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ダイアモンド・ベイビーズ  作者: 雨地草太郎
未来に向かって架かる橋
39/50

地響きと爆炎、そして斬光(1)

 夜が明けてから、海晴市の市民たちは一斉に移動を開始した。


 全員をひとまず一川市に集める。


 基本的には野宿になるが、この際やむを得ない。


 食料はあちこちの店からいただくしかないのだが、関城はどこの店から何をもらったかすべてメモしているらしい。復興できたらちゃんと返すつもりでいるのだとか。


 電気が来ないため、ご飯は飯盒(はんごう)炊爨(すいさん)で確保する。


 人数がぐっと増えるので、飲食店での仕事を経験している人間にはなるべく手を貸してもらい、栄養失調を起こさないようなメニューを用意してもらう予定だ。


     †


「さて、俺たちはガイアの使いをどう倒すか考えよう」


 午前十時過ぎ。


 灯希、在歌、キリカ、冬姫の四人が海晴百貨店の前で話し合っている。今日も雲はなく、太陽の光が強く降っている。暑すぎず、過ごしやすい気温だ。


「現状、敵の動きがはっきりしないのが面倒だよね」


 キリカが言った。


「大部隊をまとめてどこかに攻め込むって感じもないし、ただ小さな集団があちこちうろうろしてるだけだ。それがかえって厄介だと思う」


「確かにな。敵の規模も動きも予測できないし、精神衛生上よろしくない」


「やっぱりヘリがほしいね」


「ヘリか……」


「上空から俯瞰できるっていうのは大きなアドバンテージだ。伊豆諸島奪還の前に、自衛隊の兵器をなるべく回収するべきだね」


「しかし、どこの駐屯地もやられてる可能性が高いって藤丸さんも立原さんも言ってたぜ」


「それは東京の話でしょ? 例えばもっと内陸……埼玉とか群馬とか、その辺りからヘリを持ってくることはできると思う」


「なるほどね」


 言われてみればその通りだ。

 東京だけでどうにかしようと考える必要はない。手を貸してもらうことはできるはずだ。


「問題があるとすれば敵の航空戦力なんだけど……堕天使や飛竜を潰してあるから、そんなに危険性はないと思うんだよね」


「はいっ」


 在歌が挙手した。


「藤丸さんには残ってもらわなきゃいけないから、山下さんか池原さんにお願いして、他県の駐屯地まで行ってもらうのはどう?」


 山下と池原は、ともにフタマル式に搭乗していた自衛隊員だ。


「うん、それはお願いした方がいいね。これだけヘリが飛んでいないところを見ると、敵の飛行部隊を警戒していて動けないでいる可能性もあるし」


「誰か護衛もつけるべきよね」


「そうだね。それは話し合って決めよう」


「……ところで」


 ここまで発言していなかった冬姫が口を開いた。


「何やら地響きを感じないか? 私だけか?」


 ――地響き?


 灯希は足元に意識をやったが、よくわからない。


 今度は想波を探ってみた。


 彼のレーダーに引っかかる存在があった。


「ちょっと遠いが……でかいな。何かいるぞ」


「どこから?」


「この方角だと……東都駅の方か? でかいのと、小さいのがたくさんいる。そいつらが動いてるんだ。進行方向は、えーっと……一川市の方だな」


「キャンプ地を狙って移動しているのだな」


「そうらしい。仕方ない、俺たちで迎撃しよう」


 灯希が言うと、三人が頷いた。


     †


 数日前、在歌たちが竜族軍から決死の撤退戦を繰り広げた道路。


 敵の気配はその道路を東進してきているのだった。


「ここでいいかい?」


「オッケーです、ありがとうございます」


 関城のワゴンで送ってもらった四人は、大きな十字路ですぐさま下車した。


「じゃあ、関城さんたちはキャンプ地に戻ってください。で、トドロと花山にすぐ来るよう伝えてもらえますか?」


「その二人だけでいいのかい?」


「陽動作戦だったらキャンプ地が危険になりますから、戦力の分散は最小限で抑えたいんです」


「近接戦闘なら紅蓮も頼ってやってほしい」


 冬姫が言うと、関城が頷いた。


「では、すまないがよろしく頼むよ」


「はい」


 関城のワゴンが離れていった。秘書の滝本も悪路の走行に慣れてきたのか、ハンドルさばきが軽くなっている。


「さて、敵はどいつらかな」


 灯希たちは通りを少し進んだ。道路がやや右にカーブを描いている。その手前で立ち止まり、様子を窺う。


 地響きが灯希にもわかるようになってきた。かなり巨大なガイアの使いが迫っているらしい。加えて小さな反応もたくさんある。兵士級も大勢ついているのだ。


「狭いから、間違えて味方に当てないようにな」


「当然よ。ちゃんと周りくらい見るわ」


「僕は防御中心にやるし」


「私も敵味方の区別くらいはつくさ」


 全員に言い返された。


「それならいいんだ」


 灯希は苦笑い気味に返した。


 地響きが大きくなり、やがて敵が姿を現した。


「……竜族か」


 竜人族の軍勢が隊列を組んで現れた。


 その中に一体だけ、巨大な竜がいた。二足歩行で太い腕と爪を持った竜だ。ワインレッドの体表、顎の周りに白いひげが生えている。


 隊列の先頭にいるのは数珠を下げた竜人――竜法師だ。いま遠距離攻撃を開始しても、奴らの想術で防がれるだけだろう。


「たぶん、イチカワ作戦で撃退した奴らが態勢を立て直してきたんだろうね」


 キリカが冷静に言った。


 一川市を守り切ったイチカワ作戦。あれで竜族軍に膨大な被害が出ているはずだが、それでもまだ三〇〇以上は残っているだろう。数の上では、人間は常に不利だ。


「灯希、どうする?」


 在歌が訊いてくる。


「でかいのを俺が攻撃してみる。みんなには兵士級の方を頼んでいいか」


 在歌とキリカが頷いた。


 冬姫は刀の柄に右手を触れさせているだけだ。


「あれだけの部隊……取りまとめる族長級がいるとは思わないか?」


「ああ、いるだろうな」


「できれば、そやつの相手は私に任せてもらいたいのだが」


「……大丈夫か?」


 トン、と冬姫は胸に手を置いた。


「私の本当の実力をぜひとも見てもらいたい。族長級はそれを示すのに絶好の相手だ」


「……いいけど、死ぬんじゃねえぞ」


「ふふ、お気遣いありがとう。だがまあ見ていてくれ。そんな心配は無用だということを証明してみせよう」


 冬姫は自信ありげに言う。その右手の当たっている胸を見て、在歌が「くっ、どいつもこいつも……」とつぶやいているが、気にしない方がいいだろう。


 今はとにかく正面だ。


 ここで竜族軍を壊滅させ、いい加減反撃に移らなければならない。


 ――なんでも短期決戦だ。


 灯希は全身に想波を行き渡らせていった。

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