合流
灯希たちは数日ぶりに車に乗っていた。
関城が乗っていたワゴンである。ガソリンを補給してようやく動けるようになったのだ。
現在、車は海晴市に向かって走っている。
路面の状態はよくないが、車が走れないほどでもない。
関城は助手席、秘書の滝本が運転席、灯希と在歌、キリカと冬姫というメンバーが後部座席に乗っている。
そしてワゴン車の後方を白い普通自動車が追いかけてくる。
運転しているのは陸上自衛隊の東望駐屯地からやってきた藤丸である。自衛官が一緒にいた方が立原も安心するだろうとの考えから、彼にも同行してもらっているのだった。
話し合いはこのメンバーで行うことになったのだ。冬姫は海晴市周辺の情報に通じているし、キリカは作戦立案に大きく貢献してくれるはずという期待があった。
「しかし、君たちの動きは本当に早いねえ。腰の重たい役人たちにも見習ってほしいくらいだ」
関城が言う。
「まあ、そういうお役人もほとんどいなくなってしまったわけだけどね」
「今回はスピード勝負ですからね。次の将軍がやってくる前に敵の拠点を奪っておかないと」
灯希が返した。
時刻は午後九時になろうとしている。辺りはもう真っ暗で、視界も悪い。敵を完全に排除できたとは言い切れないので、灯希たちガイナーは常に周辺の想波を探っていた。
やがて海晴市に入り、海晴百貨店が見えてきた。超高層ビルが暗闇の中でさらに黒く存在感を放っている。
キャンプ地は薄暗く、ついている照明もわずかなものだった。
ワゴン車はビルの北側で停車する。
「では、行ってみようか」
関城に続いて、灯希たちも降りた。
ワゴンの後ろに藤丸の車も到着する。
全員でキャンプ地の中に入った。
突然現れた一団を、難民たちが怪訝そうに見てくる。
しかし今度は自衛官に国会議員までいる。灯希たちでは得られない信用を、この二人が代わりに得てくれるわけだ。
一団はテントの下でパイプ椅子に座っている立原のところまで行った。立原はテーブルに肘をつき、両手を組んで顎を乗せている。何か考えている風だった。
「こんばんは。わたくし、国進党の関城と申します、初めまして」
立原が素早く立ち上がった。
「これはどうも。立原と申します」
「こちらの少年たちから立原さんのお話を聞きましてね。我々は一川市に拠点を作っているのですが、ここのキャンプ地と連携を取れないものかと考えておりまして、こうしてやってきた次第です」
「おお、そうですか。ここは私が一人で様子を見ているような状況ですので、協力できるのならぜひ」
予想通りだ。
立原はすぐ協力を申し出てくれると思っていた。
「現在、自衛隊の残存戦力がどのくらいかわかりますか?」
関城の質問に、立原は首を振って否定する。
「残念ながら把握しておりません。こちらも不意を突かれてたちまち駐屯地が壊滅させられてしまったので……」
立原は悔しさをにじませて言う。
「戦って敗れたのならまだ受け入れることができます。しかし、何をするでもなく我々はやられてしまったのです。戦車もヘリも、動く前に炎で潰されてしまいました。本当に、悔しい以外に言葉が出てきません」
「心中お察しします。わたくしといたしましては、残った戦力とガイナーの力を合わせて東京からガイアの使いを撃退したいと考えております。そのためには戦力を集めること、民衆の防御を徹底すること、この二つが大切と考えます。敵を倒せてもそれ以上に市民がやられたのでは意味がありませんから」
関城の舌が滑らかに言葉をつないでいく。
「おっしゃる通りですね。私も、ここを大軍に襲われたらひとたまりもないと心配していたところです。マシンガンは一丁しかありませんからね……」
立原は後ろに目をやった。
名称まではわからないが、黒いマシンガンが置かれていた。それ一つあるだけでも、大軍を相手にする時ありがたい。
「敵は洋上から現れますから、海に近いここは今後も脅威に晒される可能性が高いと思います。なので、一川市に移動していただくことはできないでしょうか? そうすると、ガイナーたちがここを前線基地として安心して使うことができるのです」
「ええ、いいでしょう。市民には私から説明します。内陸の方が安全だと考えている方は多いですからね」
すんなり受け入れてくれてよかった、と灯希は安心した。
むしろ一川市の民衆が来い、と言われたらどうしようという不安もあったのだ。
「ところで立原さん、敵は伊豆諸島を上陸の中継地点にしているようです。わたくしたちはそれらの島々を奪還したいと考えているのですが、それには航空機や船舶が必要になってきます。どこか確保できる場所に心当たりはありませんか?」
「うーん……すぐには……。私がいた霞原駐屯地のヘリは全部破壊されてしまいましたし……」
ここで藤丸が前に出た。
「初めまして、第一戦車大隊所属、藤丸三佐です」
立原がすかさず敬礼した。
「お疲れさまです。第一普通科連隊所属、立原二尉です」
「我々も敵の航空攻撃により壊滅的な打撃を受けました。生き延びた者は数名だけです。いま我々が有している戦力はフタマル式一台のみ。他の駐屯地と連絡を取る手段はないでしょうか?」
「ううん……なんとも言えません。この近辺に妨害電波でも流れているのか、無線もつながらない状況が続いています。おそらくどこの駐屯地も攻撃を受けているでしょうし……」
「それでも探す必要があります。手伝っていただけますか」
「もちろん、やれることはやるつもりでいます。近くの駐屯地への連絡も諦めずに継続していくつもりではいました」
藤丸にしても立原にしても、まだ諦めようとはしていない。
灯希からすれば、大人たちが負けと決めつけて無気力になってしまうことが一番つらいのだ。
四年前の絶望的な戦況の中でも、自衛隊員たちは最後まで諦めず戦い抜いた。
こうした人々がいてくれるからこそ、ガイナーも全力を発揮できるのだ。
無事な自衛隊員がさらに集まってくれることを、灯希は祈った。




