを考えて攻撃を行っている」
「砲撃や銃撃がよほどこたえたものと見えますねえ」
のんきそうに言うのは、ガイアの使いを研究している柿崎博士だ。この人はいつでも白衣を着ている。
「味方に害を及ぼすものから潰していく。実に合理的ですねえ」
「まったくです。これでは思うように反撃できない。――それで、もう一つの方は?」
「それなのですが、新入間基地はまだ無事な部分がありました」
おおっ、とあちこちから声が上がった。入間には航空自衛隊の基地がある。
「ではヘリを確保できそうか」
「ですが、基地に虚人の大軍が居座っていました。あれを突破しなければ難しいかと思われます」
「虚人……」
「厄介ですねえ」
また柿崎博士が割り込んできた。
「虚人はガイアの使いの中でも銃弾の効果が薄い相手です。そんな連中が群れているのでは」
ここで灯希が挙手した。
「それだったら、俺たちガイナーの出番です。基地を取り返してヘリを確保しましょう」
「やはり、君たちに頼るしかないか……」
藤丸は申し訳なさそうに言う。
「ところで、新入間基地っていう名前に変わったんですか?」
「ああ、灯希君は知らないのだったか。前回の戦争で入間基地も派手にやられてしまったのでね、修復と改築工事が同時に行われたんだ。だから今は新入間基地と呼ばれている」
「なるほど」
「自衛隊の基地はほとんどが移転したか修復改築が行われていますからねえ、戦前のままという場所はないのではないでしょうか?」
「おっしゃる通りです。奴らは大量の犠牲を出してでも駐屯地を潰しに来た」
「で、正面からではまずいと判断したのでしょうねえ。何せ、今回は不意打ちばかりですからねえ」
「……そうですね」
藤丸は顔を上げる。
「ガイナーに手伝ってもらえば基地は奪還できそうか」
「できると思いますよ~」
池原より先にセッカが発言した。
「でも、五人以上は必要だと思いますけど」
「では灯希君たちで話し合ってメンバーを選出してもらえるかな?」
「了解です」
「で……あそこで寝ている彼なんだが」
藤丸が背後のソファーに目をやる。
「彼をどこで拾った?」
「入間の近くです」
池原が即答する。
「ヘリの操縦士という可能性はあるかな?」
「できれば、そうあってほしいですが……」
ヘリを確保できても、操縦できる人間がいなければ意味がない。入間基地が敵に占領されているのなら、内部に生存者はいないと考えるべきだろう。すると、意識を失っている彼が何者なのかが重要になってくるのだ。
「まあ、まずは入間の奪還だな」
「自分がガイナーを向こうまで乗せていきます」
「うん、頼むぞ」
†
藤丸と池原が話している横で、灯希たちガイナーが会議する。
「さて、俺は確定として、他は誰が行く?」
「確定なの?」
在歌の問いに、灯希は「当然」と答える。
「虚人の族長級レベルがいるかもしれない。だったら格闘できる奴がいた方がいいだろ」
「格闘なら俺だってできんぜ?」
紅蓮が拳を見せつけてくる。
「腕前を確認させてもらいたいな。一緒に来てくれるか?」
「おう、ついてくわ」
「私も行く」
花山が言った。
「サーチならできるから」
「よし、これで三人だな」
「じゃ、あたしも行くわ」
在歌が手を挙げた。
「わ、わたしも行っていいですか?」
次に発言したのは火潟時雨だった。ウェーブがかった灰色の髪が印象的な、おとなしめの女の子だ。
「あの、サポート向きのガイナーが一人いてもいいと思うんです。……い、いらないでしょうか?」
「いや、色んなタイプがいた方が安心だ。ついてきてくれるか?」
「は、はい!」
時雨は嬉しそうに返事をよこした。
「他のみんなにはここの防御を任せるけど、いいか?」
「もちろんだよ」
セッカが軽く言う。
「てか、灯希君はいっつも動いてるけど体力大丈夫なの?」
「それは問題ないよ」
「私はこの機会にみんなとの親交を深めておこう」
冬姫が腕を組んで言った。
「族長級以上が現れたとしても、連携が利くように」
「わかった。じゃあこの布陣で行動する。ヘリが手に入れば反撃にもすぐ移れる。もう一息、頑張ろう」
全員が頷いた。




